政治改革(規正法の再改正)に関する社説・コラム(2024年11月20・21・23・24・25・26・27・12月3・4・6・11・12・13・14・15・16・18・19・20・21・22日)

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不正の根絶へ政治資金をもっと透明に(2024年12月22日『日本経済新聞』-「社説」)
 
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全会一致で改正歳費法が可決、成立した参院本会議(20日
 少数与党となった国会での一つの成果だと言えるだろう。自民党が政治資金の制度改正で野党要求の一部を受け入れ、関連法案が近く成立する運びとなった。
 自民党派閥の裏金問題を受けた政治資金規正法の改正は6月に続き2度目となる。10月の衆院選での有権者の厳しい声を反映した結果だ。不正の根絶には資金の流れの一層の透明化と監視の強化が不可欠であり、制度全体の運用ルールの詰めを急ぐ必要がある。
 20日参院本会議では調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開と残金の国庫返納を義務づける改正歳費法が成立した。残る政治改革関連3法案も、今国会の成立で与野党が大筋合意した。
 3法案は①政策活動費の廃止②政治資金を監査する第三者機関の設置③外国人のパーティー券購入禁止や収支報告書のデータベース化――が柱だ。6月改正での厳罰化や公開対象の拡大と併せて不正の抑止効果が見込まれる。
 立憲民主党などが提出した企業・団体献金禁止法案は、2025年3月末までに結論を得る方向を確認した。自民党は「企業献金が悪で個人献金が善だという立場はとらない」と主張する。政治活動の自由を守りつつ、不祥事再発を防止するには、収支報告制度の抜本的な改善が不可欠となる。
 政治資金の現金授受を禁止し、一つの代表口座を必ず経由する仕組みを検討すべきだ。収支報告のデジタル化と早期公開を徹底し、第三者によるデータ検索が可能なシステムを早く実現してもらいたい。政治家や秘書の事務軽減やミス防止にもつながる。
 野党側も政治の活動経費を度外視し、収入の道を閉ざす主張だけでは最適解を見いだせない。公設の秘書やスタッフを増やし、欧米のように人件費や事務所費、広報費を上限を設けて実費支給する選択もあり得るのではないか。
 「政治とカネ」をめぐり毎年のように不祥事が頻発し、政治不信と国政停滞を招く現状から脱却する必要がある。与野党伯仲の状況を生かし、政治資金のあり方を根本から話し合ってほしい。
 衆参両院で政治倫理審査会が開かれ、還流資金の不記載があった議員が連日出席している。それでも真相は解明されず、関係者の証言には食い違いがある。与野党国政調査権に基づく当時の派閥幹部や会計責任者らの国会招致も検討すべき段階にきている。

 


政治改革3法案/「抜け道」許さぬ制度を築け(2024年12月20日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 「政治とカネ」の問題を根絶するための入り口に立ったに過ぎない。政治に信頼を取り戻すために不可欠な改革を急ぐべきだ。
 政治資金規正法再改正案を含む政治改革関連3法案が今国会で成立する見通しになった。この中には、野党7党が提出した使途公開不要な「政策活動費」を全廃する法案が含まれ、与党の自民、公明両党も賛成に回った。
 政策活動費は政党から議員個人に支給され、自民では党幹部に億単位の巨費が渡っていた。6月の規正法改正では、野党側が廃止を求めたが、自民は使途公開の方向性については受け入れたものの、制度自体は存続された。
 使い道が不透明な制度の維持に固執した自民の姿勢が、先の衆院選での大敗の一因となった。不正の温床とされてきた政策活動費の全面廃止は当然だ。
 審議の過程で、自民は政党支出の相手を非公開にできる「公開方法工夫支出」の新設を提案した。外交上の秘密やプライバシーへの配慮が理由で、石破茂首相は支出の上限額を設けず、領収書も公開しないとの考えを示していた。
 野党から「第二のブラックボックス」などと批判され、公明党からも理解は得られず、新設は見送られた。与野党伯仲の国会がもたらした結果でもあるが、自民は政治改革への後ろ向きな姿勢を露呈した格好だ。党内の旧態依然の感覚が、民意と大きな隔たりがあることを自民は肝に銘じるべきだ。
 これまで長く放置されてきた、国会議員に月額100万円支給されている調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)も見直し、使途公開と残金の国庫返納を義務付けることになった。
 しかし使途の公開や返納の方法、政治資金の流れを監視するため国会に設置される第三者機関の組織体制などは今後の議論に委ねられた。透明性の確保が最重要だ。与野党には、抜け道や不正を許さない仕組みの構築を求めたい。
 最大の焦点とされた企業・団体献金については、来年の通常国会で協議し、年度内に結論を得ることになった。野党が「政策決定がゆがめられてきた」などと禁止を求めたが、自民は、企業にも政治活動や表現の自由が保障されているとして譲らなかった。
 立憲民主党は、企業などが自由意思で結成した政治団体の寄付は献金禁止から除外する案を示し、共産党は全面禁止を訴えるなど各党の主張は異なる。与野党が全廃という一致点を見いだした政策活動費と同様に、国民感覚とずれのない結論を求めたい。

