なぜ「足立区」が一番危ないのか…大地震で死者・負傷者数が多くなるかもしれない「地域の名前」(2025年1月24日『現代ビジネス』)

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2024年1月1日、能登半島地震が発生した。大地震はいつ襲ってくるかわからないから恐ろしいということを多くの人が実感した出来事だった。昨年には南海トラフ「巨大地震注意」が発表され、大災害への危機感が増している。
もはや誰もが大地震から逃れられない時代、ベストセラーの話題書『首都防衛』では、知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」が描かれ、また、防災に必要なデータ・対策が1冊にまとまっている。
(※本記事は宮地美陽子『首都防衛』から抜粋・編集したものです)
液状化」にも要注意
埋め立てられたような土地は、地震の揺れだけでなく、液状化にも注意が必要だ。
市域の7割超が埋め立て地である千葉県浦安市東日本大震災で住宅の液状化被害が8700棟に上った。全国的にみても埋め立てられた場所では液状化による被害が後を絶たない。
東京都が公表した「都心南部直下地震」の被害想定を見ると、東京都内で全壊棟数、死者数、負傷者数ともに最多なのは、23区の北東部にある足立区だ。荒川と隅田川に挟まれる千住地区などは平坦な低地で、泥と砂が堆積した軟らかい地盤であるため、地震の揺れが増幅しやすいと言われている。
足立区を含めた江東区江戸川区墨田区葛飾区の5区は全域が低地で、一部では地表面の海抜が満潮時の海の高さよりも低い「海抜ゼロメートル地帯」になっている。
関東学院大学工学総合研究所の若松加寿江研究員は「低地の中では地下が埋没谷になっていて川や海が運んだ軟らかい土砂で埋められている谷筋は一般に揺れやすい。首都圏で言えば、葛飾区から足立区を経て埼玉県三郷市に続く約400年前に利根川が流れていた低地(一般に中川低地と呼ばれている)と、足立区・荒川区・北区を経て埼玉県川口市に続く荒川に沿った低地(荒川低地)が危ない」と分析する。
埋没谷の谷筋は100年前の関東大震災の震度分布図を見るとわかりやすい。
関東大震災震度6弱以上だったと推計される場所は、震源域内にある神奈川県や房総半島南西部を除くと、前述の中川低地と荒川低地に分布しており、2021年10月の千葉県北西部地震で震度5強、5弱を観測したエリアとも一致している。揺れやすい地盤は100年経っても変わっていないのだ。
さらに遡って今から約560年前、室町時代の1460年頃に描かれた絵図には、現在の東京・台東区千束や上野不忍池の付近、水道橋・飯田橋、文京区白鳥橋、港区の溜池山王駅の周辺、麻布十番から古川橋には沼地がある。日比谷付近は入り江になっている。
これらの沼地や入り江だった場所は、関東大震災でも住家全壊率が際だって高くなっている。日比谷入り江は、1600年代に埋め立てられ大名屋敷となったが、現在の日比谷公園はかつての入り江のど真ん中にある。東日本大震災のときには日比谷公会堂付近が陥没した。埋め立てから400年近く経っても地盤が軟弱であることには変わりがないのだ。
地盤の強さを知るために
地震による被害を左右する地盤を知ることができるサービスは、インターネット上でも展開されている。
たとえば、全国労働者共済生活協同組合連合会(全労済)の「お住まいの地盤診断サービス」は、地盤の強さや液状化、浸水の可能性といった災害リスクを地図から確認することができる。
この「地盤サポートマップ」で気になる土地の住所を入力すると、検索した地点の標高や地形、地質といったデータが表示され、避難所までの距離や地震時の揺れやすさ、浸水や液状化、土砂災害の可能性などを知ることができる。地盤の強さが簡単に調べられるのは便利で、地震による揺れやすさの目安を把握できる。
国土交通省が公表する「ハザードマップポータルサイト」には国や自治体が公表する全国の最新のハザードマップが掲載されている。自然災害は単独で起きるとは限らない。このサイトでは住所検索で洪水、土砂災害、高潮、津波など、複数の災害リスクを重ね合わせて表示することができる。
自分の暮らすエリアの地盤や災害リスクはどうなのか調べておくことをオススメしたい。足立区では2023年4月から3年間限定で地震対策の助成金を大幅に拡充するなど各自治体も対策強化に乗り出している。まずは自分の「足元」をしっかりと見つめて自治体の情報も取り入れることが生き残るためには重要と言えるのだ。
つづく「『まさか死んでないよな…』ある日突然、日本人を襲う大災害『最悪のシミュレーション』」では、日本でかなりの確率で起こり得る「恐怖の大連動」の全容を具体的なケース・シミュレーションで描き出している。
宮地 美陽子(東京都知事政務担当特別秘書)

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首都防衛 (講談社現代新書) 新書 – 2023/8/23
宮地 美陽子 (著)
 
首都直下地震南海トラフ巨大地震、富士山大噴火……
過去にも一度起きた「恐怖の大連動」は、東京・日本をどう壊すのか?
命を守るために、いま何をやるべきか?
最新データや数々の専門家の知見から明らかになった、
知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」とは――。
【本書のおもな内容】
●320年ほど前に起きた「前代未聞の大災害」
●首都直下地震帰宅困難者453万人、6000人が犠牲に
●朝・昼・夕で被害はどれだけ違うのか?
南海トラフが富士山噴火と首都直下地震を呼び起こす
●なぜ「足立区」が一番危ないのか?
●「7秒」が生死を分ける、半数は家で亡くなる
●大震災で多くの人が最も必要と感じる情報とは?
●国や都の機能が緊急時に「立川」に移るワケ
●そもそも地震は「予知」できるのか?
●「内陸直下の地震」と「海溝型の地震」は何が違うのか?
●エレベーター乗車前に「すべきこと」
●半年に1度の家族会議をする地震学者
●なぜ「耐震改修」が進まないのか?
弾道ミサイルから逃げられない事情
●天気はコントロールできるのか……ほか
【目次】
はじめに 最悪のシミュレーション
第1章 首都直下地震の「本当の恐怖」
第2章 南海トラフ巨大地震は想像を超える
第3章 大災害「10の教訓」
第4章 富士山噴火・気象災害・弾道ミサイ