大手紙で読書委員もつとめた本好きの小泉今日子さん。新たな女性像を切り開き、社会問題への発言でも注目されている。新刊『ホントのコイズミさん NARRATIVE』刊行を機に語った。AERA 2024年3月11日号より。
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──『ホントのコイズミさん』は、同名のポッドキャスト番組を書籍化したもので、今回でシリーズ3冊目となります。
小泉今日子(以下、小泉):
そもそもポッドキャストの番組のテーマが「本」なんですね。私たちはコロナ禍を経験して、ステイホームのなか、あらためて本を読むということに目を向けた人、本を読む時間を大事にしたいという思いを再確認した人もたくさんいたと思うんです。
大型書店だってどんどん閉店していく時代です。その一方で独立系の本屋さんや出版社さんって増えている。例えばフェミニズム専門の本屋さん、韓国文学しか置いてない本屋さん、LGBTに関する本を翻訳したり出版している出版社さん
……そういうものをやっている人って、必ず強い思いがあるはずだし、その思いを聞ければ絶対面白いだろうし、共感する人もいるんじゃないかなって。本というものを通して、今の社会のいろんな面をソフトに伝えることができるのかな、そして聞き終わった後に、その本屋さんに行ってみようかな、買ってみようかなと、何か行動に繋がるといいな、聞いた人の次の扉が開けられるような内容にしたいなと思ってやり始めたものです。
■読書委員を10年間経験
──過去には『モモ』(ミヒャエル・エンデ)や『キッチン』(吉本ばなな)など、小泉さんが愛読書だと紹介したことで大きな注目を集めた本はいくつもあり、読売新聞では読書委員を10年間つとめられました。
小泉:資料として読むだけの本は電子書籍でもいいかなということもありますが、スマホやタブレットだとなんか頭に入ってこない。老眼もありますし(笑)、やっぱり紙をめくる、質感や重みを感じる、そういうことがどうしても好きなんです。耳で受け取る情報と目で受け取る情報は、違う部分もあると思うんです。本を読むのは苦手だけど耳からだったら大丈夫だったり。音声のコンテンツを本にすることで、本でしか見せられないような多面的な見せ方もできると思いました。
■社会のアップデートを
──小泉さんは1982年にデビューしてから、ご自身の明確な意志を持ち、新たなアイドル像、女性像を自ら切り開き続けてきたと思います。小泉さんのように声をあげ、自分の意志で行動する女性の存在はますます求められていますが、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位と、とても低いです。
小泉:そうですね。子どもの頃、テレビのニュースで流れるピンクのヘルメットをかぶって何かを訴えている中ピ連(編集部注:中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合。1972年設立。人工妊娠中絶の制限への反対と、ピル解禁を目指した)のみなさんを少し怖いと感じていましたし、私自身、お父さんが働いて、お母さんはご飯を作って洗濯をしてといった古い価値観のなか、なんとなく恋愛をして、結婚して、ということを何の疑いもなく目指していた部分はあったと思います。
だけど実際に結婚してみたら、あれ、なんか違う? 仕事に関しても、ちょっとずつあれ?と思うようなことが増えてきて。そういうときに、それこそ中ピ連の時代から、女性に開かれた社会のために誰かがちょっとずつ石を投げてくれていたんだと気がついて。フェミニズム的なことを理解している人が増えているとはまだまだいえないし、女性議員の数も少ない。大きなところでいきなりというのはなかなか難しいから、たとえば地方からとか、少しずつ変わっていけたらいいのかなとも思います。社会全体がルールや思いをアップデートできたら、男性も女性も幸せになれるんじゃないかってよく思います。
■変化には痛みともなう
──2015年に個人での制作会社「明後日」を設立したあと、18年に所属事務所から独立しました。
小泉:もともと偉い人や古いルールが嫌い、みたいなところはあって(笑)。どこかの組織に属していれば、そこのルールはあります。若いころはそのルールの隙間をかいくぐっていろんなことを考えるのが楽しかったんですけど、50代が見えてきたあたりで、やっぱりそのルールの中だけでは収まりきらない思いがあって。だったらもう出るしかないと思いました。今はそのころ思ったことが少しずつ実現しはじめているところですね。
──最近、対談やラジオ番組での、現在のバラエティー番組のあり方や芸能界の悪しき慣習などについての発言が注目され、どこか“ご意見番”のような扱いをされることもあります。
小泉:対談での「バラエティーはくだらない」みたいな発言は、言い方がきつかったかなと思ったのですが、実際に言っちゃったことですしね。そういう発言に触れることで、今まで意識したことがなかった人が「確かに」と思ったり、考える時間が生まれると思うんですよ。結局真ん中にいる人が動かないと世の中が変わらない気がします。発言を切り取られたり攻撃的な見出しをつけられて拡散されるのは不本意ではあるんですけど、それで真ん中の人の目に留まったり、考えるきっかけになるんだったらいいのかなって。
──いま、芸能界やメディアの世界は大きな転換点を迎えていると思います。
小泉:芸能界もメディアも、いろんなしがらみが複雑な構造になりすぎて、山みたいになっていて。その山は決して動かないと思っている人もいるでしょうし、動かしてもらったら困るっていう人もいるでしょう。それでもその山がほころび始めている感じは確実にあって。そういう時って、きっと世の中が変わる。でも、何かが変わるときって、痛みもともなうと思うんです。だけどその痛みはきっと希望につながるものなんだとみんながとらえられれば、少しは風通しもよくなるのかな。 ■私、全然変わってない
──20年に「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけSNSに投稿したことも話題となりました。
小泉:批判を受けて投稿を削除した若いアーティストもいました。だけど削除しないという意志を持つ大人もいないといけないのかなっていう感覚を、そのときに感じました。もう42年もやってるんだから、何を言われようと、受け止めるだけのメンタルが出来上がってるんですよ(笑)。それが私の役割だとまでは思っていませんが、楽しそうにたくましく立ってるぞって、そういうところは見せられたらいいなと思っています。
──それが小泉さんが自ら道を切り開いてきた原動力でしょうか。
小泉:そうですね。若い人たちが悩みを聞かせてくれたり、出待ちをしてくれたりライブに来てくれたり。なんで来てくれるんだろうと思うと、私が“楽しそうな大人”だと思ってくれてるからなのかな。だから私はちゃんと「楽しそうな大人」としてたくましく立っていてあげないといけないなと思います。
──それは、これからもずっと変わらなさそうですね。
小泉:去年やったライブで、ひさしぶりに90年代の曲を歌ったんです。「TRAVEL ROCK」というアルバムの曲には、偉い人たちは自分たちだけ助かればいいの?という歌詞や環境問題をテーマにした歌詞があったり、「女性上位万歳」をカバーしたり、そのころからそういうこと私、歌ってたんだな、あ、全然変わってないわ!って気づきました(笑)。
(構成/ライター・太田サトル) Spotifyオリジナルポッドキャスト「ホントのコイズミさん」https://open.spotify.com/show/1DwTm7vb6AFLcKQuSCLWuB?si=c41cbadf764142f
d 『ホントのコイズミさん NARRATIVE』 https://303books.jp/hontonokoizumisan-narrative/ ※AERA 2024年3月11日号
太田サトル
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