「6時間待ち」を500円でスキップ 飲食店でも「ファストパス」が広がる納得の理由(2024年3月6日)

「最大6時間待ち」の行列を500円でスキップ

ラーメンに付きまとう「1000円の壁」
 テーブルチェックの広報によれば「テーブルチェック・ファストパスは元々予約を取っていないようなカジュアルな業態を想定しており、6つのラーメン店でスタートした。その後に1店増えて、現在は7店で実施している。基本料金は390円で、500円は最も高額で銀座 八五の1店のみ」とのこと。

 年内300店の導入を目指しており、カフェやおにぎり店、ベーカリーなど、長い行列をさばき切れずに近隣住民から通行の妨げになると苦情が出たり、警察が出動していたりするような店にとっては朗報だ。とある行列店の店主からは「1日に提供できる数が決まっているので、行列が長くても売り上げが多くなるわけではない」と聞いたこともあり、生産性の向上につながる。

 2月9日、テーブルチェック・ファストパスのサービス開始に伴う記者会見の席上で、テーブルチェックの谷口優社長は次のように語った。

 「訪日外国人が日本に最も期待しているのは食事。特にラーメンの人気が高い。ところがラーメンには『1000円の壁』があるといわれている。原材料費・光熱費・人件費が上がっているのに、顧客離れや世間の批判を恐れて値上げができず、廃業するラーメン店が過去最多というデータも出ている。このままでは日本の強みであるラーメンの担い手が減っていく。テーブルチェック・ファストパスが1000円のネガティブな壁を乗り越える一助になればという思いだ」

 実際に銀座 八五もかつては1000円の壁を超えられていなかった。銀座 八五をプロデュースした中華そば 勝本は、22年3月に負債総額14億5000万円を抱えて一度倒産している。当時、銀座 八五の「味玉中華そば」は、950円だったと記憶する。コロナ禍による顧客減が原因とされるが、常に行列ができているイメージもあったので、あまりにも意外だった。元々良心的な価格に設定しており、薄利で運営していたのではないかと思われる。その後、Food Operation Japanの傘下で再建され、系列4店ともに、行列店となった。

ファストパスはプライオリティパスへ、有料の優先券も
 一方で、いわゆるファストパスを導入しても、今度はファストパスの入手競争になっているのは皮肉な状況だ。値段をもっと高く取るべきなのかなどの課題も見えてきている。実際に、テーマパークでは「有料化」が進む。

 東京ディズニーリゾートでは00年7月、東京ディズニーランドのアトラクション「ビッグサンダー・マウンテン」で、初めてディズニー・ファストパスを導入した。その後、東京ディズニーシーを含めて対象アトラクションを拡大し、コロナ前には20ほどのアトラクションで実施していた。

 ディズニー・ファストパスは無料の優先入場サービスで、対象アトラクションは一般の入場レーンとは別に専用の入場レーンがある。専用の発券機から入手できるディズニー・ファストパスには入場できる時間が書いてあり、行列の待ち時間を短縮できる便利なサービスとして、人気を博した。その後、19年7月には、東京ディズニーリゾートの公式アプリから、パーク入場後にディズニー・ファストパスを発行できるようになった。

 ディズニー・ファストパスは人気だったものの、コロナ禍に運用休止。23年6月には終了をアナウンスするとともに、期間限定で「東京ディズニーリゾート40周年記念プライオリティパス(以下、プライオリティパス)」を発表した。こちらは40周年イベントの終了後も利用できるとしており、終了日は未定である。

 プライオリティパスは、ディズニー・ファストパスとほぼ同様の無料サービスだが、対象のアトラクションは少ない。東京ディズニーランドでは7つ、東京ディズニーシーでは6つが対象だ。なお、プライオリティパスは、入場用のチケット1枚につき1人分を取得でき、複数人数分は取得できない。また、次のアトラクションで取得するには、先のアトラクションを取得してから120分が経過するか、取得したプライオリティパスの利用開始時間を迎える必要がある。

 ここまでは無料のサービスだが、22年5月から有料サービスとして「ディズニー・プレミアアクセス」も提供している。こちらもパークへ入場後でないと利用できず、公式アプリから対象アトラクションを選んでクレジットカードで決済する仕組みだ。

 価格はアトラクションによるが1人2000円前後で、パレード・ショーも対象になっている。購入から60分後、もしくはプレミアアクセスの利用開始時刻、どちらか早いほうの時間が過ぎたら、次の購入が可能になる。

対象アトラクションに応じて複数種類を展開
 USJはユニバーサル・エクスプレス・パスを06年に導入した。サービスを受けられるアトラクションの数によって、いくつかの種類に分かれている。東京ディズニーリゾートで提供している同様のサービスと異なり、事前に購入できるのが特徴だ。

 サービス内容は、全アトラクションが対象である「ユニバーサル・エクスプレス~プレミアム」だと、全アトラクションで1回ずつ待ち時間を短縮できる。その他、それぞれ対象アトラクションが7つ、4つである「ユニバーサル・エクスプレス・パス 7」と「ユニバーサル・エクスプレス・パス 4」がある。

 パス 7は、6つのアトラクションが指定されており、「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド」か「ジョーズ」のどちらか1回の待ち時間を短縮できる。パス 4は、さらに細かく分かれており、好みのアトラクションの組み合わせから選べる。

 コロナ禍を経て、外国人観光客の行動を観察していると、値段以上の価値を求めるコスパよりも、限られた時間をいかに有効に使って体験を最大限に重ねるタイパが、重視されてきているように感じる。日本はその流れにまだ乗り切れていない感があるが、だんだんとコスパからタイパへ、トレンドが移っていくのではないだろうか。

 バブル崩壊以降、日本が長期間にわたってモノの価格が継続的に下がるデフレに陥ったのは、世界中で類を見ないケースだ。今、ようやくデフレを脱却して、モノの価格が継続的に上がるインフレへの転換が進んでいる。インフレが当たり前になれば、給料も継続的に上がるだろう。

 そうした中で、同じ商品・サービスでも需要の多いときには高くなり、需要の少ないときには安くなる、一物多価のダイナミックプライシングが広がっていく予感がする。

(長浜淳之介)

ITmedia ビジネスオンライン

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