小泉今日子「何かが変わるときって、痛みもともなうと思うんです」 芸能界やメディアの世界の転換点を語る(2024年3月9日)

■社会のアップデートを

──小泉さんは1982年にデビューしてから、ご自身の明確な意志を持ち、新たなアイドル像、女性像を自ら切り開き続けてきたと思います。小泉さんのように声をあげ、自分の意志で行動する女性の存在はますます求められていますが、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位と、とても低いです。

小泉:そうですね。子どもの頃、テレビのニュースで流れるピンクのヘルメットをかぶって何かを訴えている中ピ連(編集部注:中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合。1972年設立。人工妊娠中絶の制限への反対と、ピル解禁を目指した)のみなさんを少し怖いと感じていましたし、私自身、お父さんが働いて、お母さんはご飯を作って洗濯をしてといった古い価値観のなか、なんとなく恋愛をして、結婚して、ということを何の疑いもなく目指していた部分はあったと思います。

 だけど実際に結婚してみたら、あれ、なんか違う? 仕事に関しても、ちょっとずつあれ?と思うようなことが増えてきて。そういうときに、それこそ中ピ連の時代から、女性に開かれた社会のために誰かがちょっとずつ石を投げてくれていたんだと気がついて。フェミニズム的なことを理解している人が増えているとはまだまだいえないし、女性議員の数も少ない。大きなところでいきなりというのはなかなか難しいから、たとえば地方からとか、少しずつ変わっていけたらいいのかなとも思います。社会全体がルールや思いをアップデートできたら、男性も女性も幸せになれるんじゃないかってよく思います。

■変化には痛みともなう

──2015年に個人での制作会社「明後日」を設立したあと、18年に所属事務所から独立しました。

小泉:もともと偉い人や古いルールが嫌い、みたいなところはあって(笑)。どこかの組織に属していれば、そこのルールはあります。若いころはそのルールの隙間をかいくぐっていろんなことを考えるのが楽しかったんですけど、50代が見えてきたあたりで、やっぱりそのルールの中だけでは収まりきらない思いがあって。だったらもう出るしかないと思いました。今はそのころ思ったことが少しずつ実現しはじめているところですね。

──最近、対談やラジオ番組での、現在のバラエティー番組のあり方や芸能界の悪しき慣習などについての発言が注目され、どこか“ご意見番”のような扱いをされることもあります。

小泉:対談での「バラエティーはくだらない」みたいな発言は、言い方がきつかったかなと思ったのですが、実際に言っちゃったことですしね。そういう発言に触れることで、今まで意識したことがなかった人が「確かに」と思ったり、考える時間が生まれると思うんですよ。結局真ん中にいる人が動かないと世の中が変わらない気がします。発言を切り取られたり攻撃的な見出しをつけられて拡散されるのは不本意ではあるんですけど、それで真ん中の人の目に留まったり、考えるきっかけになるんだったらいいのかなって。

──いま、芸能界やメディアの世界は大きな転換点を迎えていると思います。

小泉:芸能界もメディアも、いろんなしがらみが複雑な構造になりすぎて、山みたいになっていて。その山は決して動かないと思っている人もいるでしょうし、動かしてもらったら困るっていう人もいるでしょう。それでもその山がほころび始めている感じは確実にあって。そういう時って、きっと世の中が変わる。でも、何かが変わるときって、痛みもともなうと思うんです。だけどその痛みはきっと希望につながるものなんだとみんながとらえられれば、少しは風通しもよくなるのかな。 ■私、全然変わってない

──20年に「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけSNSに投稿したことも話題となりました。

小泉:批判を受けて投稿を削除した若いアーティストもいました。だけど削除しないという意志を持つ大人もいないといけないのかなっていう感覚を、そのときに感じました。もう42年もやってるんだから、何を言われようと、受け止めるだけのメンタルが出来上がってるんですよ(笑)。それが私の役割だとまでは思っていませんが、楽しそうにたくましく立ってるぞって、そういうところは見せられたらいいなと思っています。

太田サトル

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