「ひな祭り」に関するコラム(2024年3月3日)

桃の花はどこへ(2024年3月3日『宮崎日日新聞』-「くろしろ」)

 

 「あかりをつけましょぼんぼりに お花をあげましょ 桃の花」。だれもが知る「うれしいひなまつり」の歌。ただ最近はどの家でもひな飾りはこぢんまりとして、桃の花がどこにあるのか分からなくなった。

 たいてい桜と橘が目立ち桃の花はまれ。そもそも桃の花の時期には少し早いが、旧暦では花の盛りだった。だが樋口清之著「梅干しと日本刀」によると、桃の節句は本来、花をめでるよりも種子の中にある桃仁(とうにん)やアンズの種子にある杏仁(きょうにん)を杏仁湯として飲むという。

 その名残で桃の花を生ける風習になった。五節句は中国由来だが、日本では「稲作農耕のスケジュールに沿って作られた休養と保健のための年中行事」として発展。「五節句の飲食物はすべて薬品」であり、例えば春の七草を食べる1月7日の人日(じんじつ)の節句は分かりやすい。

 5月5日の菖蒲(しょうぶ)の節句は、菖蒲の根を干して煎じたものを飲む。強壮、解毒の効果がある。菊の節句の9月9日は鉄分の多い菊の花を煎じて飲む。強壮、造血作用があるとか。ホオズキ市が開かれる7月7日はホオズキ節句。一般には毒とされる実だが、根の服用に母体保護の意味があったそうだ。

 3月3日は、今では子どもの健康と成長を祈る「女の子の節句・ひな祭り」として定着している。とはいえ、歌にある「すこし白酒めされたか 赤いお顔の右大臣」をいいことに大人が飲んではしゃぎすぎないよう、健康管理の意義も頭の片隅に入れておこう。

 

【1番】
あかりをつけましょ ぼんぼりに
お花をあげましょ 桃の花
五人ばやしの 笛太鼓
今日はたのしい ひなまつり

【2番】
お内裏様(だいりさま)と おひな様
二人ならんで すまし顔
お嫁にいらした 姉様に
よく似た官女の 白い顔

【3番】
金のびょうぶに うつる灯(ひ)を
かすかにゆする 春の風
すこし白酒 めされたか
あかいお顔の 右大臣

【4番】
着物をきかえて 帯しめて
今日はわたしも はれ姿
春のやよいの このよき日
なによりうれしい ひなまつり

作詞:サトウハチロー、作曲:河村光陽により1936年に発表された日本の童謡

 

ひな祭りに平和を考える(2024年3月3日『琉球新報』-「金口木舌」)

 3月3日はひな祭り。語呂合わせで「耳の日」としても知られ、耳で楽しむことにちなみ「民放ラジオの日」でもある。ひな祭りは平和の象徴であるとして、「平和の日」にもなっている

▼ひな祭りは元来、平安時代にあったおはらいの行事だったとされる。世の中が平和になった江戸時代に庶民に広がり、女性のお祭りとして定着するようになったという
▼この季節になると、保育園の子どもたちが元気にひな祭りの歌を合唱する。ラジオからは、ひな祭りの話題が聞こえてくる。春の訪れを肌で感じ、節句を祝える時代をありがたく思う
▼子どもたちの歌に耳を傾けていると、空から響く米軍機の爆音に邪魔される。ラジオのニュースでは基地建設や国際紛争が話題になる。「戦争」の足音が聞こえてくると、ひな祭りを心から楽しめない
▼平和な世の中だからこそ、季節の変化を楽しみ、子どもたちの成長を喜べる。貴重な時間を戦争に壊されたくはない。ひな祭りの歌を口ずさむ子どもたちが大人になった時、世界がもっと平和であるようにと願う。