失われていないと思う「30年」(2024年3月7日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 先日、運転免許証の更新に行った。新しい免許証には西暦と元号が併記されている。そういえば古い免許証の有効期限は平成36年。前回は平成最後の年だったのか。昭和に加え、平成も遠くなってきた

◆そもそも平成36年は令和何年? 新聞表記は西暦が原則のため、元号はピンとこない。答えはもちろん令和6年だ。単純に30を引けばいいと気づいた時、「失われた30年」という言葉が浮かんだ。高値が続く日経平均株価のニュースで、市場関係者が「失われた30年を取り戻したい」と言っていた。失われた30年とはバブル景気がはじけた後、低成長が続いた平成時代を指すようだ

◆だが、この時代を懸命に生きたわが身を振り返るとそれなりに実りは多く、「何も失われていない」と反発したくなる。給料が上がらないからみんなで物価を抑えてきた。知恵と工夫で不況を、度重なる自然災害を支え合って乗り切り、今がある

◆右肩上がりの経済成長がいつまでも続くはずはない。優れた経済指標はいつか失うかもしれないが、愛情や優しさを手放さなければ、苦境下でも社会はうまく回っていく気がする

◆「優」という漢字をよく見ると、「人への百の愛」とも読める。時代が変わっても、優しさや愛の価値は不変のはず。次回の免許更新に向け、これからも「優しい運転」を、と心に誓う。(義)