子供の自殺 安心な「居場所」を地域に(2024年9月2日『産経新聞』-「社説」)

 夏休みが終わり、新学期が始まった。久しぶりに友達と会えてうれしいという人もいれば、憂鬱だという人もいるだろう。
 学校に行くのがとても嫌で、どうしても我慢できないときは、誰かに気持ちを打ち明けてほしい。きっと聞いてくれる大人がいるはずだ。
 周囲の大人は、しばらく手を止めて、子供の話に耳を傾ける心の余裕を持ちたい。相手が、よその子供であってもだ。家庭に問題があり、自分の親には話すことができない、というケースもあるからだ。
 世界保健機関(WHO)によると、日本は先進7カ国(G7)で最も自殺率が高い。10代の死因のトップも、20代の死因のトップも自殺という国はG7ではほかにない。若い世代が厭世観(えんせいかん)を抱くような社会に明るい未来があるとはいえまい。
 特に小中高生の自殺者数の増加は顕著である。令和5年には513人に上り、過去最多だった4年の514人に続いた。夏休み明け前後の自殺が多い。政府によると、原因・動機の最多は「学校問題」で、その詳細は「学業不振」と「学友との不和」が突出している。
 成績が振るわなかったり、同級生とうまくやっていけなかったりすると、将来に不安を抱いてしまうのだろう。生活の大半を学校で過ごしているのだから、そう思ってしまうことも無理はない。
 けれども、生きていく場所は学校だけではない。地域にはさまざまな「居場所」があることに気づかせてやりたい。
公民館や図書館、子ども食堂やスポーツ教室、町内会の催しや集まりなどは年代も属性もそれぞれで、学校とは異なる人間関係を築くことができる。世の中には、自分と同じような経験を乗り越えた人たちがいることにも気づくだろう。
 学校以外の居場所作りに、大人も柔軟に対応したい。自治体は高齢者向けサロンの活性化に力を入れているが、そこに子供がいてもいい。ちょっとした役割を提供できれば、自己肯定感や有用感を築くきっかけになるかもしれない。
政府は昨年、「こどもの自殺対策緊急強化プラン」を取りまとめた。ウェブサイトで「まもろうよこころ」を検索すると、電話などの相談先が分かる。ぜひ頼ってみてほしい。