政治資金規正法改正へ 着手すべき宿題を先送り(2024年12月19日『福井新聞』-「論説」)
 
 使途公開不要な政策活動費を全廃する野党7党提出の政治資金規正法再改正案が衆院本会議で可決された。参院審議を経て今国会で成立する見通しだ。
 自民党の派閥裏金事件を踏まえた再改正で、自民は政党の資金支出先を一部非公開にできる独自法案を提出していた。だが最終的には立憲民主党などがまとめた再改正案を受け入れた。先の衆院選で自民は大敗し、公明党とともに少数与党に転落した。自公政権への強い不信感を示した民意が大幅譲歩に追い込んだと言える。
 石破茂首相が目指していた年内決着に一定のめどはついたが審議過程で自民の自浄能力に限界があることも浮き彫りになった。積み残した課題への取り組みは監視していく必要がある。 政策活動費は政党から政治家個人に支給され、自民の場合、党幹部に対し年10億円前後が渡った。裏金事件発覚後、改めて問題視され、その存廃が焦点となった。6月に規正法を改正した際も、自民は温存を図り政治改革に対する姿勢が本物なのかが疑われていた。
 衆院選後、自民はようやく政策活動費の廃止を打ち出した。だが外交上の秘密などに関わる資金支出先は公開の例外とする新たな規定を独自法案に設けようとした。
 連立の公明からの理解を得られず、自民が全面廃止に転換したのは当然といえる。同時に少数与党として野党の主張を受け入れなければ法案を成立させられなかった。
 立民などが提出した企業・団体献金の禁止法案に関しては自民が抵抗し、来年3月までに結論を得るとして先送りした。同法案を巡る審議で、野党は献金元の意向に沿って「政策がゆがめられる」と主張。自民は反論し、企業にも政治活動や表現の自由が認められていると訴えた。
 1995年の政党交付金導入は同献金の禁止が前提だったという自民の河野洋平元総裁の証言を基にした指摘には、石破首相が「前提になっていたという事実はない」と否定した。
 同献金の存続ありきの自民に対し、立憲は年内の結論にこだわらなかった。来夏の参院選を見据えて「政治とカネ」で政権を揺さぶりたいとの思惑が透けてみえる。議論をいたずらに引き延ばすのではなく来年の通常国会で結論を出すべきだ。企業・団体献金の問題の先送りは宿題を残したままだ。
 自民が同献金を維持するというのであれば、国会で国民が納得する答弁が首相らには求められる。
 リクルート事件東京佐川急便事件に端を発した30年来の「宿題」に着手し、着実な改革がなされなければ政治の信頼回復の道は遠いと心すべきだ。

