初代最高裁判所長官を務めた三淵忠彦(1880~1950年)の別邸は神奈川県小田原市板橋にある。昭和初期に建てられた数寄屋風の家で、後に「三淵邸・甘柑荘」と名を付けられた。4月1日に始まるNHK連続テレビ小説「虎に翼」のヒロインのモデルとなった日本初の女性弁護士で裁判官、三淵嘉子(1914~84年)ゆかりの家でもある。28日から金曜日と日曜日に定期公開する。
忠彦は戦前に裁判官となり、25(大正14)年に退官した。その後、「信託法」の専門家が必要だと請われて三井信託株式会社の法律顧問に就任。裁判官在職中から慶応義塾大学の講師も続けた。
別邸は昭和初期に、忠彦が建てた。四男の燦四郎(さんしろう)が病弱で療養のためだと伝わる。「美しい暮らしの手帖 第七号」(50年季刊第1号)に掲載された忠彦の寄稿によれば、建築家の佐藤秀三に「玄関のない、床の間のない、一切の装飾のない家」と注文している。
空襲で45(昭和20)年5月に東京・渋谷の自宅を焼失した忠彦は65歳で小田原のこの邸宅に移り住み、隠居暮らしを始めた。その2年後、新憲法の下で発足した最高裁の長官に抜てきされた。
「虎に翼」のヒロイン、「猪爪寅子」のモデルとなった嘉子は忠彦の長男乾太郎の妻だ。日本初の女性弁護士の一人であり、戦後、女性初の判事、裁判所長となった。嘉子は56年に乾太郎と再婚した後も、小田原の邸宅を別荘として大事に使っていた。
三淵嘉子
◇ 忠彦は記者の曽祖父にあたる。親族が所有している小田原の邸宅を維持するのは容易でなかったため、2019年に保存会を作った。庭に柑橘類が多かったことから邸宅を「三淵邸・甘柑荘」と名付け、保存会は今年、一般社団法人となった。「三淵邸・甘柑荘」から、邸宅に残る資料や忠彦や嘉子らについて報告する。【本橋由紀】
◇三淵邸・甘柑荘 <住所>小田原市板橋882=箱根登山鉄道・箱根板橋駅から徒歩約5分、小田原駅から徒歩約25分 <問い合わせ>毎日新聞小田原通信部=0465・32・2217