年末年始の「帰省ブルー」カウントダウン、親と子に本音を聞いたら“心の葛藤”が深すぎた(2024年12月16日『ダイヤモンド・オンライン』)

キャプチャ
あなたにとって、実家への帰省は心休まるひとときだろうか(写真はイメージです) Photo:PIXTA
 あっという間に今年も12月、数週間後には年末年始の帰省シーズンとなる。実家への帰省は一般的に心休まるひとときと考えられているが、未婚男女の場合、「結婚はいつ?」というプレッシャーに晒されやすい時期でもある。現代の帰省ブルーの実態とは。(フリーライター 武藤弘樹)
● 安らぎの場所がプレッシャーへと変わる 「帰省ブルー」とは
 実家は大人にとって基本的に心安らげる場所である。社会の重圧やしがらみからのひとときの保護を、実家は提供してくれる。
 しかし、その実家が安らぎの場所とならない展開もある。特にこのご時世ならではの、ある顕現しやすいパターンがあって、それは親によって結婚・恋愛の話題が持ち出されるときである。
 周知のごとく、婚姻率および婚姻件数は低下の一途を辿っていて、「結婚しないこと」がライフスタイルの新たな選択肢として定着してきているのが現在である。しかし、その親の世代は「結婚するのが当たり前」という世相の中で長年過ごしてきたため、未婚の我が子を眺めていると落ち着かない気分になりがちである。
 そこで、子が実家に帰ってきた折に、親は程度は様々だろうが探りを入れる。中にはお見合いを勧める親もいるだろう。または、「近所の誰々ちゃんが結婚した」というまったく他意のない世間話でも、それが親の口から発せられたというだけで、子がそれをプレッシャーに感じてしまうこともある。
 実家に帰っても結婚・恋愛の話になったら嫌だな……と、帰省が憂鬱に感じられるようになるこの現象は「帰省ブルー」と名付けられ、どうやら数年経ったようである。
 なお「帰省ブルー」は文脈によってやや意味合いが変わって、義実家に赴くのが憂うつな場合にも用いられる。当記事では未婚の子が感じる「帰省ブルー」に絞って言及をしていく。
● アンケートに見る 「帰省ブルー」の実態
 と、ここまで前置きが長くなったが、帰省ブルーについて掘り下げたあるアンケートがあって、これが帰省ブルーの実態を表していて興味深い。さらに、親と子の間にある葛藤の様子も伝わってくるのである。
 【参考】
 帰省時に実家で結婚・恋愛の話をしたことがある独身者のうち、プレッシャーを「感じる」としたのが46.1%、「感じない」が53.9%となった。少し差はあるが、だいたい半々である。
 次に、そうした話題で恋活・婚活のモチベーションが低下したことが「ある」が42.9%、そうした話題が憂うつで帰省をやめた経験が「ある」は17.4%となった。帰省を取りやめるくらい、それを負担に思う独身者が一定数いるところに注目である。
 では、親のどういった言葉が子にとってはプレッシャーとなるのか。以下が全回答である(言い回しは引用元から簡略化している)。
「恋人はいないのか?」……66.3%
「孫の顔が見たい」……34.4%
「〇〇さん(知人等)は結婚したらしいよ」……28.7%
親戚などの複数人が集まる場で恋愛・結婚の話を振られる……26.6%
今の自分の状況を否定される……22.4%
「相手を紹介しようか?」……10.4%
自分が結婚して幸せだった話をされる……6.5%
その他……4.1%
 何がプレッシャーになるかは人によりけりだが、親が相当繊細な注意を払っても結婚・恋愛の話題というだけで子の負担となってしまう可能性もあるようだ。
 こうした世代間による価値観のギャップを前にして子が取る行動が、アンケートが示すところによると何やら現代的で面白い。
 「恋愛や結婚のプレッシャーに対して、帰省時にどんな行動を取っていますか?」という質問への回答は以下のとおりだ。
・恋愛や結婚よりも優先度が高い事柄があると伝える……27.8%
・親としっかり話し合う……16.0%
・親と顔を合わせる時間を減らす……13.7%
・外出の予定を増やす(実家にいる時間を減らす)……10.9%
・特に何もしていない……38.2%
 事情を伝えたり話し合ったり、というコミュニケーションによって親の理解を得ようとする人の割合が合計で43.8%で、最大多数となった。これは、「白は白、黒は黒」で決したあとはそれが覆りにくかった一昔前に比して、多様性を認めようとする現代人らしい姿勢と言えるかもしれない。
 この場合、相互理解のために話し合いを持ちかける子世代の方こそ新時代のコミュニケーションの申し子という印象が強く映るが、話し合いである以上相手がいなければ成立せず、子との話し合いに応じ意見の受け止め手となる親世代にも多様性を認めようとする姿勢――すなわち相応のアップデートが見られるのであった。