政治改革3法成立へ 「穴」ふさぐ議論継続を(2024年12月19日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 政治資金規正法再改正案を含む政治改革3法案が成立する見通しだ。与野党の賛成多数で衆院を通過し、きのう参院での審議に入った。
 このうち一つは野党7党が提出した、政策活動費を全廃する政治資金規正法の改正案だ。
 政策活動費は政党から議員個人に支出される。使途公開の義務がなく、自民党では歴代幹事長に毎年10億円前後が支出されていることが問題視されてきた。
 しかし6月の規正法改正で自民は、強い批判を浴びながらも温存を図った経緯がある。再改正の声が高まる中、今国会でも政党の資金支出先を一部非公開にできる独自法案を提出していた。野党の強い反発を受けて断念せざるを得なくなった形だ。
 先の衆院選で自民は大敗し、公明党とともに少数与党に転落した。「政治とカネ」の問題を契機に自公政権への強い不信感を示した民意が、与党を大幅な譲歩に追い込んだと言えよう。
 政治資金全般を監視する第三者機関の設置法案は国民民主党と公明が提出し、自民や野党が賛成。外国人と外国法人の政治資金パーティー券の購入禁止や政治資金収支報告書のデータベース化などを盛り込んだ法案は自民が提出し、公明と野党が賛成した。
 詳細な制度設計はこれからだが、政治資金の透明性確保に向け与野党が互いに歩み寄り合意に至った。新しい政治の形として歓迎したい。
■    ■
 一方、野党4党派で提出した企業・団体献金の禁止法案に関しては自民が抵抗し、採決は見送られた。
 立憲民主党が「改革の本丸」と臨んだものの、政治団体からの献金を巡り批判が出て、野党の足並みがそろわなくなった。
 ただ、献金元の意向に沿い「政策がゆがめられる」との懸念は根強い。共同通信世論調査でも「禁止すべきだ」との回答が過半数に達している。
 自民がそれでも維持するというのであれば、石破茂首相には次期国会で説得力ある答弁が求められる。
 今国会では、裏金事件に直結する政治資金パーティーの規制強化についてほぼ俎上(そじょう)に上らなかった。野党内にもパーティー収入に依存する議員がいることが背景にある。
 だが裏金事件で議員らの順法意識の欠如が露呈したことを考えれば、メスを入れる必要があるだろう。
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 国会では裏金関係議員を対象にした政治倫理審査会も始まっている。
 しかし、これまで出席した議員らからは派閥幹部や事務局に従っただけとの発言が相次ぎ、実態解明につながる証言は出ていない。
 過去の政倫審では旧安倍派幹部が説明責任を果たしたとは言えない態度に終始した。
 今回も同様の結果に終わるようであれば、国民の信頼回復は遠い。
 与野党が伯仲する緊張感の中で、民意を反映した政治改革を前に進めなければならない。

規正法再改正へ 企業献金禁止を忘れるな(2024年12月18日『北海道新聞』-「社説」)
 
