筆者がこれまでJBpressで追及してきた仲本工事さんの事故死のきっかけになったとも言える週刊誌報道の正当性が、ついに法廷で問われることとなった。2月27日、司法記者クラブにてザ・ドリフターズ仲本工事の妻・三代純歌(みだい・じゅんか)による記者会見が行われたのだ。果たして法廷はどのような審判を下すのか――。(以下敬称略)
■ 降って湧いた「モンスター妻」報道
JBpressで筆者が2月23日でも指摘していたように、虚偽の週刊誌報道によって名誉毀損をされたとし、純歌が「週刊新潮」「女性自身」「週刊女性」の3誌に対して、損害賠償を求める民事訴訟を起こした。
【参考】【ドリフ仲本工事と純歌夫妻の真実】週刊誌報道に正義はあるか? 「モンスター妻」報道はこうして作られた(1) 訴訟では「週刊新潮」の発行元の新潮社に2200万円、「週刊女性自身」の光文社に4400万円、「週刊女性」の主婦と生活社に1650万円の計8250万円がそれぞれ損害賠償請求されている。各社によって金額にはバラツキがあるが、その詳しい内訳については説明されなかったが、どうやら記事の内容によって差をつけたらしい。
会見では名誉毀損裁判を数多くこなしている喜田村洋一弁護士が同席し、提訴に至った事情を説明した。純歌側が問題にしている記事は、主に以下の見出しと記述である。
(1)「週刊新潮」2022年10月20日号(同月13日発売)、同年11月10日号(同月2日発売)、2023年6月1日号(同年5月25日発売)の記事 〈ドリフ「仲本工事」を虐げる27歳年下『モンスター妻』〉 〈(原告は自宅に設置した監視カメラで)仲本さんを常に監視する〉 〈(原告は)明らかにウソと分かる話を平然とする」ため「周囲の人は原告を『モンスターのよう』と評する〉 〈「仲本工事」緊迫の病室で「加藤茶」が“モンスター妻”に激高「仲本がこうなったのはお前のせいだ!」〉 〈(原告は仲本の遺体が運び込まれた斎場近くの焼肉屋で、仲本の所属)事務所から預かった戒名料60万円の一部をネコババするための密談を交わしていた〉
■ 記事に根拠はあったのか (2)「女性自身」2022年11月8日号(同月1日発売)、同年11月15日号、同年11月22日号、同年11月29日・12月6日号の記事 〈仲本工事さんの鬼妻が斎場を抜け出して「冒涜の焼き肉屋密談」〉 〈預かっている戒名料の一部を自分たちのものにしようとする相談だったようだ〉 〈盟友・加藤茶が叱責「仲本工事の悲劇は鬼妻のせい!」だ〉 〈仲本さんが事故に遭った後、病院の待合室の廊下で加藤さんは純歌に対し「仲本がこんなことになったのは、あんたのせいだからな!」とまで言っていました〉 〈仲本工事さんの鬼妻が策謀「80歳で3千万円生命保険加入!」〉 〈「東京↔横浜 一日3往復」鬼妻指令に困惑 最後に会った日も仲本さんは自宅のある目黒区・自由が丘と横浜を車で3往復させられた後だとボヤいていました』〉
(3)「週刊女性」2022年11月15日号の記事 〈仲本さん急死の修羅場「お前のせいだ!」事実婚妻を叱る加藤茶の怒声〉 〈お見舞いに来た加藤茶さんが、純歌に対して“仲本がこうなったのはお前のせいだ! とんでもない女だ!”と言い放ったというのです。普段は温厚な加藤さんですが、その時ばかりはすごい剣幕で…〉
喜田村弁護士は、これらの週刊誌が、純歌に対して「モンスター妻」「鬼嫁」といった見出しを使っていること自体が名誉毀損に当たるとの見解を述べ、その他にも証拠を示さない記事を掲載しているのも問題であるとした。
記者会見では、仲本と純歌の店である目黒区・自由が丘の居酒屋「仲本家JUNKAの台所」とその隣のスナック「ピンクローズ」の2階はそれぞれ居宅となっていたが、ここを「ゴミ屋敷」と報道され、さらに純歌は仲本をゴミ屋敷に置き去りにしたまま世話をせずに横浜市内で別居していると記事にした週刊新潮への批判から始まった。
「週刊新潮」の取材に対して仲本は、「そのような事実はない」と否定していたにもかかわらず、上記のような記事が掲載された。そのことに対して仲本が激怒していたことも記者会見では明らかにされた。
仲本が交通事故で亡くなるのは、その「週刊新潮」発売の5日後のことだ。 仲本が亡くなる前日、純歌は仲本に電話した。
「(住んでいた)横浜の家の方に記者がうろうろしていたのを見かけたもので、仲本さんに相談したら『俺が早く(横浜に)行ってやるよ』と。それで(翌朝、横浜に)来たときに、事故に遭って亡くなりました。週刊新潮の記事が載らなければまだ元気でいると思います」(純歌) だが、仲本の死後も、仲本と純歌の関係を書き立てる週刊誌はますます暴走していった。
「毎日のように一緒にいた人が急にいなくなったことですごいショックを受けている中で、ウソの記事を書かれて、毎日生きるのがやっとの状態でした。友人が毎日のように来てくれて、自殺しないように守ってくれました。1年以上たった今でも、1時間おきぐらいに目が覚めたりして、仲本さんが突然いなくなったショックからは立ち直れていません」 と純歌は言葉を絞り出した。
■ 「報道の自由」のはき違え
仲本の死で憔悴していた純歌は、当時は訴訟する気力も失っていた。だがそのうち、最愛の夫を奪ったと言ってもいい週刊誌の暴挙をどうしても許せない思いが強くなっていった。
