アラブ王族による英紙買収、政府が阻止へ 「報道の自由を売るな」(2024年3月16日『毎日新聞』)

スーパーでも売られている英紙デーリー・テレグラフ=ロンドンで2024年1月20日、ロイター
スーパーでも売られている英紙デーリー・テレグラフ=ロンドンで2024年1月20日、ロイター

 アラブ首長国連邦UAE)の王族らが英保守系有力紙「デーリー・テレグラフ」を発行するテレグラフ・メディア・グループの買収に乗り出し、英政府がこれを阻止する動きに出ている。UAEでは自由な報道が制限されており、権威主義的な外国のグループに新聞社を売るべきではないとの声が高まっている。

 デーリー・テレグラフ1855年創刊と歴史が古く、タイムズやガーディアンと並ぶ英国の伝統ある有力紙の一つ。保守党に近いことで知られ、かつてはジョンソン元首相も記者として働いていた。日曜版のサンデー・テレグラフは姉妹紙。

 英メディアによると、UAEと米国の投資会社による合弁投資会社「レッドバードIMI」は昨年11月、テレグラフ側の巨額負債を返済するかわりに経営権を取得することで合意した。買収額は6億ポンド(約1130億円)に上り、正式な買収計画が進行中と報じられている。この合弁投資会社は、UAE副大統領兼副首相で、サッカーのイングランド・プレミアリーグマンチェスター・シティーのオーナーでもある王族のマンスール氏が株式の75%を保有している。

 こうした状況に英国では与野党から懸念の声が相次いでいる。与党・保守党のフォーサイス上院議員は13日、議会で「報道の自由を売りに出してはいけない。人権感覚に乏しい独裁国家が英国の日刊紙を所有するという考えは、あまりに非現実的だ」と訴えた。

 普段はデーリー・テレグラフから批判されることが多い最大野党・労働党からも、「労働党が(同紙を)助けようとするのは皮肉だが、国家の干渉を受けない自由で公正な報道が重要だ」(バッサム上院議員)との声が上がった。

 英政府は13日、買収を事実上阻止する法案の概要を明らかにした。ロイター通信によると、新聞社などの買収・合併の際、その社が外国の影響下に置かれると判断された場合は、政府が計画の撤回を命じることができるとの内容だ。法案は3月中に議会に提出され、その後審議に入る見通しという。

 英国では、オンライン新聞「インディペンデント」の株式を既にロシアやサウジアラビアの富豪らが保有している。だが今回の法案は、過去の案件には適用されないという。

 国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(本部パリ)が発表した2023年の「報道の自由度ランキング」では、UAEは180カ国・地域中145位だった。反政府的な活動家やジャーナリストへの不当な拘束、拷問も頻繁に起きているという。【ロンドン篠田航一】