三寒四温(2024年2月26日『』-「小社会」)

 1週間ほど前は汗ばむ陽気だったのに、ここ数日は雨まじりの肌寒さが続いた。三寒四温。本来はシベリア高気圧からの寒風にさらされる中国北部や朝鮮半島の言葉らしいが、日本でもこの時季は寒暖を繰り返して春になるといわれる。

 動物行動学の第一人者だった故日高敏隆さんの随筆に「春の数えかた」がある。くるくる変わる寒暖の波。それでも虫のような変温動物たちは春になれば、毎年ほぼ同じころにちゃんと姿を現してくる。なぜか。

 虫たちは揺れ動く毎日の気温に反応するのではない。気温を積算しているのだという。一定の気温を超えると発育し、超えた温量と日数を足し合わせていく。総量が一定値に達すると卵がかえり、さなぎがチョウになる。「ああ今年も春になった、と虫は思うのだ」

 積み上がる世間の「怒りの温量」は感じているのだろうか。内閣支持率の低迷を聞かれた岸田首相の常とう句は「一喜一憂しない」。とはいえ、今月の共同通信の調査は24%台。メディアによっては10%台半ばまで落ちている。

 旧統一教会との接点が問われた文部科学相は、「記憶がない」を乱発した。裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会を巡って、自民党は非公開を主張しているという。厳しい世論にも一喜一憂しないのではなく、説明する姿勢には発育があってもいい。

 季節は一雨ごとに春に移りゆく。寒々しい政治にも少しは変化を見たいものだ。