形ばかりの調査では実態の解明につながらない。国民の政治不信を深めるだけだ。
自民党が派閥裏金事件を受け、全所属議員らを対象としたアンケートの結果を公表した。立件された3人を除き、5年間で政治資金収支報告書への不記載などがあったのは85人で、総額は計約5・8億円に上った。
だが、設問は記載漏れの有無と金額の二つだけで、なぜ裏金を作ったのかや、何に使ったかという肝心なことを尋ねていない。野党から「これでは実態が分からない」と批判が出たのは当然だ。
そもそも自己申告による調査の限界は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題でも明らかになっていた。最近、盛山正仁文部科学相と林芳正官房長官らに教団との新たな接点が判明したが、2022年夏に党が実施した点検では報告されていなかった。
裏金作りの経緯や使途は、党幹部が関係議員から聞き取ったという。だが、「身内」の調査で真相に切り込めるか疑問だ。弁護士を入れたとはいえ、不祥事を起こした民間企業のように、独立した第三者によるものではない。
各議員が訂正した報告書も信頼性を欠く。安倍派幹部だった萩生田光一前政調会長の政党支部などでは、支出総額や内訳などに「不明」との記述が目立つ。領収証が残っていなければ、訂正内容が事実かどうかさえ検証できない。
未使用のまま金庫で保管していたと説明する議員もいた。政治資金は非課税だが、「個人の収入となっていた場合、所得税の課税対象になるはずだ」と野党は追及を強めている。
自民に自浄能力がないことが露呈した以上、国会がチェック機能を発揮しなければならない。野党各党は、安倍派幹部と秘書が立件された二階俊博元幹事長が政治倫理審査会に出席し、説明するよう求めている。
だが、岸田文雄首相は国会で「本人の意向を踏まえた上で国会として判断いただく」と人ごとのような答弁を繰り返している。
信頼回復に取り組むのであれば、実現に向けて指導力を発揮しなければならない。国民の代表で構成する国会の場で、疑惑を持たれた議員に説明させるべきだ。