じつは、東京で「巨大地震」が起きたら「東部」がかなり危険だった(2025年1月4日『現代ビジネス』)

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2024年1月1日、能登半島地震が発生した。大地震はいつ襲ってくるかわからないから恐ろしいということを多くの人が実感した出来事だった。昨年には南海トラフ「巨大地震注意」が発表され、大災害への危機感が増している。
もはや誰もが大地震から逃れられない時代、ベストセラーの話題書『首都防衛』では、知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」が描かれ、また、防災に必要なデータ・対策が1冊にまとまっている。
(※本記事は宮地美陽子『首都防衛』から抜粋・編集したものです)
首都直下地震の火災による被害
いつか東京を襲う首都直下地震は、どのような被害をもたらすのか。
建物が崩壊するだけでなく、火災にも警戒する必要がある。
〈東京都が2022年5月に公表した首都直下地震の被害想定は、最大約11万8000棟で火災による被害が生じ、2482人が犠牲になるとしている。
(中略)
市街地の燃えにくさを示す指標「不燃領域率」の平均は東日本大震災直後の58.4%から約10年間で65.5%に改善した。
だが、延焼の危険性がほぼなくなるとされる7割には届いていないのが実情だ。木密地域の課題は首都の弱点にもつながる。〉(『首都防衛』より)
このまま対策が進まないのであれば、首都が火の海に包まれる危険性もある。
東京は「東部」が危ない
それでは、具体的にどのエリアが危ないのだろうか。
液状化などと同じく、やはり「東部」の危険性が高い。
東京消防庁が震災時の火災発生危険性をおおむね5年ごとに評価している「地域別出火危険度測定」によれば、地盤が軟弱で地震時に揺れやすい東京23区の東部で総合出火危険度が高い。
なかでも繁華街が目立つ台東区から中央区、港区北部、木造住宅の密集が著しい墨田区江東区荒川区で出火危険度が高かった。
同庁が消防隊や住民による消火活動を考慮せず、墨田区京島地区で同時に4件の火災が発生したシミュレーション(震度7・風速8メートル)を実施した結果、延焼により6時間後には8万6352平方メートル、東京ドームおよそ2個分の面積が焼失すると試算された。〉(『首都防衛』より)
100年前の関東大震災でも、被害を拡大したのは火災だった。
首都直下地震南海トラフ巨大地震などの地震とともに、火災についても最新データやシミュレーションを知って「そのとき」に備えたい。
つづく「『まさか死んでないよな…』ある日突然、日本人を襲う大災害『最悪のシミュレーション』」では、日本でかなりの確率で起こり得る「恐怖の大連動」の全容を具体的なケース・シミュレーションで描き出している。
現代新書編集部

なんと「死者3500人」…首都直下地震が「日本危機」である「本当の理由」(2025年1月4日『現代ビジネス』)
 
