「辞職してすべて終わり」が正義なのか? 斎藤元彦・兵庫県知事の選択が焦点に【「表と裏」の法律知識】(2024年9月15日『日刊ゲンダイ』)

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斎藤元彦兵庫県知事(C)日刊ゲンダイ
【「表と裏」の法律知識】#248
 パワハラの疑いなどで告発され、複数の職員が自ら命を絶ってしまった兵庫県の斎藤知事をめぐる問題。現在、自民党など4つの会派に加え、県議会の全ての議員が辞職を求めるという注目すべき事態に発展しています。
「無敵の人」斎藤知事はこれらの申し入れに対し「重く受け止める」としつつも、「自分がどういう道を進むべきかは、自分が決める」として、辞職を拒んでいます。
 このような状況を受け、議会の最大会派である自民党は、今月19日、斎藤知事の不信任決議案を提出する方向です。不信任決議案が可決された場合、知事は10日以内に議会を解散しなければ失職することになります。総務省によると、これまでに議会の解散を選択した知事はいないということです。斎藤知事は不信任決議案が可決した場合の対応を明らかにはしていませんが、当初から一貫して辞職しない意向ですから、議会を解散させるという選択をするかもしれません。そうすると、県議は一斉に失職することになります。知事が失職するには、議会の解散から40日以内に県議選が実施され選挙後初の議会で改めて不信任決議案が可決される必要があります。
 斎藤知事がどのような選択をするのかが焦点ですが、私はとことんやってほしいと思っています。“責任をとる”ということは、問題を起こした本人が潔く辞職することに尽きるのか。
 大事なことは、知事の進退に関し県民がどう思っているのかです。県民の期待と信頼を背負って選ばれた知事ですから、県民の意見を反映させることが本来は望ましいはずです。県議選になれば、その民意が問えると思います。もしかしたら、知事は、パワハラなどの問題に真摯に向き合い、反省し、改善に努めた上で任務を全うしていくことがいいという民意が示されるかもしれません。
 また、パワハラや税金のキックバック問題の事実関係について、百条委員会・第三者委員会で引き続き調査が続けられています。しかし、いまだ真実も結論も出ていません。従って、“知事が辞職してすべて終わり”という幕引きは正義とはいえないのではないでしょうか。
(髙橋裕樹/弁護士)
 

トップを「エラい」と勘違いさせる周りの媚びへつらいが自己正当化とパワハラの元凶だ(2024年9月5日『日刊ゲンダイ』)
 
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ラサール石井タレント
1955年、大阪市出身。本名・石井章雄(いしい・あきお)。鹿児島ラ・サール高校から早大に進学。在学中に劇団テアトル・エコー養成所で一期下だった渡辺正行小宮孝泰と共にコント赤信号を結成し、数多くのバラエティー番組に出演。またアニメの声優や舞台・演劇活動にも力を入れ、俳優としての出演に留まらず、脚本・演出も数多く手がけている。石井光三オフィス所属。
 
 最近はある程度大所帯の演劇が行われる場合、顔合わせの時に「ハラスメント講習」を受けることが多くなった。確かに一昔前までは演出家や監督が物を投げる、「死ね」と罵倒する、なんて現場はよくあった。
 さすがに最近ではそういった例は少なくなってきたが、今は自覚のないパワハラが多いそうで、「一生懸命仕事して何が悪い」と本人は気が付かない。
「部下を道具と思わない」「階級の違いはない。役割の違いがあるだけ」などと講習を受けるうち、これはまんま兵庫県知事の斎藤氏に聞かせたいと思った。
 客観的に考えて、彼のパワハラはグレーではなく真っ黒で、弁解の余地はないと思うが、本人は全く責任を感じ辞める気配がない。驚くほどの自己正当化。それこそがパワハラ体質なのだが、人が何人も亡くなっているのに眉ひとつ動かさない鉄面皮には空恐ろしくなる。
 そもそも「知事はエラい」と思っているのが間違いだが、実はそう思わせる周りにも問題があると思う。
 神奈川県知事の黒岩氏は私の大学の後輩であり、その関係でしばらくある委員会に呼ばれて出席していた。
 彼は温和な人間でパワハラ体質はないが、委員会では我々委員が全員テーブルにつき、それから知事が呼ばれる。知事の歩いてくる経路の箇所箇所に職員が立ち、「知事がいらっしゃいました」「知事がいらっしゃいました」と伝言していき、委員会の部屋に「いらっしゃいました」と通され、本人は「はい」と鷹揚に応えて席に着く。まるで「お殿様のおなーりー」状態だ。
 黒岩氏が悪いのではない、本人は知らないのだ。しかし毎回こうされていたら、自然とそれが当たり前になる。「私はエラい」と勘違いする人間も出てくるだろう。
 この、職員の、とくに幹部職員の媚びへつらい体質が、トップを勘違いさせ権力を振りかざす地盤をつくる。
 これは東京都知事も同じである。議会や記者会見における小池氏の立ち居振る舞いはまさに女帝のそれだ。
 関東大震災で虐殺された朝鮮人慰霊の文をなぜ出さないかと問われ、「震災の被害に遭われた皆さまへは慰霊しております」と答え「震災の被害と虐殺とは違う」と言うと、虐殺には多くの証言が残っており国会議事録にも記載があるのにもかかわらず「さまざまな研究がある」と答える。「虐殺はなかったという研究があるということか」と聞くと、笑顔で「さまざまな研究があるということです」と答えた。
「答えになってません」と記者に叫んで欲しかった。女帝の笑みに「しつこいぞ。もう聞くな」という威圧を感じ背筋が凍った。