地震後の住まい 地域のつながり大切に(2024年2月14日『東京新聞』-「社説」)

 能登半島地震の被災地で仮設住宅の一部が完成し、避難者たちの入居が始まった。生活再建のためにも住まいの確保は最優先課題だが、地域のつながりがことの外、強い土地柄でもあり、住民同士が絆を保ちながら暮らせるよう配慮することも忘れてほしくない。
 石川県輪島市の市有地に完成した18戸には朝市通りの火災で住宅を失った高齢者らが、珠洲市の小学校グラウンドに建った40戸には周辺住民が入居した。ただ両市だけで入居希望は5千件以上。建設はまさに緒に就いたばかりだ。
 全体の避難者は約1万3千人。県は当面の仮住まい需要を9千戸と予測し仮設住宅を順次提供していく。山間地が多いため建設用地が限られ、津波浸水想定区域内にブロックでかさ上げして建てている仮設住宅もある=写真、輪島市。自宅から遠い仮設への入居を要請されるケースも出てきそうだ。
 仮設住宅だけでは追いつかないため、県は賃貸型「みなし仮設」や公営住宅も確保するが、能登以外、県外も多い。古里近くにいたい被災者は選択しにくいだろう。
 一方、古里を離れた2次避難者約5千人の大半が暮らす加賀地区の宿泊施設の一部では、退去期限が迫る。ホテル等が3月16日の北陸新幹線金沢-敦賀間開業による観光需要に対応するためだ。
 転居先をあっせんする自治体は避難者がたらい回しにされることがないよう厳に注意が必要だ。地元帰還の見通しや復旧の状況を伝えながら個々の意向をくみ取って進めてほしい。コミュニティー再構築の場となるよう県内各地に仮設住宅を設け、2次避難で分散した地域住民が再び集住できるようにする手法も考えてはどうか。
 阪神大震災では被災者が抽選で郊外の仮設住宅に入居。従来のコミュニティーが壊れた結果、孤独死する被災者も出た。それを教訓に、東日本大震災で被災した岩手県陸前高田市長洞地区では、市が示した場所ではなく住民自らが確保した地元の民有地で仮設暮らしを続けた。一室を集会所に充て復興の話し合いも進めたという。絆を重視した民有地活用などの手法は能登でも大いに参考になろう。