宝塚歌劇団 劇団員死亡 パワハラ認め謝罪 再発防止策を公表(2024年3月29日『NHKニュース』)

宝塚歌劇団に所属する25歳の劇団員が死亡し、遺族側が謝罪と補償を求めていた問題で、歌劇団側は28日にパワハラがあったことを認め、遺族側に謝罪しました。あわせて、稽古スケジュールの見直しなどを柱とした再発防止策を公表し、今後は「現場任せ」となっていた運営を変えていけるかが問われることになります。

去年9月、宝塚歌劇団宙組に所属していた25歳の劇団員が死亡し、遺族側が上級生からのパワハラなどが原因だったとして謝罪と補償を求めていた問題で、歌劇団側は28日に記者会見を開き、遺族側と合意書を締結したことを明らかにしました。

パワハラがあったことを遺族側に認めた上で、歌劇団を運営する阪急電鉄の親会社、阪急阪神ホールディングスの角和夫会長らが遺族に直接面会し、謝罪したということです。

あわせて歌劇団側は再発防止策を公表し、稽古スケジュールの見直しなどで負担を軽減するほか、伝統的に受け継がれていたルールや指導方法のうち、時代に合わなくなったものを廃止したり、ハラスメント研修を拡充したりして、劇団員らの意識改革を促すとしています。

さらに、阪急電鉄に外部の有識者で構成する新たな組織を設置して改革の助言を受けるなど、グループとして運営への関与を強める体制を整えるとしています。

記者会見で阪急阪神ホールディングスの嶋田泰夫社長は「新しい宝塚歌劇団に生まれ変わったと認めていただけるよう、全力で改革に取り組んでまいります」と述べていて、今後は「現場任せ」となっていた運営を変えていけるかが問われることになります。

 

2024年3月28日 
阪急阪神ホールディングス株式会社 
阪 急 電 鉄 株 式 会 社 
宝 塚 歌 劇 団 
宝塚歌劇団宙組劇団員の逝去に関するご遺族との合意書締結のご報告 並びに再発防止に向けた取組について 


このたびの宝塚歌劇団宙組劇団員の逝去を受け、ご遺族の皆様には心よりお詫び申し上げます。 
阪急阪神ホールディングス株式会社(以下「阪急阪神HD」といいます。)、阪急電鉄株式会社(以下「阪急電鉄」といいます。)及び宝塚歌劇団(以下「劇団」といいます。)は、このたびの劇団員の逝去(以下「本件」といいます。)につきまして、2024年3月28日にご遺族との間で合意書を締結いたしましたことをご報告申し上げます。また、再発防止に向けての取組の状況についても併せてご報告申し上げます。 

1.合意書の締結について 
合意内容の要旨は、別紙1「合意書の締結及び合意内容要旨」に記載したとおりです。阪急阪神HD並びに阪急電鉄及び劇団は、外部弁護士からなる調査チームの調査報告書の内容のみにとどまらず、ご遺族代理人から提出された意見書の内容を踏まえ、代理人を通じてご遺族との協議を重ねた結果、亡くなられた劇団員(以下、本段落では別紙1の用語に従い「被災者」といいます。)に対し、長時間の活動を余儀なくさせ過重な負担を生じさせたこと、及び、劇団内において、厚生労働省指針(令和2年厚労省告示第5号)が示す「職場におけるパワーハラスメント」に該当する様々な行為を行ったことによって、被災者に多大な心理的負荷を与えたことを認めるとともに、劇団が経営陣の怠慢(現場における活動への無理解や無配慮等)によって長年にわたり劇団員に様々
な負担を強いるような運営を続けてきたことがかかる事態を引き起こしたものであって、全ての責任が劇団にあることを認め、かつ、被災者に対する安全配慮義務違反があったことを認めました。 
合意書調印の席には、阪急阪神HD代表取締役会長グループCEO角和夫をはじめとする関係者が出席し、ご遺族に対し謝罪を申し上げ、本件と同様の事態を二度と生じさせないよう、健康な職場をつくるために全力を尽くすことをお誓いいたしました。 
あらためて、亡くなられた劇団員のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族には心よりお詫び申し上げます。 


2.再発防止に向けた取組について 
宝塚歌劇団は、創設以来約110年にわたり、お客様に良質な舞台をお届けすべく取り組んでまいりました。特に、1990年代後半以降は、新劇場の開場や観劇人口の拡大に伴って、より多くのお客様に観劇いただけるようになり、これら需要の拡大に対応するため、興行数や公演回数の最大化に努めてまいりました。 
 その一方で、公演スケジュールが過密になっていくとともに、舞台の高度化や複雑化に伴って組織全体の負担が増大し、これに伴い現場の負担が増加の一途を辿るなかで、そうした負担を軽減する措置や現場をサポートする体制の整備が追いついていませんでした。さらに、そのような状況にある現場の意見に耳を傾け改善に繋げる仕組みや環境整備も十分ではありませんでした。