● 親の本音はどう? 受容か、諦めか、要求か……
 独身者への質問「帰省の際に、親が子に恋愛・結婚の話題を投げかける理由は何だと思うか?」への回答では、多数が「子どもを単純に心配している」(76.2%)となった。子どもは「未婚であることを親に心配されている」と感じているようである。
 では実際、親は未婚の我が子についてどのように思っているのか。以下は、筆者の聞き込みによって集まったエピソードだ。
 「娘に特に結婚願望はない様子。日常は充実しているようで、『結婚しなくていいのかな』という心配な気持ちがなくなることはないが、新しい時代のライフスタイルだと認めるべきだとは思うし、娘を応援したい気持ちは嘘ではない」(30代前半の娘を持つ60代父)
 「娘とは一度、結婚についてきちんと話し合った。私が孫の顔を見たかったことは伝え、娘からは『ごめんねお母さん、私は結婚するつもりはない』と説明された。残念ではあるけど、娘の人生なので、私の願望で左右できるものではない」(40代前半の娘を持つ60代母親)
 世代由来の価値観の違いや、子と親の希望がすれ違ってしまったとき、戸惑いながらもそれを受容しようとするのは、令和の親が取り得るひとつのパターンである。上記の談話は回答者が苦笑交じりに話してくれたが、その様子がまさしく親の悩ましさを物語っているように思われた。
 他には「何も言う気はないので全て子どもの好きにしたらいいと思っている」(30代後半の息子を持つ60代父親)というスタンスの人もいた。
 しかし令和の親であるからといって「いかにも物分かり良さげな親」を演じる必要はない。以下の反応もごく自然な親の反応であろう。
 「独身でフラフラしているのが見ていて心配で仕方がない。他の兄弟は結婚しているので、次男も早く結婚して私を安心させてほしい」(30代後半の息子を持つ60代女性)
 「若い頃から孫の顔を見るのが夢で歳を重ねてきたので、現代は独身が珍しくない時代といっても、なかなかやりきれないものがある」(40代前半の息子を持つ60代男性)
● 「推し活」だけで人生は充実 恋活・婚活以上に何を優先?
 では、独身でいる子の方の事情はどうか。恋活・婚活以上に優先しているものがある人に、何を優先しているのかを聞いた結果が下記である。(引用元は前記)
・仕事……39.7%
・趣味(推し活など)……28.4%
・自分磨き……13.4%
・特にない……8.2%
 (以下割愛)
 筆者の周りにも推し活に精を出すアラサー・アラフォーの女性が数名いて、ときには推しを追いかけて遠征したりして、とても充実しているように見える。
 この人たちは恋愛に興味を示さないのだが、身だしなみに気を使っていないかというとそんなことはなく、むしろ逆で、お洒落で魅力的である。推しの前では120%の自分でいたいと努力しているかららしい。
 そうした独身者は、親にどのような思いを抱いているのか。
 「母もかなり自由に生きてきた人だった。私も自由に生きることについては、母に理解してもらっている」(40代女性)
 「母、特に父は私に結婚してほしそうだが、まったく婚活をしない私を見ているうちに半ば諦めてきていると思う。両親の期待に応えられないことは少し心苦しいが、そこで私が申し訳なく感じてしまうのも違う気がする。兄は結婚して子どもがいるので、親は孫成分をそちらで補充していて、私にとってはありがたい」(30代女性)
 「結婚しろという圧力を両親から強く感じていて、それが嫌で実家を出た。両親はそのまま変わらないと思うので、この微妙に疎遠な距離感がずっと続くと思う」(40代男性)
● 親世代とは決定的に違う! 子に共通する「ある姿勢」とは
 親への信頼、心苦しさ、反発など、独身者には様々な可能性の反応が想定されるが、多くに共通する点がある。それは、「独身者は親の希望に沿うべく自分の生き方を大幅に曲げることはない」である。
 自分に結婚してほしいらしい親の願望を理解し、自身も結婚にまったく興味がないわけではないが、ご縁も婚活をするほどのモチベーションもないので、そこに関しては「なるようになれ」の心持ちで過ごしている独身者は非常に多い。そうした未婚の子に対して、親が自身の希望を叶えるべく何かを言ったり働きかけたりすることの影響力はゼロではないが、子の生き方を大きく変えるまでには至らないようである。
 以上が帰省ブルーを探った実態である。時代ごとにある程度の傾向はあるとはいえ、親子の形は千差万別である。平穏仲良しの親子もいれば、バチバチにやり合いまくっている親子もいる。互いの心の赴くままに構築されたのがその親子の関係であり、世間に合わせようと無理に自分の形を変えようとしてしまうことの方がどこかにひずみを生じさせかねない。彼我の関係性を考慮に入れた上で、自分に最もしっくり来るスタンスを模索されたい。
武藤弘樹