ヘビににらまれたカエル(2024年3月7日『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

 先日、小欄で「朝がなかなか起きられない」と書いたところ、知人が興味深い話を教えてくれた。「かえるの目借時(めかりどき)」という言葉があって、春が眠くてたまらないのはカエルが人の目を借りるからという説。

 春は動物にとって求愛の季節。この言葉は、カエルが雌を求める「妻狩(めか)り」から転じたものらしい。人間の眠気を自分たちのせいにされたカエルからすれば「えん罪だ」と”目くじら”の一つも立てたいかもしれないが、先人の発想の面白さが垣間見える言葉だ。

 「蛙(かえる)の子は蛙」「蛙の面(つら)に水」など、カエルに関することわざは多い。それとは別に、最近では「蛙化現象」なる言葉をよく見聞きする。グリム童話の「かえるの王さま」に由来し、好きだった相手が振り向いてくれた途端「気持ち悪い」と感じてしまう現象をいうそうだ。

 もう一つ、カエルにまつわる言葉を。「ヘビににらまれたカエル」。「恐怖で身がすくむ」という意味だが、4年前に京都大の研究チームが「うまく逃げるためのカエルの戦略」であるという説を発表した。両者のにらみ合いにおいては後に動いた方が有利で、カエルはあえて「動かない」のだと。

 自民党派閥の裏金をめぐる先日の政倫審。野党の厳しい追及を受ける岸田文雄首相や派閥幹部らが「ヘビににらまれたカエル」に見えてしまった。むろん、恐怖で身動きできないのでなく「じっと危機を脱出する機をうかがっている」という意味において―。