訪問介護の報酬 引き上げが未来をひらく(2024年2月12日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 
 医療や介護が必要になっても、住み慣れた地域で暮らすことができるよう支援する「地域包括ケア」。厚生労働省はこの看板を下ろすつもりなのか。

 2024年度の介護報酬見直しで、施設系サービスは基本報酬が引き上げられる一方、訪問介護サービスは軒並み引き下げられた。地域包括ケアの要の訪問介護を切り捨てるかのような扱いだ。

 各地で抗議の声が強まっている。「ケア社会をつくる会」など民間の5団体が引き下げ方針の撤回を求める共同声明を出した。

 日本ホームヘルパー協会など2団体は武見敬三厚労相に対し抗議文を提出。「さらなる人材不足を招くことは明らか」「訪問介護が受けられない地域が広がりかねない」と訴えている。

 人手不足に苦しむ介護業界の中でも、ヘルパー不足は突出している。訪問介護事業者の倒産件数は昨年、過去最多を更新した。

 事業所の撤退が相次ぎ、「保険あってサービスなし」が現実となっている。基本報酬の引き下げはとどめの一撃となるだろう。

 厚労省は引き下げの理由に、経営実態調査で平均利益率が良好だったことを挙げている。しかし利益率は、事業所の立地や規模によって差が大きい。

 例えばサービス付き高齢者向け住宅に併設する事業所なら効率的に入居者を回れるだろう。でも利用者宅を一軒一軒巡るヘルパーは移動に時間がかかる。まして信州は、中山間地の集落に利用者宅が点在する地域が少なくない。

 厚労省は机上の数字よりも現場、それも地域に根差し在宅介護を支えてきた小規模事業所の実態をよく見るべきだ。

 ヘルパーらの賃上げを実施した事業所には、報酬を大幅に加算する措置を設けた。基本報酬を引き下げても、加算分を受け取れば収入総額は増える―。厚労省のもう一つの論拠も説得力に欠ける。

 引き下げの影響が大きく、加算されても総収入は減ると試算している事業所もある。小さな事業所でも増収になるのか、厚労省は詳細な試算を示す必要がある。

 基本報酬はサービスの内容などに応じた公定価格で、介護報酬の「幹」に当たる。事業所収入の柱となるべきものだ。加算は一定の要件を満たすとプラス算定される項目でいわば「枝」。ヘルパーの処遇改善が急務の今、収入の幹を細らせるのは本末転倒である。

 訪問介護は地域の在宅ケアの未来を担う。厚労省は基本報酬を引き上げるべきだ。