 その結果、劇団員をはじめとする出演者やスタッフは、時間的にも精神的にも追い詰められた状況におかれておりましたが、かかる状況を放置し、またその中で、行き過ぎた指導・叱責がハラスメントに該当する可能性があることや、互いに尊重しあう関係のあり方などについて考えるような教育・研修の機会を設けることもしなかった阪急阪神HD並びに阪急電鉄及び劇団の責任は、極めて重いと考えております。 
 このように、阪急阪神HD並びに阪急電鉄及び劇団は、これまでの組織運営に大きな不備があったこと、その結果、「現場任せ」の運営となり、劇団員をはじめとする出演者やスタッフに様々な負担を強いるような状況が続いてきたことを、痛切に反省しております。これらの方々に対しても、心からお詫び申し上げます。加えて、阪急阪神HD及び阪急電鉄は、このような劇団運営に関し、適切な管理を怠り、実効性のあるガバナンス体制を構築できていなかった事実について重く受け止めております。 
 以上を踏まえ、本件と同様の事態を二度と生じさせないという強い決意のもと、三者が一体となって改革を推し進め、劇団員をはじめ宝塚歌劇の運営に携わる全ての関係者が、安心してより良い舞台づくりに専念できるよう、宝塚歌劇を、新しい時代に相応しい形で受け継いでいけるよう、全力で改革に取り組んでまいります。 
 なお、現時点で実施・予定している再発防止に向けた取組の内容は、別紙2に記載のとおりです。
 今後、これらの取組を着実に実行していくとともに、必要な見直しやさらなる改善策を検討してまいります。 
以上 


【皆さまへのお願い】 


 本件は、劇団の組織運営の怠慢等がもたらしたものであり、その責任を負うべきは劇団でありますので、本件に関する劇団へのご意見・ご批判に対しては、重く受け止めて改革に努めてまいる所存です。本件に関し、ご遺族に対するSNS等での誹謗中傷や、劇団員個人に対するSNS等での誹謗中傷が確認されておりますところ、このような誹謗中傷は差し控えていただきますよう、切にお願い申し上げます。 

 

別紙1 
合意書の締結及び合意内容要旨 

1. 合意書の締結 
遺族代理人 
阪急・劇団代理人 
宝塚歌劇団宙組劇団員(以下「被災者」という)が2023年9月30日死亡した件(以下「本件」という)につき、被災者遺族(以下「遺族」という)と阪急阪神ホールディングス株式会社、阪急電鉄株式会社、宝塚歌劇団(以下、三者を「阪急・劇団」という)は、2024年3月28日、要旨下記のとおり合意に達したので、合意書を締結した。 


2. 合意書の調印と出席者 
合意書調印の席には、双方代理人の外、遺族、角和夫阪急阪神ホールディングス株式会社代表取締役会長グループCEOが出席した。角会長は、本件について、遺族に対して謝罪した。 


3. 合意内容の要旨は次のとおりである。 
(1) 阪急・劇団は、被災者に対し、長時間の活動を余儀なくさせ過重な負担を生じさせたこと、及び、劇団内において、4に要旨記載のとおり、厚生労働省指針(令和2年厚労省告示第5号)が示す「職場におけるパワーハラスメント」に該当する様々な行為を行ったことによって、被災者に多大な心理的負荷を与えたことを認め、劇団が経営陣の怠慢(現場における活動への無理解や無配慮等)によって長年にわたり劇団員に様々な負担を強いるような運営を続けてきたことがかかる事態を引き起こしたものであって全ての責任が劇団にあることを認め、かつ被災者に対する安全配慮義務違反があったことを認め、謝罪する。 
(2) 阪急・劇団は、本件と同様の被害が二度と生じないよう、健康な職場を作るために全力を尽くすことを約する。 
(3) 阪急・劇団は、遺族に対し、本件に伴う慰謝料等解決金として相当額の金員を支払う。 


