風水害の警戒(頻発)に関する社説・コラム(2024年6月1日・30日・8月25・27日)


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風水害に警戒 備え万全に早めの行動を(2024年8月27日『新潟日報』-「社説」)
 
 身の危険を感じる局地的な豪雨が頻発している。台風10号も日本列島に上陸する見込みで、本県に接近する恐れがある。
 気象庁自治体の情報をこまめに確認したい。いざという時の備えを万全にして、早めの避難を心がけるなど命を守る行動を取ることが肝心だ。
 県内は25日、暖かく湿った空気が流れ込むなど大気の状態が不安定となり、各地で非常に激しい雨が降った。小千谷市付近で1時間に約110ミリの雨を観測し、長岡市では観測史上最大の1時間69・0ミリを記録した。
 先月は新潟市で3時間の降水量が106・5ミリと、7月の観測史上最大を記録した。
 秋田・山形両県でも記録的大雨で、死者や行方不明者が出たほか、最上川など両県で30以上の河川が氾濫して、住宅や公共インフラなどに甚大な被害が生じた。山形県酒田市などに大雨特別警報が1日に2回出る異例さだった。
 地球温暖化の影響で、毎年のように大雨の被害が出ている。線状降水帯の発生も相次ぐ。
 日本周辺の海面水温が高く、大量の水蒸気が供給され、雨雲が形成されやすくなっていることなどが要因とみられる。
 近年は特に日本海や東北沿岸での海面水温の上昇が顕著だ。気象庁によると、酒田市に大雨特別警報が出た際の日本海の海面水温は、平年より1~3度高かった。
 九州や四国など西日本は地理的に大雨になりやすいが、もはや全国どこでも起こりうると認識せねばならない。
 自治体の避難情報や気象庁のウェブサイトなどの情報を積極的に集め、不安を感じたら早めに避難することが大切だろう。
 足元が見づらい夜間や、雨が激しく外に出るのが危険な場合は、自宅で2階より上に行く垂直避難などを検討したい。
 大雨では、土砂災害や河川の氾濫のほか、市街地で排出しきれない雨水があふれる内水氾濫にも注意せねばならない。
 ハザードマップなどで浸水想定区域の確認が欠かせない。
 都市部では、線路や橋の下などを通るアンダーパスが冠水し、車が水没する被害も多発している。気を付けたい。
 秋にかけ、台風も頻発するだろう。海水面の高い状態は、台風の勢力も強めている。
 勢力を保ったまま日本に近づき、広い範囲で激しい風雨となる台風が増えることが予想される。これまで以上の警戒が必要だ。
 夏の偏西風が2010年ごろから北上し、風が弱くなった結果、台風の速度が遅くなり風雨をもたらす時間が長くなる傾向がある。
 一方で、台風の予測精度は格段に向上している。台風の危険があれば不要不急な外出は控え、安全確保を第一に行動したい。

【台風10号】備え怠らず被害最小に(2024年8月27日『高知新聞』-「社説」)
 
