自衛官募集に協力するため、道内全35市中の21市が高校3年生や大学4年生など入隊適齢者の個人情報を名簿化するなどして
自衛隊に提供していることが先月、本紙の調べで分かった。
自衛隊への個人情報の提供は市民に広く認知されているとは言えない。氏名や住所、生年月日などプライバシーに関わる情報を、
自治体が本人の知らぬ間に国の機関に渡している実態は見過ごせない。
多くの
自治体には、個人情報保護や情報公開に関する審議会がある。首長は審議会に諮問するなどし、
自衛隊への個人情報提供の是非について、開かれた場で議論するべきだ。
自衛隊法には知事や市町村長は
自衛官募集に関する事務の一部を行うとある。
住民基本台帳法は国や
地方自治体が法令に定める事務の遂行に必要な場合、閲覧を請求できると定める。
ただ名簿提供は義務ではなく、各
自治体の判断に委ねられている。
紋別市は21、22年度は名簿を提供したが、23年度から台帳の閲覧に戻した。「
個人情報保護法に照らすと、明確な根拠をもって名簿を提供できるとは言い切れない」と判断した。
国への忖度(そんたく)を排した、住民本位の対応だったと言えよう。
名簿提供は閲覧とは大きく異なる。募集への協力を超えて、勧誘そのものへ
自治体が関与したと受け止められかねない。
提供に応じる
自治体の多くは提供を望まない人を名簿などから外す「除外申請」の制度がある。ただ周知は十分とは言えず、利用は少ない。
そもそも21市のうち
稚内、名寄、留萌、滝川、歌志内の5市は制度そのものがない。
住民を守ることは
自治体の第一の使命である。関係する制度を整えなければならない。
自衛隊は定員割れが続く。名簿を求めるのは効率的に隊員を募集するためだろうが、同じく人手不足に悩む民間企業は目的の公益性が認められないと台帳閲覧もできない。個人情報保護の流れに逆行するような
自衛隊への優遇は見直されるべきだ。