尹氏逮捕へ本腰の韓国警察 大統領府を家宅捜索、高官「拘束は可能」(2024年12月11日『毎日新聞』)

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韓国の国会前で、尹錫悦大統領の弾劾を求めて集会をする人たち=ソウルで2024年12月11日、ロイター
 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が出した「非常戒厳」を巡り、韓国警察は11日、大統領府などの家宅捜索に着手した。聯合ニュースによると捜索令状には、容疑者として尹氏の名前が明記されており、尹氏に対する内乱容疑などでの捜査が本格化した。今後、当局が尹氏の拘束に踏み切るかが焦点となる。
 韓国メディアによると、韓国の現職大統領が拘束されれば初めて。大統領は不訴追特権が認められているが、内乱罪は例外。ただ警察による11日の家宅捜索は、大統領警護庁が阻止し、内部の捜索には失敗した。
 捜査当局は、尹氏を事件の首謀者とみて、捜査を進めている。警察は大統領府の捜索で、尹氏の直接的な関与を示す証拠を得る狙いとみられる。だが大統領府は11日、警察を管轄する行政安全省に対し、戒厳令前に開かれた閣議の「発言要旨は保有していない」と回答した。
 ソウル中央地裁は10日深夜、尹氏に戒厳令を進言した金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相について、「犯罪容疑が重大で証拠隠滅の恐れがある」として検察が求めていた内乱容疑などでの逮捕状請求を認めた。検察は直ちに金氏を逮捕した。金氏は10日深夜、拘置所内で自殺を図ったが、無事だった。
 検察は逮捕状請求の際、尹氏と金氏が共謀して事件を起こしたとの見方を示しており、裁判所も検察が示した容疑が「一定程度、合理的な推測に基づく」と認め、逮捕状を発付した。警察とは別に捜査を進める「高官犯罪捜査庁」の高官は11日、状況次第では大統領についての逮捕令状請求や(出頭を求めた上での)拘束が可能だと述べた。
 大手紙「朝鮮日報」によると、尹氏は3日夜に開いた閣議で、戒厳令を出すと表明。一部の閣僚が強く反対したが、尹氏は「大統領としての私の判断だ」と押し切り、その後、戒厳令を宣布した。
 警察は10日、韓悳洙首相や国務委員(閣僚)ら計11人に対し、戒厳令を審議した閣議の内容などについて事情を聴くため、出頭を要請した。警察は、韓首相らが応じない場合は「強制捜査をする」と警告している。11人は3日夜に開かれた閣議に出席していた。
 さらに警察は11日未明、警察トップの警察庁長官とソウル市警トップの2人を内乱容疑で拘束した。3日夜、国会議員らが国会に入ろうとするのを妨害した疑いが持たれている。警察トップや、ソウル市警トップの拘束は初めて。国会は4日未明、戒厳令解除要求決議案を可決した。一部の国会議員は国会に入れなかった。
 国会で過半数議席を握る最大野党「共に民主党」は、14日夕に尹氏に対する弾劾訴追案を採決する方針。弾劾案の可決には与党議員の8人以上の賛成が必要。可決されれば尹氏は職務停止となる。その後、憲法裁が弾劾訴追の是非について妥当だと判断すれば、尹氏は失職。大統領選となる。
 韓国メディアは11日夕、与党議員5人が賛成を表明したと伝えた。今後、さらに賛成を明らかにする議員が増える可能性がある。
 与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表は、尹氏に対して早期退陣を求めている。しかし、朝鮮日報によると、尹氏は10日、与党に対し、「退陣はせず弾劾訴追を受け入れ、憲法裁判所で積極的に対応する」との考えを伝えたという。一方で聯合ニュースは11日、一部の与党議員が「尹氏のこうした発言は確認されていない」と述べており、情報が錯綜(さくそう)している。
 尹氏はすでに内乱罪容疑の捜査や弾劾訴追に備えて弁護団の構成に動き出しているとの報道もあり、自ら退陣はせず、最後まで法的に争うとの見方が広がっている。【ソウル福岡静哉、日下部元美】