4. 上記3(1)の様々な行為の要旨は以下のとおりである(なお、以下の「本件新人公演」とは、2023年10月19日に開演される予定であった宙組下級生による新人公演をいう)。 
(1) 2021年8月14日、宙組上級生が、被災者が自分でやることを望んでいたにもかかわらずヘアアイロンで被災者の髪を巻こうとして、被災者の額に1か月を超えて痕が残るほどの火傷を負わせたこと、及び、それにもかかわらず、当該宙組上級生は、真に被災者の気持ちを汲んだ気遣い・謝罪を行わなかったこと。 
(2) 2021年7月20日の新人公演の直前の2日連続深夜に、宙組上級生の指示により、被災者が髪飾りの作り直しの作業を行うこととなったこと。 
(3) 2021年8月頃、宙組上級生が被災者に対し、新人公演のダメ出しで人格否定のような言葉を浴びせたこと。並びに、宙組プロデューサー(当時)がこれを認識しながら放置し、対処をしなかったこと。 
(4) 2023年2月3日、宙組幹部4名が被災者を会議室に呼び出したこと、並びに、その後宙組生全員の集まりをひらいたことにより、被災者が過呼吸の状態になるほど大きな精神的負担が生じたこと。 
(5) 宙組プロデューサーが前(4)項の会議室を確保し、被災者が精神的負担を受ける場を設定したこと、並びに、被災者が組替えを求めたことに対しこれを無視したこと。 
(6) 2023年2月1日、劇団が、上記(1)の事件につき、「全く事実無根」との見解をホームページ上で発表したこと。 
(7) 劇団が、被災者に対し、死亡前直近1か月間において、過大な業務量を課し、長時間業務を行わせたこと。 
(8) 本件新人公演に向けた準備において、「振り写し」が必須ではなく、また本件新人公演の演出担当者が「振り写し」を行う必要はないと言っていたにもかかわらず、宙組幹部が、被災者に対して、「振り写し」を行うべきであると指導し、その結果、被災者に一層の過重な業務が課せられたこと。 
(9) 本件新人公演に向けた準備において、「お声がけ」を行うことは必須ではなく、被災者を含む下級生に負担が生じる状況であったにもかかわらず、宙組幹部が「お声がけ」を行う必要はないと宙組生に指導せず、その結果、被災者に一層の過重な業務が課せられたこと。 
(10) 本件新人公演に向けた準備において、本件新人公演の演出担当者の怠慢により、被災者が同人の業務を肩代わりせざるを得なかったこと。 
(11) 2023年9月2日、本件新人公演の配役表に関して、宙組幹部が、午後10時以降の深夜帯に被災者を指導・叱責し、これにより被災者が午後11時50分になっても帰宅できない状況になったこと。 
(12) 2023年9月下旬、宙組幹部が、被災者に落ち度がないにもかかわらず、「振り写し」に関し、被災者を指導・叱責したこと。 
(13) 2023年9月27日、下級生による衣装の取り扱いに関する衣装部門からの苦情に関し、被災者に落ち度がないにもかかわらず、宙組上級生が被災者に対し、下級生の失敗は被災者の責任であるとして指導・叱責したこと。 
(14) 2023年9月28日又は同月29日、宙組上級生Aが、被災者に落ち度がないにもかかわらず、「お声がけ」に関し、被災者を大きな声で指導・叱責したこと。その後、宙組上級生Aが、別の宙組上級生Bを呼び出し、被災者について指導したうえで、宙組上級生Bが、他にも宙組上級生がいる中で、被災者に嘘をついているかと繰り返し詰問したこと。 
以上 