 使途公開義務がない政策活動費を全廃するなどの政治資金規正法の再改正案が衆院を通過した。今国会で成立する運びだ。
 自民党が外交秘密などの一部支出を非公開にできる「公開方法工夫支出」の新設を断念し、野党案を受け入れた。歩み寄りを促したのは少数与党国会の一定の成果と言って良いだろう。
 ただ抜本改革には程遠い。焦点の企業・団体献金の禁止は結論を年度末まで先送りした。30年前から積み残された改革の本丸だ。棚上げは許されない。
 議論の発端となった自民党裏金事件も真相究明が足踏みし、謎は深まるばかりだ。きのうの衆院政治倫理審査会でも「知らぬ存ぜぬ」が繰り返された。
 これでは信頼回復は到底望めまい。与野党は熟議を尽くしてさまざまな課題に答えを出し、改革を成し遂げねばならない。
 政策活動費は事件に関与した議員が裏金のことを「政策活動費だと思っていた」と話し、その不透明な実態に注目が集まった。自民党は年間計十数億円を幹事長など議員個人に渡している。裏金事件を本当に反省しているのなら全廃は当然だった。
 石破茂首相はきのうも国会で「公開方法工夫支出」の必要性を強調した。それでは全廃後はどのように対処するのか、新たな「抜け道」につながらぬよう明確に説明すべきだ。
 政治資金を幅広く監査する第三者機関の設置法案も衆院を通過した。与野党は独立性が高く厳正な審査ができる機関になるよう制度設計に努めるべきだ。
 政治献金について首相や自民党は「企業・団体献金が悪で、個人献金が善だとの立場は取らない」と述べ、現状維持を訴えている。だがこれは善悪を分けるのが議論の本質ではない。
 営利を目的とした企業などの献金が政策決定をゆがめかねない以上、改めるのが筋だろう。
 国会議員に月100万円を支給する調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)について使途公開や残金の国庫返納を義務付ける法案も可決された。
 旧文通費は使途が事実上制限されていないのも問題だ。今回その改革は先送りしたが、使途の範囲は厳密に定めるべきだ。
 裏金問題を巡っては自民党都連の新たな疑惑も発覚した。証人喚問や参考人招致などあらゆる手だてを尽くし、根深い闇にメスを入れなければならない。
 参院政倫審では裏金議員の弁明を公開せず、議員のみの傍聴で済ます意向があるというが、内向きにも程がある。国民に向き合わなければ、説明責任を果たすことには全くならない。

国民の不信、自民追い込む/政治資金規正法再改正へ(2024年12月18日『東奥日報』-「時論」/『山形新聞』ー「社説」/『茨城新聞山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)
 
 野党7党提出の政治資金規正法再改正案が衆院本会議で可決された。参院審議を経て今国会で成立する見通しだ。
 自民党の派閥裏金事件を踏まえた再改正案は、使途公開不要な政策活動費の全面廃止が柱。自民は政党の資金支出先を一部非公開にできる独自法案を提出していたが、最終的に立憲民主党などがまとめた再改正案を受け入れた。
 先の衆院選で自民は大敗し、公明党とともに少数与党に転落。自公政権への強い不信感を示した民意が大幅譲歩に追い込んだと言える。
 石破茂首相が目指していた年内決着に一定のめどはついたものの、これまでの審議過程で、自民の自浄能力に限界があることがまたも浮き彫りになった。積み残した課題への取り組みで民意に背くことはないか、今後も監視していく必要がある。
 政策活動費は政党から政治家個人に支給され、自民の場合、党幹部に対し年10億円前後が渡ってきた。裏金事件発覚後、改めて問題視され、その存廃が焦点に浮上した。6月に規正法を改正した際も、自民は温存を図り、政治改革の本気度が疑われていた。
 衆院選後、自民はようやく政策活動費の廃止を打ち出した。ところが、外交上の秘密などに関わる資金支出先は公開の例外とする新たな規定を独自法案に盛り込んだ。
 非公開の妥当性は国会に設置する第三者機関が監査するとはいえ、国民の目が届かず恣意(しい)的に運用される懸念は残る。裏金事件が遵法(じゅんぽう)意識の欠如に起因していることを考えれば、なおさらだ。
 自民が全面廃止に転換したのは当然だが、続出する不祥事と無縁ではない「カネのかかる政治」を真剣に正そうとしているのか疑念を持たれても仕方あるまい。
 一方、立民などが提出した企業・団体献金の禁止法案に関しては自民が抵抗し、来年3月までに結論を得るとして先送りした。
 同法案を巡る審議で、野党は献金元の意向に沿って「政策がゆがめられる」と主張。自民は反論し、企業にも政治活動や表現の自由が認められていると強調した。
 1995年の政党交付金導入は同献金の禁止が前提だったという自民の河野洋平元総裁の証言を基にした指摘には、石破首相が「前提になっていたという事実はない」と否定した。
 共同通信の12月の世論調査では、「禁止すべきだ」との回答が過半数に達している。
 自民がそれでも同献金を維持するというのであれば、来年1月に始まる次期国会で、国民の大半が納得する説得力ある答弁が首相らには求められよう。
 今国会では、国会議員に月額100万円支給されている調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の見直しも実現することになった。使途公開と残金の国庫返納を義務付ける内容だ。
 国民の常識にようやく追いついた形だが、これも衆院選で積み重なった1票がもたらした成果であることは間違いない。
 国会では裏金関係議員を対象にした政治倫理審査会衆院から始まった。過去の政倫審では旧安倍派幹部が説明責任を果たしたとは言えない態度に終始した。今回も同様の結果に終わり、首相も是認するのであれば、政治の信頼回復には至らないと心すべきだ。

