人生100年時代へ「60歳定年は早すぎる」 92歳現役看護師が指南する健康長寿の秘訣(2024年3月17日『産経新聞』)

戦後から現代に至る看護の歴史を担ってきた日本赤十字看護大学名誉教授で、92歳の現役看護師でもある川嶋みどりさんが、健康長寿を説いた本『長生きは小さな習慣のつみ重ね―92歳、現役看護師の治る力』(幻冬舎)を刊行した。今や日本は、100歳以上の高齢者が9万人を超える超高齢社会。人生100年時代を幸せに自分らしく生きるヒントがつまっている。

 

【写真】小児科病棟で働いていた頃の川嶋みどりさん

 

■小さな習慣積み重ね

 川嶋さんは昭和26年から20年間、日本赤十字社中央病院(現・日本赤十字社医療センター)で看護師として勤務。結婚退職が当たり前だった時代に、結婚、出産を経て2人の子供を育てながら仕事を続けた。40代からは、看護の教育、研究に携わって50年余り。70代には日本赤十字看護大学看護学部長を務め、92歳の現在も、全国での講演や執筆活動に励んでいる。

 本書では、生涯現役を貫く川嶋さんが自らの経験を交えながら健康長寿について論じている。食べる、働く(動く)、眠る、休養を取る、体を清潔にする…。「ストレスにならない範囲で、当たり前の小さな習慣を無理なく積み重ねることが大切」と語る。

 80歳の時、東日本大震災の被災地で支援活動を行った。リタイアした看護師仲間とチームを組んで仮設住宅を回り、被災者の健康相談に乗ったり、フットケアをしたり。現在も支援活動は続けており、その経験から、「現役を退いた人間にも社会での活躍の場はある」と実感し、「60歳や65歳での定年退職は早すぎる」と強調する。

 看護の現場は人手不足だ。「高度な医療機器の操作は若手に任せて、まだまだ元気な年配の看護師が患者に寄り添って話を聞いたり、体をさすったりと、看護で一番大切なケアができる」。 体が動くうちはどんどん働いて生きがいを持つことが、健康の維持や認知症の予防にもつながり、人材活用がさまざまな分野に潤いをもたらす、というのだ。

■悲しみに時効はない

 「看護師になってから休んだのは、息子たちを出産した2回の産後休暇くらい」と川嶋さん。仕事と家庭の両立は、夫との二人三脚で乗り切った。

 「看護の仕事を一生懸命やると主婦の能力も高まるし、その逆もしかり。看護の仕事は、暮らしや、全ての社会事象と結びついている」 看護の現場では幼い子供から高齢者まで、さまざまな死をみとってきたが、「本当の意味での別離の悲しみを知ったのは、息子の死があってから。他者の悲嘆に心の底から寄り添えている気がする」と明かす。  

 川嶋さんは、20歳だった長男を不慮の事故で亡くした。その報に接したとき、「泣くというよりも、転げまわって吠(ほ)える感じの苦しみだった」と振り返り、「悲しみに時効はない」とも話した。それから40年以上、息子の遺影の前にコーヒーを供え、語りかけるのが毎朝の日課となっているという。誰しも天寿を全うし、自分らしい最期を迎えたいと願うが、不慮の死を遂げるケースもある。「命」の最前線に立ち続ける川嶋さんは力を込める。

 「難治性疾患や事故や事件、戦争や災害など、人間の知と力で防げる死は、なんとしても防がないといけない」(横山由紀子)

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