「当初は、週刊誌に書かれたところでどうしようもなく、肉体的にも精神的にも反撃できる力もなかったけど、『これはひどいよ、犯罪だよ』とずっと言ってくれる人がいて、生きているのが不思議なぐらい追い詰められていましたから、こういう報道を私は許していいものかというのもありました」 「あたかも私が犯罪者のように扱われて、事実だと思っている人が多いじゃないですか。『報道の自由』を、人権とかを無視して自分の収入のために行使するのを許してはいけないと思いました」(純歌) 辛い日を思い出して感情が昂ったのか、言葉に詰まり、涙を浮かべる場面もあった。
■ 虚実交じりのタレコミに乗りやすい週刊誌、このままでよいのか
現在、サッカーの伊東純也選手やデヴィ夫人など、週刊誌の発行元やそのネタ元を訴える裁判が相次いでいる。記事の真偽・正当性はそれぞれの裁判で判断されることになるが、週刊誌報道に厳しい目が向けられているのも事実だ。
今回の裁判について、SNS上には、その流れに便乗したものではないか、との声もあったが、それは事実ではない。
「今回の訴訟は、私は昨年からこの時期にと予定していたのですが、たまたまいろんな週刊誌訴訟と時期が重なりました」と純歌は説明し、その上で、「今の週刊誌のやり方に一石を投じたいという思いはあります」(純歌)ときに真偽不明のタレコミに安易に飛びつき、事実と異なる内容をセンセーショナルに書き立てる週刊誌の手法に異議を唱えたいという気持ちがあるようだ。
純歌を批判した週刊誌の記事にも、“情報”をタレ込んだ“リーク元”がいる。仲本が住んでいた居室を勝手に撮影し、その写真を提供したり、ありもしない“事実”を伝えたりしている。果たして誰が、どういう目的で週刊誌にタレ込んだのか。
純歌は“リーク犯”については「分からない」と首を横に振ったが、「目星はついている」という。
「(目黒区の住居に備えていた)録画機能がある防犯カメラのチップが何者かに盗まれていて、その被害届を警察に出して受理されていますので、捜査の流れを見守っていきたいと思っています」
■ 代理人弁護士は「文春の守護神」
今回は3誌を提訴することが発表されたが、実は「週刊文春」も純歌に関する記事を掲載している。同誌22年11月発売号は、純歌の愛人だったとする男性が純歌と男女関係があったとして告白した内容を伝えているのだが、この記事について筆者はJBpressの記事の中で、「とんでもない記事である」と断罪している。
だが今回の訴訟の被告には週刊文春は含まれていなかった。そのことは記者会見でも質問が飛んでいた。
これについて純歌は新潮、女性自身、週刊女性が「結託」して報道したとし、まず3誌を相手取ったと説明。男女関係の報道は「間違い」と否定し、文春の提訴には「のちのち考えていきたい」と語った。
だが一方で、純歌の代理人を務める喜田村弁護士は、かねて週刊文春が提訴された裁判ではたびたび文春側の代理人を務めてきた。純歌が文春まで訴えてしまうと喜田村弁護士にとっては「利益相反」となってしまう。だから今回は訴えられなかったのであろう。
司法記者クラブのデスクも同じ見方をする。
「客観的に見れば週刊文春の記事を訴えるのが一番手っ取り早い案件です。“純歌さんの愛人”と自称している男は具体的にどのような愛人関係だったのかについて証拠が整っておらず信憑性に著しく欠けています。しかし喜田村弁護士に今回の訴訟の代理人を依頼してしまったので、週刊文春を訴えることはできなくなったというのが理由ではないでしょうか」
■ 逆風に晒される週刊誌
果たして裁判の流れはどのようになっていくのだろうか。同デスクが続ける。
「一連の報道の口火を切った週刊新潮の記事は、純歌さんを悪者として描いています。しかし純歌さんは仲本さんの奥さんとはいえ一般人ですから、記事の公益性は裁判では認められないでしょう。となると、裁判所は内容の審議すら行わず、冒頭から結審してしまうと予想されます。仲本さんが取材に対して『(純歌とは)うまく行っている』と答えているにもかかわらず、あのような記事にした正当性についても、おそらく週刊新潮は答えることはできないのではないでしょうか。同様に、週刊女性自身や週刊女性も『公益性がない』という理由ですぐに結審する可能性があると思います」
訴えられた週刊誌3誌は、やはりかなり苦しい状況だというのである。 それにしても週刊誌にタレコミをした人物は、あきらかに純歌に照準を定めてリークしている。記事では仲本についての悪口がなく、むしろ仲本を擁護し、純歌が鬼妻であるという印象操作に力を入れているような気がする。リーク犯には純歌に対する何らかの“恨み”があったとしか思えない。
無論こんなことは許されることではなく、リーク犯の話を安易に信じて記事を作ったマスコミの罪は大きい。
仲本の葬儀が終わった後、なんと取材していた週刊新潮の記者が再び純歌の前に現れたという。驚くべきことに記者は純歌にこう言ったという。
「おかげさまで(仲本を扱った記事が掲載された号では)売れまして、ありがとうございます」 もしそれが本当であれば記者の神経を疑うばかりである。
神宮寺 慎之介