政策活動費全廃 野党結束でさらなる成果を(2024年12月18日『河北新報』-「社説」)

 衆院選で与党を過半数割れに追い込みながらも、首相指名選挙や2024年度補正予算案への対応が分かれた野党各党が今回はようやく、まとまることができた。
 与党が野党案をほぼ全面的に受け入れるのは極めて異例だ。「1強」だった国会の風景は変わり、野党が足並みをそろえれば「政治とカネ」を巡る改革が前進することを示したと言える。
 臨時国会の大きな焦点だった政治資金規正法再改正案がきのう、衆院本会議で可決され、参院に送られた。会期末が迫る中、今国会中に成立する見通しとなった。
 自民党は使途公開義務のない政策活動費を全面廃止することで大幅に譲渡し、政党支出の相手を一部非公開とする「公開方法工夫支出」の新設を断念。立憲民主党など野党7党の提出法案に賛成した。
 政策活動費は、政党から政治家個人へ支出される政治資金。政党は支出した相手の氏名や金額、日付を政治資金収支報告書に記載するが、受け取った政治家には使途の公表義務がない。
 自民派閥裏金事件で複数の安倍派議員がパーティー券収入の還流分を報告書に記載しなかった理由を「政策活動費と認識していた」と説明したのは、そのためだった。
 衆院選の敗北を受け、自民は政策活動費の「廃止」を表明したものの、臨時国会では外交上の秘密や企業秘密、プライバシーなどを害する場合は支出先を非公開とする制度を設ける法案を提出した。
 野党が新たなブラックボックスになるとして「抜け穴づくり」「第二の政策活動費」と批判を強めたのは当然だろう。公明党も「国民の理解が得られない」と突き放し、自民の孤立は決定的となった。
 政治資金規正法の目的はカネの流れを国民の監視下に置き、政治の透明性、公平性を確保することに他ならないはずだが、自民はこの間、使途公開に激しく抵抗してきた。
 自民は党幹部に年間、億単位の政策活動費を支出し、二階俊博衆院議員は幹事長時代の5年間で約50億円を受けていた。国会で使途や残金をただされた岸田文雄首相(当時)が確認もせずに「全額適切に使われている」と強弁したことも思い起こされる。
 使途が隠されていることに加え、非課税である点も国民の強い批判を浴び、確定申告業務に支障が出る事態となったことを忘れてはなるまい。
 国会議員に月額100万円支給される調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開や残金返納を義務付ける歳費法改正案もきのう、衆院を通過し、今国会で成立する見込みとなった。
 野党が一致して攻勢を強めれば、さらに改革は加速するはずだ。「政治とカネ」を巡る問題の根絶にとどまらず、国民が望む「カネのかからない政治」の実現に向け、いっそうの結束を求めたい。

