確定申告ならアウト確定…政治家がカネの出入りを「不明」と訂正しても許される特別な事情 (2024年2月17日『東京新聞』)

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、安倍派議員らが訂正した政治資金収支報告書に「不明」とする記述が相次ぎ、裏金の使い道など実態がより不透明になっている。16日に始まった確定申告で、一般市民が同じような書類を出せば、税務署から厳しく追及されるはずだ。裏金は課税対象となる可能性があるのに、政治家はなぜ、いいかげんな書類で許されるのか。事情を探ると、政治資金規正法の「穴」が浮かび上がる。(我那覇圭)

◆「国民が納得感を持って納税できる環境にない」

 16日の衆院内閣委員会では、立憲民主党の中谷一馬氏が「政治家の行動に不公平感、不平等感が広がっている。確定申告が始まったが、国民が納得感を持って納税できる環境にない」と指摘。立民の江田憲司氏は衆院財務金融委で「何千万もの裏金を受け取っておきながら、どうして脱税が問えないのか」と追及した。
「不明」の記載が並ぶ自民党の萩生田前政調会長の収支報告書

「不明」の記載が並ぶ自民党の萩生田前政調会長の収支報告書

 鈴木俊一財務相は「国民がそうした怒りを持っておられるということは大きな問題である。きちんと納税されている方に不公平な思いを持っていただかないような丁寧な対応をしていく必要がある」と述べ、裏金事件が確定申告に与える影響に懸念を示した。
 政治資金は原則非課税だが、裏金が議員本人の収入と見なされれば、議員の「雑所得」として所得税の課税対象になり得る。税務当局は「政治資金が仮に政治活動に使われず、残額がある場合は雑所得として課税関係が生じる」(星屋和彦国税庁次長)としており、収支報告書の内容が「不明」ばかりでは、税逃れの疑惑は残ったままだ。

◆二重線で消して「不明」と書いたら「訂正」

 安倍派の有力者「5人衆」の一人、萩生田光一政調会長が代表者を務める「自由民主党東京都第24選挙区支部」は2月上旬、2020年~22年の3年分の収支報告書を訂正した。いずれも当初記入した収入や支出の総額、翌年への繰越額などを二重線で消し、政治活動に関する支出を追記している。
衆院本会議に臨む萩生田光一前政調会長=15日、国会で

衆院本会議に臨む萩生田光一政調会長=15日、国会で

 だが、訂正後の正しい収支の総額や、政治活動に関する支出の金額や年月日などは示さず、訂正部分に手書きで「不明」と書き添えただけ。本紙が「不明」を数えたところ、3年分で計30カ所以上に上っていた。
 萩生田氏の事務所は取材に「事務所に支出の記録は残っていても、支出先の領収書の発行が間に合わない場合もあり、一時的に『不明』と記載した」と説明。収支報告書の添付書類に「判明次第訂正する」と書き込み、23年分の公表までに「不明」の記載を減らすとしている。
 萩生田氏に加え、同じく5人組の高木毅前国対委員長の収支報告書にも同様の記載があり、「『不明』のオンパレード」(立民の渡辺創衆院議員)と野党の批判が集中している。「政治資金規正法で認められるのか」(立民の後藤祐一衆院議員)と政府の見解をただす声も上がった。
衆院本会議に臨む高木毅前国対委員長=15日、国会で

衆院本会議に臨む高木毅前国対委員長=15日、国会で

 政治資金を所管する松本剛明総務相は「過去に災害などで正確に記載することが不可能な項目は『不明』と記載した事例はある」と説明。岸田文雄首相は「収支報告書は事実に即して記載されるべきものだ」と一般論を述べるにとどめた。

◆「不明のオンパレード」で済むのは規定がないから

 「不明」ばかりの収支報告書がまかり通るのは、政治資金規正法に訂正方法に関する規定がないからだ。総務省の担当者は「収支報告書を作成する政治団体からの問い合わせに対して、二重線で消して訂正する方法などは案内している」と話す。ただ、訂正理由を書くように求めたり、訂正内容が正確かどうかを調べたりする権限はなく、どう記述するかは政治団体側に委ねられているという。
 公益財団法人「政治資金センター」の立岩陽一郎理事は「規正法の目的には、政治活動の公明と公正を確保すると明記されているにもかかわらず、『不明』と書いて開き直る萩生田氏らにはあきれる」と憤る。「不明」の収支報告書を許さないため、透明性を確保していないような訂正は受け付けない権限を選挙管理委員会に与えるなどの法改正が必要と訴える。