若者の半数が読めない? 「常陸」ブランド化の盲点(2024年2月26日『毎日新聞』)

飛来数全国一のマガモのブランド名「常陸国天然まがも」の発表会。小さな字で「ひたちのくに」と読み仮名が振られている=水戸市笠原町の県庁で2023年11月30日、木許はるみ撮影拡大
飛来数全国一のマガモのブランド名「常陸国天然まがも」の発表会。小さな字で「ひたちのくに」と読み仮名が振られている=水戸市笠原町の県庁で2023年11月30日、木許はるみ撮影

 「常陸牛」「常陸乃国いせ海老」……。茨城県が「常陸○○」の名で高級食材を売り出す中、ブランド化に思わぬ壁があった。読み方だ。全国の20~30代の半数程度が「常陸」を読めないという調査結果が明らかになった。

 「常陸」は茨城の旧国名。由来は諸説あり、713年編さんの「常陸国風土記」では、一つの道が続く「直通(ひたみち)」と、ヤマトタケルが巡行した際に袖を浸したため「ひたす」から「ひたち」に転じた二つの由来が書かれている。

 では、なぜ「常陸」の表記なのか。茨城の歴史に詳しいかすみがうら市歴史博物館の千葉隆司館長は「理由はわかっていないんですよね」と明かし、「当たり前のことは資料が残りにくく、地名の字も資料が少なくて研究が難しい」という。

 一方、県史は風土記を否定し、「道奥」(陸奥)にじかに接する国として「常道」(常陸)になったと説く。編さんに関わった「茨城地方史研究会」の久信田喜一会長は「風土記が引用されることが多い中、県史は新説を唱えた形で、風土記では満足できない人が諸説を出している状況ですね」とほほえむ。

 謎に包まれた「常陸」だが、県は「常陸国ブランド」として、常陸牛や豚肉「常陸の輝き」のほか、最近では「常陸国ロングトレイル」や「常陸国天然まがも」「常陸乃国いせ海老」も誕生させた。大井川和彦知事は昨年9月の会見で「(命名は)インバウンド向けに評価を得ている。ローマ字で親しみやすく、日本人が思っている以上に受けが良い。継続したい」と話した。

 では漢字の「常陸」への親しみは――。ネットでは常陸と合わせて「読み方」が頻繁に検索され、県が全国の20~60代に調査した結果、20代の約6割、30代の約4割、40~50代も3割超が読めず、「つねりく」「ときわ」などと読んだ。県販売流通課の担当者は「茨城にいると自然に読めるようになる。『読めないのでは』という声も聞いていたが、そんなわけないと思っていた。自分の常識を疑い、調査して驚いた」という。

 「常陸国ブランド」は県の目玉政策で2024年度当初予算だけで常陸牛の新ブランドに1億6200万円、23年度には常陸の輝きには8億600万円を計上。同課は「正しく読めないと記憶に残らない。おいしさとセットで覚えて」と呼び掛ける。8日には都内で常陸牛のイベントを開き、読み方を周知した。【木許はるみ】

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