【再改正案成立へ】政治改革なお途上だ(2024年12月18日『福島民報』-「論説」
 
 政治資金規正法の再改正案が17日の衆院本会議で可決され、参院を経て成立する見通しとなった。とはいえ、それも政治改革と政治不信払拭への通過点でしかない。自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金の透明性確保、監視強化などの実効性を政党と国会自らの責任として、どう担保するかが引き続き問われる。
 使途公開不要な政策活動費を巡り、自民党は当初、「公開方法工夫支出」を再改正案に盛り込んだ。外交、企業、個人の秘密に関わる使途は非公開とする別枠措置にぎりぎりまでこだわった。
 外交上の活動を全て表に出すことで、国益に支障を来しかねない局面は確かにあるに違いない。発注先の企業が地域の政治的な事情で不利益を被ったり、虐待から逃れた当事者の名前がさらされたりするのを防ぐ必要がある、とも自民党は主張した。正当な理由にも聞こえたが、「新たな抜け穴になる」と野党側が反発したのもうなずける。
 政治資金パーティー券の割り当て超過分を政策活動費扱いにして収支報告書に記載せず、裏金化した行為への疑念は晴れていない。にもかかわらず非公開費目を残そうとする姿勢は自省を欠き、既得権保守に苦心しているようにも映った。使途公開による「国民の不断の監視と批判」を保障する政治資金規正法の趣旨とも折り合わない。
 自民党は、全面禁止の野党案を最終的に丸のみした。一方で、石破茂首相は受け入れは少数与党ゆえであり、非公開支出は必要との認識を参院予算委員会で改めて強調した。積年の政治とカネ問題にけじめをつけ、国民の信頼を回復するには党の理屈を超え、再改正法を順守する姿勢こそ重視すべきではないか。
 企業・団体献金の在り方は来年3月末までに結論を得るとされた。自民党は企業・団体の政治活動の自由を認めた過去の最高裁判決を引いて妥当性を説く。野党側は、企業・団体献金の禁止は政党交付金が創設されて以来の宿題だと主張してかみ合わない。
 時勢を踏まえて重要なのは、「弊害への対処は立法政策に待つべき」との最高裁判決の国会への期待ではないか。有識者とともに当事者の企業・団体、監視者たる国民も含めて議論を深める必要があるだろう。(五十嵐稔)

政策活動費の全面廃止 改革の「宿題」残ったままだ(2024年12月18日『毎日新聞』-「社説」)
 
