能登豪雨の土砂崩れは「地震による斜面崩壊で被害拡大したか」 専門家の現地調査に同行して見たもの(2024年10月14日『東京新聞』)

 
 石川県立大の柳井(やない)清治特任教授(流域環境学)が、能登半島地震の被災地を襲った記録的豪雨で氾濫した同県輪島市町野町の鈴屋川の土砂崩れの現場を調査した。元日の地震で崩落した場所の山腹などにとどまっていた大量の土砂が、短時間に集中した大雨で流木とともに流れ下った可能性を指摘。今後も大雨による二次災害が発生する恐れがあり、警戒が必要としている。(奥田哲平)

能登半島に特徴的な珪質泥岩は元々もろい

 輪島市町野町中心部に土砂が流れ込む原因となった鈴屋川の氾濫。柳井特任教授と記者は1日、上流に向かう県道40号の立ち入りが制限された区域に、道路の開通工事に当たる建設会社の担当者とともに徒歩で入った。
鈴屋川流域の被害状況を確かめる石川県立大の柳井清治特任教授=1日、石川県輪島市町野町で

鈴屋川流域の被害状況を確かめる石川県立大の柳井清治特任教授=1日、石川県輪島市町野町で

 山側から川に向かい、家や樹木を倒した土砂崩れが複数箇所で発生。柳井特任教授は「本格的な調査はこれから」と前置きした上で「くぼんでいる地形に水が集まって浸食が広がり、崩落した場所が多いという印象。もう一つ(の特徴)は崩壊の厚みが薄い。表層土やその下の風化層と地盤の間に浸透水が流れ、崩落したという場合が多いと思う」と話す。
 国土地理院の判読では、能登半島では元日の地震で少なくとも2300カ所以上で土砂崩れなどの崩壊と河川などへの堆積が発生。豪雨でさらに半島北側の外浦一帯だけで1500カ所が崩壊・堆積した。柳井特任教授によると、崩落は能登半島に特徴的な珪質泥(けいしつでい)岩の地層が分布する場所に多い。珪質泥岩はもともと「もろい岩」で、地震の揺れなどで壊れやすいという。

◆対策を行う前に、大雨がきてしまった

 鈴屋川を進み、支流の牛尾川との合流地点近くに。右岸の山肌が露出し、河道は高さ2メートルほど土砂で埋まり、周辺には大量の流木が山積。建設会社の事務所コンテナや重機が倒され、すぐ先の橋も崩落している。
 この上流に土砂が河川をふさぐ「土砂ダム」があるとして、国土交通省北陸地方整備局は5月末に応急対策工事を実施。川にコンクリートブロックを積み、高さ4メートル、幅50メートルの堰堤(えんてい)を建設した。だが、それも土砂に埋もれ、堰堤の一部が見えるだけだった。
 北陸地整が設置した土砂災害対策検討委員会のメンバーでもある柳井特任教授は「これほどの大雨はどこが崩れてもおかしくないが、地震によってすでに斜面崩壊が起きた場所は(豪雨で)周辺に拡大し、さらにたくさんの土砂が生産された。関連性はあると思う」と指摘し、地震との複合的な災害との見方を強める。「上流には多くの崩壊箇所があるが、その土砂対策には時間が必要。その対策を行う前に、大雨がきてしまった」と悔やんだ。
 今後の二次災害を防ぐため、柳井特任教授は
▽土砂に埋もれた河川が流れる道を確保する
▽上流にたまっている土砂を動かないように固定
▽山肌が露出している部分は速やかに緑化する
などの対策を挙げる。ただ、記録的な大雨に「ハードでは対応できない。まずは安全なところに避難するしかない」とも話した。