「こんな状態になるなんて。せめて花だけでも供えて手を合わせたい」。8日、石川県珠洲(すず)市正院町正院の会社員寅口(とらぐち)隆さん(49)は自宅近くの寺の墓で合掌していた。
鐘突き堂が倒れて壊れた墓の前で手を合わせる寅口隆さん=8日、石川県珠洲市正院町の徳勝寺で
元日の地震で、つり鐘を覆う屋根が横倒しになった。隣にあった父らが眠る墓が直撃を受け、土台から損壊した。地中に埋めている骨つぼの中も見える状態に。ブルーシートをかぶせた上に屋根瓦を置く応急処置をした。
◆修理が追いつかず
修理の作業は追いつかない。住民によると、珠洲市内の主な石材店は2軒あったが、1軒は地震後、稼働できていない。もう1軒の川元石材の川元純(すなお)社長(43)は「とても盆に間に合わないような数の注文が来ている。来春の彼岸までに(注文の)7~8割が終わるかどうか」と顔をしかめる。
川元さんによると、避難生活が少し落ち着いたからか、5月の連休明けから依頼が増えた。昨年5月の奥能登地震でも700件ほどの修理依頼を受け、年末までかかって終えた。今年は避難先から戻った3月ごろから仕事を再開。依頼は千件を超え「昨年より台座そのものが倒れている所が多い。修理に時間がかかり、1日で直せる数が去年より少ない」という。
◆「寺は本堂もぺしゃんこに」
過疎高齢化で、各世帯が墓を維持するのは難しいとみて、珠洲市宝立町柏原の集落では共同墓地を計画する。神社の墓地を誰でも手を合わせに来られるように公園墓地にすることも検討しているという。
つり鐘の直撃を受けた寅口さんは、今後の見通しに不安を募らせる。「寺は本堂もぺしゃんこに押しつぶされた。もともと住職は常駐せず、後継者不足の寺を地震が襲った。再建されるかも不明で、墓じまい、寺じまいの可能性だってあるのでは」と危ぶむ。「都市部で、骨つぼだけ共同管理してもらう手法にしようかとも考えている。そうした人が増えると、故郷に戻ってくる人も減るかも」