自民党総裁選の各候補は党員票の獲得に向けSNSの活用に力を入れる。派閥の解散で締め付けがなくなって立候補のハードルが下がり混戦模様になった。国会議員票の分散が予想され、党員・党友票の重みは増す。各陣営ともネットの言論空間を主戦場に位置づける。
小林鷹之前経済安全保障相は出馬表明した翌日の8月20日に動画投稿サイトのユーチューブの生配信を始めた。初回は40分ほどで「全国的には知名度がゼロだ」と訴えた。チャット機能を使って出張先のホテルや議員会館の自室で視聴者の質問に答える。
これらは7月の東京都知事選に出馬した前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏がとった手法だ。若年層や無党派を取り込み、東京での知名度の低さを補って2位に躍り出た。
小林氏のユーチューブにも石丸氏との対談を求める書き込みが相次ぐなど「石丸支持層」の流入がみられる。
世論調査で次の総裁候補に名を連ねる知名度の高い議員も党員票の上積みを狙ってSNSを使う。
今回の総裁選は派閥の縛りがなくなり10人超が出馬に意欲を示す。仮に10人が出馬すれば、立候補に必要な20人の推薦人だけで367票の議員票の過半を占める。同じ367の票数を持つ党員票の取り込みが欠かせない。
各候補にとって党員は日ごろの接点が少ない。名前や政策を短期間で浸透させるのにSNSは有効なコミュニケーション手段となる。
小泉進次郎元環境相は8月30日にユーチューブのチャンネルを新たに始めた。投稿した動画で「多くの国民に総裁選に関心を持ってもらい政治の信頼回復につなげたい」と強調した。ショート動画も駆使し、タイムパフォーマンス重視の若年層に訴える。
河野太郎デジタル相はX(旧ツイッター)を主な発信ツールにしている。255万人のフォロワーは国会議員の中で群を抜き、総裁選での争点づくりを主導する狙いがある。
8月31日から「河野太郎総理で実現したいこと」と題して次々と投稿し、被選挙権年齢の18歳への引き下げやオンライン投票導入などを掲げて事実上の総裁選公約として打ち出している。
これまでの総裁選で派閥の支援を受けた候補者は豊富な資金力を背景に、告示前からビラやパンフレットを党員に一斉郵送してきた。今回、総裁選の選挙管理委員会は各陣営に告示前の党員へのビラなどの一斉郵送を自粛するよう求めた。
派閥を巡る政治資金問題で失墜した世論の信頼を回復するため、カネのかからない選挙をめざす。その観点から手軽なSNSの利用は制限しない方向だ。
日本は他メディアに比べSNSの訴求力が小さいといわれ、どこまで効果があるかは見通しづらい。英調査会社ウィー・アー・ソーシャルによると、日本の1日のSNS使用時間は53分と世界平均の2時間23分を下回り、米国のおよそ3分の1にとどまる。
組織・団体票への働きかけや有権者に直接会う「どぶ板」の有効性は変わらない。台風10号により週末に東京で足止めを受けた一部候補は有力な支持者への電話かけを続けた。