別紙2 
再発防止に向けた取組(劇団の改革)について 
宝塚歌劇団及び阪急電鉄並びに阪急阪神HDが連携して、以下の改革に取り組んでまいります。 
1. 興行計画の見直し(興行数・公演回数の削減) 
興行数・公演回数の最大化に努めてきた結果、公演スケジュールが過密化し、出演者やスタッフに過重な負担が生じていたことを省み、既に公表しておりますとおり、今後は、以下のとおり、興行計画を見直し、より充実した舞台をお届けできる環境を整備します。 
① 年間9興行から8興行体制への変更(2024年1月より実施済) 
・公演間のインターバルを増やし、前公演の千秋楽から次公演の稽古開始までの間に、一定期間の休日を確保します。 
② 1週間あたりの公演数を10回から9回に変更(2024年1月より実施済) 
・昨今の振付や音楽等の高度化に伴う出演者やスタッフの負担を軽減します。 
2.組織的なマネジメントやサポートを強化するための体制・システムの整備 興行計画の見直しと併せて、以下の取組を含め、現場のサポートやケアを行う体制・仕組みを強化し、出演者やスタッフが良好なコンディションのもと活動に打ち込める環境を整備します。 
① 稽古スケジュールの見直しと時間管理の強化 
・稽古スケジュールの見直し 
演出の高度化・複雑化に伴い、公式稽古を補完するための自主稽古が増加している状況に鑑み、上記興行計画の変更と併せて、稽古期間を延長する等、稽古スケジュールを見直します。 
・新人公演の実施日程・運営方法の見直し 
宝塚大劇場の新人公演の実施日を従前から1週間遅らせるとともに、新人公演の稽古開始日を本公演初日後の休演日翌日からとします(2024年7月雪組宝塚大劇場公演より実施予定)。また、新人公演の稽古の運営方法を見直し、出演者の負担を軽減します(2024年1月雪組東京宝塚劇場新人公演より実施済)。 
・活動時間管理の強化 
より良い舞台づくりのために活動時間が長時間に及ぶ傾向にある状況に鑑み、劇団施設への入退館時間の制限を強化し、在館可能時間を短縮するとともに、客観的な入退館時間を記録できる体制を整備します(2024年4月より実施予定)。 
② 劇団員の心身の健康管理体制の強化 
・常設カウンセリングルームの開設や(2023年11月より実施済)、専門医への相談ルートの拡充(2023年10月以降、順次実施中)など、メンタルケアの体制を強化します。 
・診療所医師の勤務時間拡大等により、サポート体制を強化します(2024年1月より順次実施中)。 
③ 現場の問題を把握し、意見を吸い上げる仕組みの強化 
・劇団専用の外部相談窓口を開設し、劇団員の意見を経営層に届ける仕組みを整備します(2024年2月より実施済)。 
・各種相談窓口(既存相談窓口を含む)の劇団員への周知徹底と利用促進を行います(2024年2月以降、順次実施中)。 
・職場環境(心理的安全性※)に関する匿名アンケートを実施します(2024年1月以降、順次実施中)。 
※健全に意見を交わし、生産的でより高い成果を生み出すことに注力できるチームや組織の状態 
④ 内部監査体制の強化 
阪急電鉄の内部監査部に宝塚歌劇団担当を配置し、定期的に劇団に対する業務監査を行う体制を整備します(2024年4月より実施予定)。 
3.劇団員及び関係者の意識改革・行動変容を促す取り組み

宝塚歌劇団には、技芸の伝承や安全に舞台を務めるための様々なルールや慣習がありますが、中には、古くからの伝統や慣習が積み重なり、非効率になっているケースや、過剰な気遣いや負担が生じているケースもあることから、常に時代に合わせてルールや指導方法を見直し、意識改革を図りながら伝承してまいります。 
① 過去から伝承されてきた慣習・しきたり・指導方法の見直し 
・舞台人としての技芸やマナーの向上等のため、劇団員の中で伝承されてきたルールや指導方法について、非効率・不必要となったものを廃止・合理化・改善します(2024年1月以降、順次実施中)。 
・匿名で投稿できる意見箱を設置し(2023年12月より実施済)、要望事項に対して劇団員の代表や関係先と協議の上、順次改善を実施します。 
② 出演者・スタッフの役割分担の見直し、人材育成の強化 
・ハラスメント研修、リスペクト研修、コーチング研修など、各種研修を拡充します(2023年12月以降、順次実施中)。 
・稽古用小道具の準備や段取りに関する役割の見直しにより出演者(下級生)の負担を軽減します(2024年1月以降、順次実施中)。 
・IT ツールの導入により、各種連絡・情報共有・データ共有等の円滑化・効率化を図り、出演者やスタッフの負担を軽減します(2024年中に実施予定)。 

4.劇団の改革を実効性の高いものとするためのサポート体制の整備 
阪急電鉄において、外部有識者で構成されるアドバイザリーボードを2024年4月1日付で設置し、改革の内容について、専門的知見から助言をいただき、今後の劇団運営に生かしてまいります。メンバーは、ガバナンスや内部統制、法律関連、組織風土改革や心理的安全性、演劇制作など、様々な専門分野の方々にご参画いただく予定です。 
持株会社である阪急阪神HDにおいてはコンプライアンスの強化等に向けた取組を進めてまいります。また、取締役会や監査部門による監視機能を強化してまいります。 
・併せて、近年のリスク管理の重要性の高まりを受けて、グループ全体のリスク管理の統括機能を担うため、阪急阪神HDにおいて、社長直轄の組織として「リスクマネジメント推進室」を2024年4月1日付で新設し、同室においてグループにおける潜在的なリスクの有無の確認や、グループ内各部門におけるリスクの評価に対する客観的な検証等を行うことで、グループ全体のリスク管理を強化することとしております。劇団についても、この体制のもとで、より適切にリスクを管理してまいります。 
以上