「いっそ高市新党を」の声に石破総理の「青い鳥は外にはいない」の見解(2024年10月16日『デイリー新潮』)

高市氏の“思い切った行動”に期待を寄せる人は少なくないが――
「火事とけんかは江戸の華」という言葉から分かるように、多くの人にとって他人のけんかは一種の見世物である。国家間のけんかで犠牲者が出ているとなると話は別だが、政治家同士のもめ事くらいならば一種のエンターテインメントにもなりうる。だから政局記事は根強い人気を誇るのである。
 
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 自民党総裁選で石破茂氏に惜敗した高市早苗氏を巡っては、応援団はもちろんメディアも「けんか」を期待しているようだ。「週刊ポスト」10月18・25日号は「『高市新党』の乱 自民大分裂へ!」と大きな見出しを打ち、3ページにわたり高市氏が倒閣運動に動く可能性をレポートしている。同記事では日本保守党からの立候補を表明している河村たかし氏が高市氏へのラブコールを口にして、共闘を求めている。
 ポストや公認問題で冷遇された旧安倍派の議員らが高市氏と共に動くのではないか、あるいは動くと面白い、といった見立てを口にする識者もいるようだ。
 時代の変化を感じさせるのは、この種の「分裂」「新党」といった意見、これまでは高市氏ではなく石破氏に寄せられるのが常だったということだろう。第4次安倍内閣以降、本人はもちろん周囲も徹底的に干されていた石破氏は「いっそ新党を作ればいいじゃないか」と言われることが多かった。あるいは野党と合流することを期待する声もあった。
 しかし、本人は一貫してそうした可能性を否定してきた。どれだけ冷や飯を食わされても自民党から離れようとは考えていなかったようだ。
 それはなぜか。石破氏は自身の過去を振り返りつつ「青い鳥は外にはいない」と述べている。
 著書『異論正論』をもとに見てみよう(以下、同書から抜粋・再構成しました)
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文句があるなら出て行けという人
 あちこちで自分の考えを述べていると、さまざまな声をいただきます。ネット配信された際に寄せられるコメントにはなるべく目を通すようにしています。
 その中で多いのは次の二つでしょうか。
「いっそ新党を作ればいいじゃないか」
「そんなに文句があるのなら自民党を出て行け。足を引っ張るな」
 前者には期待を込めて書いてくださる方もいらっしゃるのでしょうが、後者については長い間、寄せられてきた批判です。
 私は政治家になってから一貫して「自分が正しいと思うことを自由に述べられなければ、政治家になった意味がない」と考えています。また、自民党は多様な意見により強さを増す──言い換えれば国民の支持を得る──政党だと思っています。ですから、異論に対して「足を引っ張るな」というのは的外れですし、そのような言説はむしろ「ひいきの引き倒し」になり、自民党を強くすることにはつながらないと思います。
「新党を作れ」という声については、一度党を出た経験があるからこそ、「青い鳥は外にいるわけではない」というのが実感です。少し昔話をさせてください。
なぜ私は離党したのか
 1993年6月、宮澤喜一内閣に不信任案が提出されました。細かい経緯は省きますが、この時、自民党内に賛成に回った議員が多く出ます。私もその一人でした。この直後に離党して新党を作ったのが小沢一郎氏や武村正義氏です。小沢氏は賛成してから離党、武村氏らは反対したのちに離党して行動を起こしています。
 その後、私はしばらく離党はせず自民党に残っていたのですが、直後の総選挙では公認をもらえず無所属で出馬し、トップ当選というありがたい結果をいただきました。その後、新党に参加することを決意したのは、河野洋平自民党総裁(当時)の下では、憲法改正論議を凍結する、という方針だったことが原因でした。
 長年、憲法改正を党是としてきた自民党が下野したからといって、その旗を降ろすというのはまったく理屈に合いません。他方、小沢氏率いる新生党集団的自衛権の行使容認を政策として掲げ、憲法改正にも積極的だということで、私は「本来の保守は新生党になったんだ」と思い、入党することにしたのです。
 ところが実際には、そうした政策論議が党内で行われることはほとんどなく、来る日も来る日も権力闘争が繰り返されているという有様でした。憲法改正や安全保障問題など私が重要だと思うようなことを、党内で議論しても、それが党としての政策に反映されることはなかったのです。本格的な政策論議をするため、というお題目で小選挙区導入を推進したはずなのに、目にしたのはそんな理想とはほど遠い現実でした。
 新生党はいくつかの新党と合従連衡したのちに新進党となりました。大きな党となり、自民党と対峙して二大政党制を確立する、その政治改革の夢が実現したかのように見えました。しかし総選挙直前になってその新進党が打ち出したのは、「集団的自衛権は行使しない」「消費税はこれ以上上げない」等といった、それまでとはまったく異なる政策でした。
 こうして、私が自民党を離党してまで取り組もうとした政策は、ここでもまた否定されました。
 結局、次の総選挙では再度無所属として立候補し、当選を果たしたのち、私は自民党に復党します。
自民党の魅力とは
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意見が対立することや面倒な議論を政治家は先送りにしてきた。経済、医療、安全保障等、すべてにおいてツケは溜まっていくばかり。次の世代がその負債を背負わされ、国が滅びていくのを見過ごして良いはずがない。ならば、どんなに煙たがられようとも、異議を唱え、信じる正論を語り続けるしかないではないか――政界きっての政策通が新型コロナ禍から国防まで直近のテーマをもとに正面から堂々と語る論考集 『異論正論』
 
 この一連の行動を批判的に見る方がいることは承知していますが、私自身の主張は初当選の時からさほど変わっていません。憲法改正集団的自衛権の全面的行使を可能とすること、地方分権を推進すること。そして2世やタレントでなくても国会議員を目指せるような環境を実現すること。
 その後、自民党は再び憲法改正を目指す姿勢を明確にしました。そして、その他の政策でももっとも私の主張と合致するのが自民党なのです。
 また、イデオロギー政党ではなく実に日本的な存在である点も自民党の魅力の一つです。原理原則に縛られない、良く言えば融通無碍(ゆうずうむげ)な政党です。
 イデオロギーを至上のものとしている人の目にはともすればいい加減に映るかもしれませんが、この自民党の現実的なところが多くの日本人の感性に合っているのではないか、と私は思っています。
 そんなわけで「新党を作れ」や「党を出て行け」といったご意見に従うことはできないのです。
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 かくして冷遇されながらも自民党に残った石破氏は、総裁選でまさかの勝利を成し遂げる。この本人の文章で興味深いのは、若き日の石破氏も党から「公認」をもらえずに選挙に臨んだ経験があるという点だ。そこでトップ当選を果たしたのちに自民党に戻っている。この時の経験は、今回の「裏金議員非公認」の決断に影響しただろうか。
 高市氏の“思い切った行動”に期待を寄せる人は少なくない。しかしそれが高市氏のため、さらには国家のためなのか、単に利用しようとしているのか、あるいは「けんか」を面白がっているだけなのか、そのあたりも高市氏は見極める必要がありそうだ。
デイリー新潮編集部
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