 強い台風10号が日本の南を発達しながら北上し、西日本に近づいている。28日以降、各地で大荒れの天候が懸念されている。厳重な警戒が必要だ。
 気象庁によると、台風10号は今後、非常に強い勢力になって九州に接近。上陸する恐れがある。その後、本州を縦断するような進路をとる可能性もあるという。
 高知県地方には29日以降に最接近するとみられる。県内各地が大雨、暴風、高波、低い土地の浸水、河川の増水・氾濫、土砂災害などで危険な状況になる恐れがある。
 大きな被害が懸念される台風が本県に接近するのは、今シーズン初めてになる。昨年からの空白期間を経て、油断している人がいるかもしれない。
 あらためて気を引き締め、被害を最小に抑えたい。学校の夏休み期間中であり、旅行など予定を入れているケースもあるだろうが、慎重な行動が求められる。
 台風10号は、太平洋に張り出している高気圧の影響で、当初の予想よりも進路がかなり西寄りになった。ゆっくりと北上を続けている。
 上空の大気の状況に台風のスピードが上がる要素は見当たらない。懸念されるのは、台風が停滞することで風雨にさらされる時間が長引き、被害が拡大することだ。
 一般的に、台風の進行方向右側は、左側に比べて風と雨が強まり危険とされる。今回のルートでは本県は台風右側になりそうだ。豊後水道を通るルートになれば、多数の犠牲者が出た1975年の台風5号と似た状況にもなる。警戒を強める必要がある。
 台風本体と距離があるからといっても安心はできない。流れ込む湿った空気の影響で、線状降水帯が発生するなどして記録的な大雨が降る可能性もある。
 近年は、過去に例のなかったような予期しない水害が頻発している。やはり、備えを怠らないことが大事になる。
 家庭レベルでは、ハザードマップや避難場所・経路の確認、非常持ち出し品の準備などは速やかに行っておきたい。自宅周辺に強風で飛びそうなものがないか確認し、必要なら固定しておくことも欠かせない。不要不急の外出は避けることが基本になる。
 海沿いでの行動も慎む必要がある。高波や高潮の恐れがある。満潮時刻と重なると海岸周辺の道路などが冠水、浸水する場合もあることを想定しておくべきだ。
 台風情報に関して、気象庁は予報精度の向上や発信方法の改善に努めてきている。台風10号は進路が見通しにくい状況にある。避難の指示や呼び掛けなどをするに当たって、自治体は最大限に生かしたい。住民もアンテナを張れば、適切な行動に結びつけられる可能性が高い。
 気象庁自治体に緊張感のある対応が求められるのは当然だ。電力や水道などライフライン事業者の備えも重要になる。

台風に備えよう(2024年8月27日『高知新聞』-「小社会」)
 
 1901(明治34)年、当時の報知新聞が正月の紙面にユニークな特集を載せた。「二十世紀の予言」。新世紀を迎え、次の100年で実現しそうな科学技術を予測している。
 その数23項目。通信や交通、防災など多岐にわたっていて面白い。例えば「七日間世界一周」「暑寒知らず」。飛行機の発達とエアコンの普及で、いずれも実現した。「蚊および蚤(のみ)の滅亡」はいまでも未達だが、絶滅させるという考え自体、人間の思い上がりだろう。
 「暴風を防ぐ」というのもある。観測の技術が進歩して天災を予測できるようになり、台風は大砲で撃ち、雨だけに変えるのだとか。もちろん、そんな技術はいまだ確立されていない。日露戦争前の勢いづく時代の表れだろうか。
 台風10号がゆっくりと北上している。次第に県内への影響も大きくなりそうだ。当然ながら、現代の科学にこれを止めるすべはない。救いは「予言」の通り、観測技術が進んだことだろう。事前に備えやすくなった。
 加えて先人から受け継いできた、たくさんの教えや教訓がある。物理学者の寺田寅彦もかつて随筆に記している。日本では祖先が「颱風(たいふう)の体験知識を大切な遺産として子々孫々に伝え、子孫は更(さら)にこの遺産を増殖し蓄積した」と。これこそ貴重な予言といえるだろう。
 まだ時間があると油断せず、河川の氾濫、土砂崩れの危険箇所などを早めに確認したい。停電や飲食料の備えもお忘れなく。