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2024年1月1日、能登半島地震が発生した。大地震はいつ襲ってくるかわからないから恐ろしいということを多くの人が実感した出来事だった。昨年には南海トラフ「巨大地震注意」が発表され、大災害への危機感が増している。
もはや誰もが大地震から逃れられない時代、ベストセラーの話題書『首都防衛』では、知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」が描かれ、また、防災に必要なデータ・対策が1冊にまとまっている。
(※本記事は宮地美陽子『首都防衛』から抜粋・編集したものです)
首都直下地震の被害想定
首都直下地震──。
政府の中央防災会議が「今後直下の地震の発生の切迫性が高まってくることは疑いない」と南関東地域における大地震発生に警鐘を鳴らしたのは、1992年8月。
それから30年超が経過し、毎年9月1日の「防災の日」に醸成されるはずの危機感は年々失われてきた。
政府の地震調査委員会は2014年に「今後30年間に70%の確率で起きる」と指摘したが、もはや“オオカミ少年”への眼差しと似たようなものが向けられていた。
しかし、東京都が2022年5月、10年ぶりに見直した被害想定を見れば、首都を襲う直下地震のダメージは甚大だ。
都心南部直下地震が冬の夕方に発生した場合、都内の全壊する建物は約8万2200棟に上り、火災の発生で約11万8700棟が焼失。避難者は約299万人に達する。
発災直後は広範囲で停電が発生し、首都機能を維持するための計画停電が行われる可能性も生じる。
上水道は23区の約3割、多摩地域の約1割で断水。上下水の配管などが被害を受けたビルやマンションは修理しなければ水道やトイレを利用できない状況が続く。
電話やインターネットはつながらず、携帯電話の基地局が持つ非常用電源のバッテリーが枯渇した場合には利用不能状態が長引くおそれがある。
在来線や私鉄は運行がストップ。東京湾の岸壁の約7割が被害を受けて物流には大きな影響が生じ、物資不足への懸念から「買いだめ」が多発していく。
避難所で生活する人の数は自宅の備蓄がなくなる発災4日後から1週間後にかけてピークを迎え、体の不調から死亡する「災害関連死」もみられるようになる。
10年前の想定とは震源の位置や深さが異なるため、比較することは難しいものの、死者は約3500人、全壊建物は約3万4000棟、帰宅困難者は約64万人それぞれ少なくなっている。
だが、東京都が見直した2022年の被害想定が「最悪」のシミュレーションなのかと言えば、答えは「NO」だ。
直接的な経済被害は21兆円以上
仮設住宅へ移り住んだタクシー運転手の浜田幸男(仮名)は、“新拠点”での生活に適応しつつあった。
阪神・淡路大震災を経験し、もう地震は嫌だと思って東京に来たけど、まさか2度も被害に遭うことになるとは思わなかったな」。ポツリと漏れる本音に妻・幸子も同意する。
東京都が想定した建物・インフラ損壊といった直接的な経済被害は約21兆5640億円だ。
ただ、物流停滞や生産活動の停止などの間接的な被害に加え、物価も高騰。1本100円のミネラルウォーターは100円玉を2枚投じなければ購入できなくなった。円安が急速に進行し、輸入品の価格も跳ね上がる。
地震の首都襲来は「日本危機」につながる。老後生活のために浜田がコツコツと貯めてきたお金は実質目減りしていった。
「もう一度、ゼロからやり直さないとな……」。何とも言えない表情で口を真一文字に結んだ浜田に、幸子はそっと肩を寄せた。
つづく「『まさか死んでないよな…』ある日突然、日本人を襲う大災害『最悪のシミュレーション』」では、日本でかなりの確率で起こり得る「恐怖の大連動」の全容を具体的なケース・シミュレーションで描き出している。
宮地 美陽子(東京都知事政務担当特別秘書)

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首都防衛 (講談社現代新書) 新書 – 2023/8/23
宮地 美陽子 (著)
首都直下地震南海トラフ巨大地震、富士山大噴火……
過去にも一度起きた「恐怖の大連動」は、東京・日本をどう壊すのか?
命を守るために、いま何をやるべきか?
最新データや数々の専門家の知見から明らかになった、
知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」とは――。
【本書のおもな内容】
●320年ほど前に起きた「前代未聞の大災害」
●首都直下地震帰宅困難者453万人、6000人が犠牲に
●朝・昼・夕で被害はどれだけ違うのか?
南海トラフが富士山噴火と首都直下地震を呼び起こす
●なぜ「足立区」が一番危ないのか?
●「7秒」が生死を分ける、半数は家で亡くなる
●大震災で多くの人が最も必要と感じる情報とは?
●国や都の機能が緊急時に「立川」に移るワケ
●そもそも地震は「予知」できるのか?
●「内陸直下の地震」と「海溝型の地震」は何が違うのか?
●エレベーター乗車前に「すべきこと」
●半年に1度の家族会議をする地震学者
●なぜ「耐震改修」が進まないのか?
弾道ミサイルから逃げられない事情
●天気はコントロールできるのか……ほか
【目次】
はじめに 最悪のシミュレーション
第1章 首都直下地震の「本当の恐怖」
第2章 南海トラフ巨大地震は想像を超える
第3章 大災害「10の教訓」
第4章 富士山噴火・気象災害・弾道ミサイル