野党乱立のまま総選挙突入で「あの男」でさえ危険な状態…!?小沢一郎もあきれた「野党候補一本化」を全く進められなかった末期的な理由(2024年10月14日『現代ビジネス』)

野田代表に苛立つ小沢一郎
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「選挙が始まっちゃう。時間がないんだもん。(9月)23日から10日間、無為な時間になっちゃった。解散となったら調整もヘチマも無くなっちゃう。あと1週間もない」
「これからあとはもう、代表がどうやっていくかだ。代表同士が会談したんだから、本当はそれ以上の話し合いはないわな。ただ、それを受けて何かやるっちゅう時間的余裕もない。とにかく時間がないわな」
こう語るのは立憲民主党小沢一郎議員だ。
党の総合選挙対策本部の本部長代行に就任した小沢氏が、10月4日に記者団の取材に応じた。そこで、共産党が候補者を次々に擁立している点について筆者が質問すると、小沢氏はこのように諦めたかのような口ぶりで語ったのだ。
野田政権の際に、小沢氏が党を割って出ていってから12年。「恩讐を超えて」小沢氏が野田佳彦氏を支援して野田代表が誕生した。
小沢氏の持論は「野党候補者を一本化して政権交代を実現する」というものだ。それを実現できるのは野田氏だという期待があった。
ところが、現状はむしろ悪化の一途だ。特に共産党は候補者の擁立をむしろ加速させた。最大の原因は、野田氏が代表選への出馬表明をした際に、「同じ政権を一緒に担うことはできない」と語ったことにある。さらにはその後、安保法制について「すぐに何かを変えるのは現実的ではない」と述べた。これらの発言により共産党が急速に態度を硬化させたのである。
9月23日、野田氏が代表に選出された直後に共産党小池晃書記局長は、祝福のコメントもそこそこに、次のように不満を表明した。
「安保法制を廃止するというのは野党共闘の一丁目一番地、原点である。同時に緊急課題でもある。それを直ぐにはできないと言っていることは重大と言わざるをえない。さらに、『政権を共産党と一緒に担うことはできない』と最初から断言をされてきた。(前回は共闘したのに)今回は最初から拒否をされている。これは誠実な態度とは言えない」
候補者調整が進まないどころか乱立が加速
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枝野氏を落選させるべきだと熱く語る山本太郎代表(2024年10月9日、筆者撮影)
共産党はすでに210以上の選挙区で候補者を擁立している。野田代表、小川淳也幹事長、大串博志選対委員長、重徳和彦政調会長など主要幹部に対しても軒並み候補者を立てられている。
宮城では立憲が1~4区、共産が5区で候補者を棲み分けし、新潟では1区の西村智奈美氏のところに立てる代わりに他の選挙区では立てないことを早期に確認するなど県連単位でまとめた地域もある。
一方で、容赦なく候補者を立てられている地域もある。野田代表の地元の千葉では14ある全ての選挙区で擁立。代表選で前回の共産党との共闘を否定的に語った枝野幸男元代表の地元の埼玉では、森田俊和氏の12区を除く15選挙区で擁立した。
さらに、れいわ新選組も候補者擁立を加速させた。10月7日、一気に17人の候補者擁立を発表し、その中には野田代表、枝野元代表安住淳国対委員長の選挙区も含まれていたのだ。
その理由を山本太郎共同代表に尋ねると、次のように語った。
「与党にしっかりと対峙する野党がまず大前提でないと話にならないが、民主党はほとんど自民党と変わらない。その(民主党政権時代の)過去の亡霊たちが絶賛活躍中で、代表選にも出てくる。野田さん、枝野さん、二人とも一緒です。安住さんに関してはこの数年あまりにもひどい国会運営の先頭に立ちすぎている。戦わない野党の先頭なんです」
もちろん、日本維新の会や国民民主党との候補者調整も一切進展しなかった。こうした「野党乱立」の結果、裏金問題による自民党の失策をも追い風にできていない状況となっている。
特に顕著なのが枝野氏の埼玉5区だ。代表として迎えた前回の選挙では、自民党牧原秀樹氏との一騎討ちで6000票差まで迫られた。それが、今回は共産党に加えてれいわ新選組まで候補者を擁立しているのだ。
れいわ新選組の山本代表は、特に枝野氏に対して怒りを隠さない。
「(枝野氏は)経済音痴としても有名だ。野党共闘が進まない理由は2021年の衆院選にさかのぼる。れいわ新選組が候補者を4割降ろしたが、それは消費税5%(を公約にする)ということで野党がまとまったから。しかし、それが間違いで、減税したらハイパーインフレになるという頓珍漢なこと言っている」
「候補者調整の協議は一切ない」
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街頭演説をする共産党・田村智子委員長(2024年10月9日 筆者撮影)
野田代表は裏金問題に焦点を当てて選挙戦に臨む姿勢を見せており、「裏金議員の選挙区では候補者を一本化したい」と語っていた。
ところが、三ツ林裕巳氏が非公認になった埼玉13区では国民、維新、共産が候補者をすでに出していた中で、れいわも候補者を擁立。同じく萩生田光一氏が非公認となった東京24区では国民、維新の候補がすでに出ている状況で10月に入って立憲が候補者を擁立。このように、野田代表が掛け声だけで何の指導力も発揮できていないことは明白だ。
共産党の田村智子委員長は10月4日の記者会見で候補者の一本化は困難だという認識を示している。
「野党が自民党政治をそれぞれ厳しく追及して自民党の支持層を崩していく。それぞれの党が、それぞれの候補者が自民党に対して厳しく対決するということをやるのは大きな意味を持つのではないか」
国民民主党玉木雄一郎代表に、野党の候補者調整が進まなかった原因を尋ねると、野田代表の責任を指摘した。
野党第一党のリーダーシップがないからじゃないですか。『裏金議員のところを一本化したい』とか報道では言っているが、具体的に『この選挙区で一本化の協議をしませんか』という働きかけは今に至るまで一切ない」
さらに立憲との間でのコミュニケーションもほとんどなくなっていると嘆く。
「泉(健太前代表)さんの時はけっこうコミュニケーションが取れていたが、野田さんに代わってからはほとんどない。野田さんは選挙区事情をよく知らないし、それを支える小川(淳也幹事長)さんもよくわかってない。小川さんにはあまり権限も与えられていないようで、選挙区調整の権限はないようだ。泉さんが残って岡田さん以下が代わった方が調整は進んだかもしれない」
そして、野党が乱立して選挙戦に突入することについて、「残念だよね」と呟いた。
野田氏の手腕に期待して代表選で支援した小沢氏にもこの点を問うと、落胆した様子でこう語った。
「そりゃ、どう代表が受け止めて、どうしようとしているかはわからない」
この3年間の野党側の最大のテーマが候補者調整だった。ところが、結果的には最悪な状況で選挙を迎えることになった。野党第一党である野田代表の手腕が早くも期待はずれに終わったと言っていいだろう。
小川 匡則(週刊現代記者)