風水害の頻発 近づく台風、万全の備えを(2024年8月25日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 猛烈な雨が全国で連日、報じられている。その列島に、太平洋上の台風10号がゆっくり近づいてきている。
 今週半ばにも九州から関東にかけてのどこかに上陸するとみられる。
 台風本体から離れていても油断は禁物だ。暖かく湿った空気が流れ込み(暖湿流)、豪雨災害をもたらすことがある。次々と積乱雲を発生させる線状降水帯の発生予測といった気象情報にしっかり注意していきたい。
 お盆が明けた後も、日中の気温上昇と暖湿流の影響で大気が不安定な状態が続き、県内外で警報級の雷雨が発生している。
 21日夕には東京都港区付近で1時間当たり100ミリの激しい雨が降ったとみられ、災害の危険が迫っているとして気象庁記録的短時間大雨情報を発表した。94ミリを観測した新宿区ではマンホールのふたが吹き飛んで水があふれ、街なかが冠水した。
 23日未明には静岡市でも93ミリの猛烈な雷雨に。こうした記録的な大雨が全国で相次いでいる。
 時間雨量100ミリとは、仮に降った雨がそのままたまるとして1時間で水の深さが10センチにもなる状況を指す。気象庁によれば、80ミリ以上は「恐怖を感じるような」降り方だ。それが気候変動によって珍しくなくなってきた。
 市街地では排水が追いつかず、マンホールや側溝、水路の水があふれる。松本市今井では14日、観測史上最大となる90ミリの土砂降りとなり、県道のアンダーパスが大量の水につかって複数の車が動けなくなった。
 過去には濁水のためにマンホールが開いていたり水路があったりするのに気づかず、流される死亡事故も起きている。
 山ぎわでは土砂災害への警戒が怠れない。10年前の8月、77人の犠牲者を出した広島市北部の豪雨では、わずか2時間で8月1カ月分を上回る雨量となった地域があった。線状降水帯が広く知られるようになった災害だ。
 現在の台風10号も、接近するにつれて本州付近の前線を刺激し、雨の降り方に影響する可能性がある。太平洋の海水温が高く、台風本体が「強い」勢力を今後さらに発達させながら向かってくるとの見方も出ている。
 長野県内も全域で警報級の暴風雨に警戒が必要だ。リンゴの落果など大きな農業被害をもたらした1991年の台風19号、千曲川が氾濫した2019年の台風19号など過去の災害を思い起こしつつ、備えに万全を期したい。

防災情報の周知で避難促せ(2024年6月30日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 自然災害への警戒を呼びかける「防災気象情報」が見直される。警戒レベルごとに5段階の数字で示し、切迫度が伝わりやすくした。周知を徹底し、適切な避難行動につなげる努力が求められる。
 気象庁国土交通省有識者会議が報告書をまとめた。関連法の改正や周知期間などを経て2026年の運用開始を目指す。
 防災気象情報は気象庁都道府県が発表する。自治体が災害体制を決めたり、避難指示などを出したりする基準となる。災害が起きるたびに作られ、40種類以上にのぼる。専門家からも「複雑怪奇」という批判が出ていた。
 しかも、名称に統一性がなく、わかりにくかった。例えば、土砂災害警戒情報、氾濫危険情報、高潮警報が同じ警戒レベルの位置づけとはイメージしづらい。
 今回、洪水や大雨浸水、土砂災害、高潮と避難が必要になる災害を対象に見直した。数字の大きさで危険度を示すように改め、高い方からレベル5は特別警報、同4は危険警報、同3は警報と統一した。シンプルでわかりやすくなったことは評価できる。
 情報が整理されても、受け手が活用できなければ意味がない。気象庁は13年、最大級の警戒を伝えるため大雨特別警報を新設した。18年の西日本豪雨では、気象庁が早くから発表の可能性を示した。だが特別警報が出ても、多くの住民は避難せずに被災した。
 国や自治体は防災訓練などを通じ、情報の意味と必要な行動をていねいに説明すべきだ。ハザードマップの活用法を伝え、自宅周辺の災害リスクを知ってもらうことも必要になる。教育機関や専門家との連携にも取り組んでほしい。
 防災気象情報が出たら、市町村は住民に伝えるための措置をとらねばならない。気象庁は避難指示のタイミングなど判断の目安を示すことも検討すべきだろう。
 地球温暖化の影響で、風水害の激甚化が予想される。逃げ遅れないために何が必要か。一人ひとりが考えるきっかけにしたい。

