手塩にかけた老舗みそ「努力は水の泡」 紅麹問題で倉庫に山積み(2024年4月1日『毎日新聞』)

 
健康被害の報告が相次いでいる小林製薬の紅麹コレステヘルプ=兵庫県明石市で2024年3月28日、石谷浩子撮影
健康被害の報告が相次いでいる小林製薬の紅麹コレステヘルプ=兵庫県明石市で2024年3月28日、石谷浩子撮影

 小林製薬大阪市)が販売した「紅こうじ」成分入りのサプリメントを巡って健康被害が相次いでいる問題で、原料を仕入れていた各地の中小業者が窮地に立たされている。「これまでの努力が水の泡だ」。手塩にかけて開発した看板商品が倉庫に山積みになり、詳細な情報を知らされないまま取引先との対応を迫られている老舗メーカーもある。

 「子どものように大切に、大切に育ててきた商品なんですよ。それが一瞬でパーになってしまうなんて……」

 大正時代から続く岡山県備前市のみそ製造・販売会社「馬場商店」を営む馬場敏彰さんは怒りを隠さない。売れ筋の「紅糀(こうじ)みそ」を含め計11商品に小林製薬の紅こうじ原料を使用していた。

 小林製薬が3月22日にサプリメントを巡る健康被害を初めて公表してから間もなく、馬場商店も自社商品の回収を決めた。出荷停止分も含め、倉庫にはあっという間に1000個のみそが山積みになった。

小林製薬が事業譲り受け

 「からだにやさしくおいしい食品」にこだわり、厳選した材料で大正からみそ製造の歴史を紡いできた。

 約30年前、紅こうじの抗菌作用に着目したのは馬場さんだ。「夏場にみそ汁を作り置きしても腐らない商品を造れないか」。当時原料を製造していた大手繊維メーカーの協力を仰ぎながら従業員らと研究を重ね、7年間かけて紅糀みそを完成させた。

 馬場さんは「『大切に造ったみそを消費者に捨ててほしくない』という従業員の願いが込められた商品だった」と話す。

 2016年、小林製薬が大手繊維メーカーから紅こうじに関する製造・販売事業を譲り受けたことをきっかけに、同社の紅こうじ原料を商社を介して仕入れるようになったという。

対応情報、伝えられず

 馬場商店は、厚生労働省が最終的な流通先として公表した173社の中に含まれている。ただ、直接の取引ではないため、小林製薬から現在の状況や今後の対応に関する情報は伝えられていない。

 1日あたり1000件近い問い合わせが取引業者や消費者から殺到し、社内にある数台の電話は鳴りっぱなしの状態で通常業務に支障が出ている。数人の従業員が対応に追われるが、詳しい情報がないため、小林製薬の相談窓口を伝えることぐらいしかできない。

 最も懸念しているのは、経営に与えるダメージだ。紅こうじの関連商品は売り上げ全体の約2割を占め、会社のブランド力を支えてきた。問題になっているのは小林製薬のサプリ商品だけだが、紅こうじを使った商品全体への風評被害に対する不安も尽きない。

 「小林製薬の記者会見で補償の話も出ていたが、そんなものだけで済む話じゃない。顧客からの信頼をどのように取り戻していったらいいのだろうか」。そう頭を抱える馬場さんは、同社への損害賠償請求を含めて対応を検討している。【二村祐士朗】