「ホストに会いに…」夜の公園、ベンチで雨に打たれる19歳 支援は(2024年3月27日『毎日新聞』)

ぐるぐるカーを使った活動の準備をするボランティア=千葉市中央区中央1で2023年12月26日午後6時40分、長沼辰哉撮影

ぐるぐるカーを使った活動の準備をするボランティア=千葉市中央区中央1で2023年12月26日午後6時40分、長沼辰哉撮影

 毎月1回、JR千葉駅近くの繁華街にある公園に、1台の白いワゴン車がやってくる。さまざまな悩みを抱える女性を支援している一般社団法人「マザーズコンフォート」(千葉市若葉区)の動く活動拠点「ぐるぐるカー」だ。食べ物や生理用品を配ったり、スタッフが話し相手になったりし、女性のよりどころになっている。

 「こんばんは。使い捨てカイロやコスメを無料で配っています」。冷たい風が吹く2023年暮れの夜。ホテルや雑居ビルに囲まれ、夜間も若者が多い同市中央公園(同市中央区)で、同法人の大谷明子代表(52)やスタッフら約10人が行き交う若い女性に声をかけていた。

 話に応じれば、近くに止めたワゴン車に案内。荷台や隣に設置しているテントにはお菓子やカップ麺といった食料品、コスメや生理用品などが並んでおり、自由に手に取るよう勧めた。「これかわいいよね」「ちゃんと食べてね」。気さくに話しかけ、相談窓口の連絡先が書かれたピンクのカードを渡した。

ぐるぐるカーの後部ドアを開けるとアメニティー用品などが並ぶ=千葉市中央区中央1で2023年12月26日午後6時34分、長沼辰哉撮影
ぐるぐるカーの後部ドアを開けるとアメニティー用品などが並ぶ=千葉市中央区中央1で2023年12月26日午後6時34分、長沼辰哉撮影

 ワゴン車はワンボックス型で、つながりのある別の福祉団体から借りたもの。車内には折りたたみ式の棚があり、座って相談を受けるスペースも用意している。物資はフードバンクから寄付を受けるなどして調達し、毎月1回、この公園で活動を続けている。

 この日、ワゴン車には午後7時ごろから約2時間で、10、20代を中心に約20人が立ち寄った。

 同市の生活困窮者支援事業で委託された相談員を務めてきた大谷さんは、行政のみでは女性への支援が不十分だと感じて手助けを始め、仲間と19年6月に同法人を設立した。当時はワゴン車はなく、事務所を拠点に、産前産後の困りごとがある母親を訪問して支援したり、家出中の若い女性に一時的に部屋を貸して居場所を提供したりしてきた。

 支援活動を始めて感じたのが、問題を抱えた女性から話を聞くことの難しさだった。「悩みを抱える前に、多くの女性に活動を知ってもらって、つながりを作ろう」――。そんな思いで22年1月にワゴン車を走らせ、自分たちから女性に声をかける活動を始めた。

ワンボックスカーの内装を一部改造して完成したぐるぐるカー=マザーズコンフォート提供(画像の一部を加工しています)
ワンボックスカーの内装を一部改造して完成したぐるぐるカー=マザーズコンフォート提供(画像の一部を加工しています)

 当初は車中から女性に声をかけていたが、田中照美副代表(45)は「初めは歩いている女性が不審に思って逃げてしまうこともあった」。同年3月からは公園に停車して、周囲を歩く女性に呼びかけるようにした。

 スタイルを変えた初日の夕方、雨が降っているのに傘を差さず、体を震わせながら公園のベンチに座りこんでいる女性がいた。「温かい飲み物あるよ」。メンバーが声をかけると驚いた表情を浮かべたが、車内で話を聞くことができた。

 名古屋市の19歳。コーンスープを差し出すと、少しずつ自分の話をするようになり、「こっちにいるホストと付き合っていて、会いに来た」と打ち明けた。話を始めてから約2時間後、立ち去る女性に「困ったら電話してね」と連絡先が書かれたカードを渡し、見送った。

 女性からその後連絡はなく、どうなったのかは分からない。それでも田中さんは「この女性と出会ったことでぐるぐるカーの必要性を感じ、活動を続けていこうと思った」と振り返る。

マザーズコンフォートの大谷明子代表(右)と田中照美副代表=千葉市中央区中央1で2023年12月26日午後8時22分、長沼辰哉撮影
マザーズコンフォートの大谷明子代表(右)と田中照美副代表=千葉市中央区中央1で2023年12月26日午後8時22分、長沼辰哉撮影

 車を使った活動を始めて2年。ネット交流サービス(SNS)などで徐々に認知が広がり、今は頼ってくる女性も増えた。23年には1カ月に100件を超える相談が電話やLINE(ライン)で寄せられたこともある。

 大谷さんは「今やっているのは、困った時につながることができるようにするための『種まき』。活動を続け、さらに多くの人に知ってもらい、困っている人に寄り添って受け入れる場所や地域を目指す」と意気込んでいる。【長沼辰哉】