風水害に備える 「気象と防災の日」制定を 地球沸騰に向き合う契機に(2024年6月1日『産経新聞』-「主張」)
 
 5月31日未明に温帯低気圧になった台風1号は、日本の南の海上を北東方向に進みながら九州から関東にかけての広い範囲に大雨と強風をもたらした。家屋の浸水や倒木により、大きな被害が出た地域もある。
 すでに梅雨入りした沖縄、奄美地方に続き、日本列島は雨季を迎える。梅雨のない北海道を含め、秋の台風シーズンまでの数カ月は、集中豪雨や台風による災害が起きやすい。
 河川の氾濫、土砂災害、高潮や都市型の水害など地域ごとの災害リスクを改めて確認し、風水害から命を守るための備えを徹底したい。
訓練の普及と定着図れ
 6月1日は「気象記念日」である。明治8(1875)年のこの日に東京気象台で気象と地震の観測が始まった。だが、気象庁職員ら一部の関係者以外には気象記念日に関心を持つ人は多くはないだろう。国民全体が気象に関心を寄せ、防災に取り組む有意義な日にすべきだ。
「気象と防災の日」への改称を提言する。
 防災の2文字が入るだけでも国民の関心は高まるだろう。9月1日と対になる国民的な防災の日として、「6・1」を定着させたい。
 地球温暖化の影響とされる気象の激甚化で、風水害をはじめとする気象災害の頻度と激しさを増す傾向が、近年は顕著になっている。国民一人一人が災害に備えるだけでなく、地域、自治体、政府が連携して命を守り被害を軽減する防災・減災に取り組む必要がある。
 関東大震災(大正12年)が起きた9月1日の「防災の日」は地震防災に軸足が置かれてきた。学校や職場、地域で避難訓練が実施され、多くの自治体と政府、関係機関が連携する大規模な訓練も行われる。
 一方、集中豪雨や台風を想定した訓練は、あまり実施されていない。近年は同じ地域に猛烈な雨を長く降らせる線状降水帯が頻繁に発生し、西日本豪雨(平成30年)をはじめ、多くの犠牲者を出す大規模な水害が毎年のように発生している。
 西日本豪雨では災害前から水害を想定した訓練に取り組み、全住民の避難に繫(つな)げた地域がある。命を守るための備えのなかでも、最も実効性が高いのは住民が参加する訓練である。訓練を通して高齢者、障害者のサポートや安全確保などの課題を把握でき、災害時の対応力が養われる。
「救える命」は救いたい
 「気象と防災の日」の制定を求める最も大きな理由は、多くの地域、自治体が風水害を想定した訓練を実施する契機とすることにある。
 たとえば今年、訓練を行えばこの夏秋の豪雨や台風で「救える命」があるだろう。「6・1」の訓練参加が国民に定着すれば50年、100年後の世代の命も救える可能性がある。多岐にわたる防災施策のなかでも訓練の即効性と持続性は高い。
 「気象と防災の日」の制定を提言するもう一つの理由は、地球規模の気候変動について多くの国民が学び、考える契機になるからだ。そのために「気象防災」ではなく「気象と防災」の日とした。
 国連の事務総長は「地球沸騰の時代が来た」と警鐘を鳴らしたが、気候変動への対策と関心は温室効果ガスの排出削減に偏っている。排出量の実質ゼロを達成することが温暖化対策のゴールであり、温暖化による激甚気象も収まるかのような誤解を生じさせてはいないか。
 地球温暖化に急ブレーキはかけられない。温室効果ガスの排出を止めても激甚気象は収まらない。西日本豪雨の被災地は、猛烈な暑さに見舞われた。命を脅かすレベルの暑さは異例ではなくなり、今夏も猛暑が予想される。温暖化抑止策と並行して「地球沸騰の時代」を生き抜くための対応策の強化に本腰を入れなければならない。
激甚化する風水害や猛暑から命を守る取り組みは、国民一人一人が気候変動に向き合っていく第一歩となる。