◆名前や住所、性別が入った名簿を作成したのは墨田区教委
男性によると、案内状は3月、自宅に郵送で届いた。はがきの表は娘の宛名と自治会名。裏は祭りの案内や会場の神社名が記されていた。祭りでは神事が執り行われ、記念品としてノートと鉛筆、お守り、菓子をもらった。男性は「悪意のある人物に情報が渡らないか」と心配する。
◆個人情報を提供できる法の例外はあるけれど
個人情報保護法には「明らかに本人の利益になる」場合、行政から外部に個人情報を提供できるとする例外規定がある。区教委は、記念品の贈呈は同法の自治体向けガイドに例外規定の具体例として示された「金銭の給付」に当たると解釈。担当者は「地域の絆を深める行事。今後も名簿の提供を続けたい」としている。
ただ、すべての自治体が墨田区と同じ対応をとっているわけではない。例えば、千葉県鎌ケ谷市の市情報公開・個人情報保護審査会は2007年、敬老行事の案内を出す自治会への名簿提供を「自治会において情報の保護方法が確立されていない」などの理由で「妥当ではない」と答申している。
◆専門家は「配慮欠く」「拡大解釈は慎むべき」
個人情報保護法に詳しい専門家は、墨田区教委の情報提供のあり方をどう見るか。上拂(うえはらい)耕生熊本県立大教授は「法的には問題ないかもしれないが、(プライバシー保護の観点からは)配慮を欠いた面がある」とみる。
墨田区役所
宮下紘中央大教授も「(記念品は)金銭に該当するとは思えない。例外規定の拡大解釈は慎むべきだ」と指摘。個人情報の外部提供について「地域の祝い事だから良いと考える向きもあるだろうが、同法は、男性が懸念するような『悪用されるリスク』を防ぐことに重点がある」と強調する。
◆70代自治会長は「よかれと…」 家族は「社会の変化に合わせて」
祭りの案内状を送った自治会の70代の会長は「昔からある祭りで、よかれと思ってやってきた」。回覧板の告知では新小学生が集まりにくく、「人のつながりという面では難しい時代になった」と悩む。
男性は、区教委が名簿提供を始めた1990年度は「インターネットが普及しておらず、個人情報への意識も低い時代」と主張。「現在は、個人情報が悪用されるリスクは高まっている。行政も社会の変化に合わせた対応を進めるべきだ」と訴える。
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