マイナカード、いつも持ち歩く? 「財布に入れっぱなし」の人が突然襲われそうな「読み込みトラブル」(2024年2月13日『東京新聞』)

 能登半島地震を受けて、河野太郎デジタル相は1月下旬、記者会見で「マイナンバーカードはタンスに入れておかないで財布に入れて一緒に避難して」と呼びかけた。被災者の居場所の把握や支援物資を配るときに使われていく可能性を挙げながら、「マイナンバーカードを常に持って」とも語った。
 しかし、言われたとおりに財布に入れていたときに、マイナカードが使えなくなってしまうケースがある。取り扱い方次第では、ICチップが壊れてしまうからだ。
オンライン記者会見で「マイナカードを持って避難を」と語る河野デジタル相

オンライン記者会見で「マイナカードを持って避難を」と語る河野デジタル相

 このリスクに気づいたきっかけは、2月最初の日曜日に届いた1通のメールだった。以前、国会内で取材した福島県内の団体職員の男性(56)からの嘆き節が書かれていた。
 「マイナンバーカードのICチップが破損したようです。再発行に2カ月ぐらいかかりそう。確定申告の電子申告はできなくなりそうです」

◆突然、読み込めなくなった

 男性によると異変は突然、訪れた。自宅のカードリーダーを使って、確定申告の準備を進めていたところ、1月末に突然、ICチップの情報が読み込めなくなった。
 見た目で分かる傷はない。男性は「特に壊れるような扱いをした覚えはありません」とも振り返る。壊れた原因があるとすれば、カードを持ち歩いていたことぐらいだという。
 男性は「ボールペンや鉛筆、USBメモリーなどが入っている筆入れに一緒に入れて持ち歩き、保険証として使用するときは胸ポケットやスマートフォンのケースなどに入れていた」と説明した。

◆取り扱いの注意を調べてみると

 これは、良くない持ち歩き方だったのか。
 地方公共団体情報システム機構(J-LIS)のマイナンバーカード総合サイトを調べた。すると「マイナンバーカードの取り扱いについての注意」のページには注意事項が列記されていた。
「ICチップが破損している」と指摘された男性のマイナンバーカードのIC部分=提供写真

「ICチップが破損している」と指摘された男性のマイナンバーカードのIC部分=提供写真

「ICチップ部分に対し、指で触れる、汚す、押す、曲げる、かばんや手提げの中で硬貨・ペンなどと一緒にするなどにより衝撃等を加えないこと」
「カードを入れた財布をズボンの後ろポケットに入れた状態で座ったりしてICチップ部分に局所的な荷重をかけないこと」
「マグネット付きの財布・スマートフォンケースなど強い磁気を発するものに近づけないこと」
「水にぬれた状態で使用しないこと」
 河野氏の呼びかけどおりに財布に入れた時も、こうした注意点に気を付けられていないと、突然、使えなくなるリスクがある。
 男性は「常時、持ち歩いていると壊れる可能性があることが今回、分かりました。今後、多くの人が保険証として持ち歩くようになれば、当たり前のように(ICチップの破損という)トラブルが起きると思います」と心配していた。

◆破損の発生数を尋ねてみたが

 現状では、マイナンバーカードのICチップ破損はどのくらい発生しているのか。総務省、デジタル庁に問い合わせてみたが、いずれも「そのような報告を自治体に求めていない」として数は分からなかった。
 全国保険医団体連合会(保団連)が実施したマイナンバーカードと健康保険証を一体化したマイナ保険証によるトラブルの全国実態調査の結果、2023年10月1日以降、2024年1月10日までに、宮崎県の病院で「カード、チップのわずかなキズで読み取りエラーが頻発する」。神奈川県の歯科医院で「ICチップの読み取り不可の為、役所に行って再発行」という2件の報告があった。
医療機関に設置されたマイナンバーカードを読み取るカードリーダー=浜松市で

医療機関に設置されたマイナンバーカードを読み取るカードリーダー=浜松市

 7200万枚以上あるマイナ保険証の利用率が2023年12月末現在、わずか4.29%の状況で、その多くが「サイフでなくタンス」に大事に保管してあるかもしれないので、今後のICチップの破損可能性は高いとも低いとも見通せない。
 ただ、男性が指摘するように、日常的に持ち歩けば、意図せずICチップが破損するかもしれないことは覚えておいてよさそうだ。
 デジタル庁の広報担当者も「見た目に問題がなくとも磁気の影響を受けて読み込み不可となることは起こり得る」と指摘している。
 さて、そうすると、巨大地震津波が襲い、倒壊した家屋から脱出しなければならない緊急事態に、わざわざ持ち歩く必要がある代物とはどうしても思えない。(長久保宏美)