病気にかかっても病院に行けない… 日本に忍び寄る「健康格差」実態調べる 東北大とNPOがCF開始(2024年9月8日『河北新報』)

「健康格差」の実態調査に必要な資金を募るCFのウェブサイト

 東北大と生活困窮者の自立支援に取り組むNPO法人ワンファミリー仙台(仙台市)は、経済的困窮などで病気になっても適切な医療を受けられない「健康格差」の改善を目指し、実態調査に必要な資金を募るクラウドファンディング(CF)を始めた。結果をデータサイエンスの手法で分析し、予防医学の観点から的確な解決策を探り、居住支援や精神的なサポート体制の充実につなげる。

解決策探り、サポート体制の充実図る

 実態調査は、東北大大学院医学系研究科の田淵貴大准教授(公衆衛生学)らの研究グループが2025年に行う。全国の16~79歳の男女約3万人を対象に、インターネットで家庭の経済事情や職種、居住地域といった属性と健康格差との相関関係などを調べる。

 ワンファミリー仙台は調査結果のデータ解析で得られた知見を生かし、健康格差で困窮する女性や若者、親子らの支援に厚みを持たせる。具体的には支援付き住宅の整備、カウンセリングの拡充などを想定する。

 CFの最終目標額は900万円。実態調査と支援モデルの策定にかかる経費600万円を確保できたら、積み増し分を健康格差解消の重要性をアピールする広告宣伝費に充てる。金額が目標額に届かない場合でも、研究グループとワンファミリー仙台が不足額を補い、調査を実施する。

 田淵准教授らが20年に始めた調査研究プロジェクトでは、全国で新型コロナウイルスに感染した10%以上に適切な医療が提供されていなかったことが判明した。国民皆保険制度にもかかわらず、経済格差を背景に社会保険料や医療費の自己負担増が健康格差の拡大につながっているとみて、実態調査を加速し深掘りする。

 田淵准教授は「研究成果を社会に還元する取り組みの推進は、社会的にも大きな意義がある」と強調。ワンファミリー仙台の立岡学理事長は「健康格差は国全体の社会問題。科学的なデータで得られる新たな支援を実践し、解決に導いていきたい」と訴える。

 CFの締め切りは11月30日午後11時。CFサイト「レディーフォー」から申し込む。

 

プロジェクト本文

 

全ての人が平等に、幸せを追求できる社会を実現したい。

 

世界的にも、我々の住む社会には大きな格差が存在しており、病気になっても適切な医療を受けることができない人が多くいると分かっています。日本では国民皆保険制度があり、健康の社会格差は比較的小さかったかもしれません。

 

しかし、近年では経済の停滞や社会の分断が進むなか、徐々に社会保険料や医療費の自己負担が引き上げられるなど、医療にアクセスできない人が増えてきており、日本の健康格差の拡大が懸念されています。

 

日本の健康格差問題に対して、まだまだ認識も取り組みも不十分な状況です。まずは、健康格差問題への取り組みが社会全体にとって大切だという価値観を伝えていく必要があります。しかしながら、毎年実施している実態調査には公的支援や財源がなく、調査を安定的に進めるためには資金が必要です。

 

そこで今回、東北大学の研究者が代表を務める研究者チームとNPO法人ワンファミリー仙台が協力し、クラウドファンディングプロジェクトを立ち上げました。日本全体の健康格差問題を改善していくために、住民の実態調査を実施し、データ解析からのエビデンス(根拠)に基づいた解決策を導出し社会実装し、課題解決につなげていくことを目指します。
 

そして、地域で多様な困難を抱え、住まいや生活に不安を持つ方々が安心して暮らせるような地域づくりの土台を、皆さんと一緒に築いていきたいと考えています。社会的に不利な状況にある、孤立したり困窮したりしている人々を守るため、皆さんからのあたたかいご寄付をお待ちしております。

 

東北大学大学院医学系研究科

公衆衛生学専攻公衆衛生学分野 准教授

田淵貴大