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自民、公明も賛成し、野党提出の政治資金規正法改正案が可決された衆院政治改革特別委員会=国会内で2024年12月17日午後0時57分、平田明浩撮影
 これで終わりではない。カネで国政を動かせる仕組みを解消しなければならない。
 自民党派閥の裏金問題を受けた政治資金規正法改正案などが衆院を通過し、今国会で成立する見通しとなった。政党から議員に渡され、使途公開の義務がなかった政策活動費は全面的に廃止される。
 不透明なカネを自民幹部らが野放図に使える政活費は、金権政治の温床だと指摘されてきた。全面廃止は当然だ。
 審議を通じて目に付いたのは、何とか「抜け穴」を残そうとする自民の悪あがきぶりだった。政活費を廃止すると言いながら、外交上の秘密などの名目で非公開にできる「公開方法工夫支出」を新設しようとした。
 しかし、野党が「新たなブラックボックスになる」と強く反対したため、断念に追い込まれた。結局、立憲民主など野党7党が提出した全面廃止法案に賛成せざるを得なくなった。
 政治資金をチェックする第三者機関の設置についても、全体を幅広く監視できる公明、国民民主両党案に相乗りした。自民案で監査対象となっていた公開方法工夫支出がなくなったためだ。
 自民が譲歩したのは、少数与党として、野党の主張を受け入れなければ法案を成立させられないからだ。与野党伯仲の状況下で「熟議の国会」の実現を模索し続けなければならない。
 一方で大きな問題が残った。
 企業・団体献金の扱いを巡り、与野党は「来年3月末までに結論を得る」として先送りした。自民が禁止に慎重な姿勢を崩さず、野党の足並みもそろわなかった。
 企業・団体献金は政策をゆがめる懸念が強く、「平成の政治改革」の結果、禁止する方向が定まっていたはずだ。石破茂首相には早急に決断する責任がある。
 野党も、来夏の参院選での争点化を狙って、議論をいたずらに引き延ばすようなふるまいは避けるべきだ。与野党が協力し、来年の通常国会で結論を出さなければならない。
 残された「30年来の宿題」に直ちに取りかかり、改革を徹底することが欠かせない。それこそが、根深い国民の不信を払拭(ふっしょく)する唯一の道である。
規正法再改正へ 資金の透明化へ一歩前進した(2024年12月18日『読売新聞』-「社説」)
 残り少ない今国会の会期で、政策活動費の廃止を柱とする政治資金規正法改正案などが成立する見通しとなったのは、一歩前進といえる。
 自民、立憲民主両党の協議の結果、企業・団体献金を禁止するかどうかは先送りされたが、来年の通常国会で議論し、年度内に決着をつけるべきだ。
 政治資金の改革を巡っては、与野党が今国会に9本もの関連法案を提出していた。
 このうち、政党から党幹部らに支給され、使途を公開する必要のない政策活動費を廃止する規正法改正案については、自民が、個人名を公表せずにすむ、例外的な支出項目を設けることにこだわり、与野党の協議が難航していた。
 だが、この例外の新設を自民が撤回し、立民など野党7党の法案に賛成することを決めたため、この法案が衆院を通過した。
 自民には、今国会で改革が実現しなければ石破政権がさらに窮地に陥ってしまうとの判断が働いたようだ。少数与党の厳しさを改めて思い知ったのではないか。
 このほか政治資金を監視する第三者機関を国会に新設する公明、国民民主両党の案、政治資金収支報告書をデータベース化し、ネットで閲覧できるように改める自民案の2案も参院に送られた。
 改革に不十分な面は残っているとはいえ、与野党が互いに歩み寄り、合意にこぎつけたことは評価できる。政治資金を国民の監視下に置き、政治活動の公正さを確保することは重要だ。
 今回、自民の執行部は、衆院政治改革特別委員会の現場レベルに野党との修正協議を委ねていた。本来なら、幹事長や政調会長が野党の意見を丁寧に聞く機会を設け、一致点を探るべきだった。
 そうした努力を怠ったことが、野党への全面的な譲歩につながったのではないか。政治改革さえ主導できないようでは、今後想定される、負担を伴う難しい政策課題の調整などとても務まるまい。
 一方、衆院政治倫理審査会が約9か月ぶりに開かれ、収支報告書に不記載があった旧安倍派の議員らの弁明が始まった。
 稲田朋美元防衛相は「派閥からの還付も、そのお金が不記載になっていることも知らなかった」などと釈明した。弁明を行ったその他の議員からも、新たな事実が明らかになることはなかった。
 東京地検特捜部が既に捜査を終えている事件について、強制力のない政倫審で追及し続ける意味がどれだけあるのだろうか。

自民の不記載 地方の不正も解明せよ(2024年12月18日『東京新聞』-「社説」)
 
 自民党の東京都議会議員がパーティー券収入の一部を政治資金収支報告書に記載していなかったことが分かった。国会議員の派閥裏金事件と似た不正が、地方の議員や組織にもまん延していることをうかがわせる。自民党は全国で調査し、結果を公表すべきだ。
 都議会自民党が、政治資金規正法違反(虚偽記入)の公訴時効前5年間に行われた会派パーティー2回分について調査した結果、20人ほどに不記載があり、金額が計100万円超の都議も複数いた、という。
 都議にはパーティー券50枚(計100万円)の販売ノルマがありそれを超える販売収入を都議会自民党に納めず「中抜き」して、個人的に得ていたとみられる。
 収支報告書に記載されず、裏金化していた疑いがある。捜査当局は刑事事件として立件すべき事例がないか、政治資金の「闇」の解明に尽くすべきだ。
 国政では、派閥パーティー収入の一部を国会議員側に還流しながら収支報告書に記載しなかったとして、国会議員ら11人が規正法違反で立件された。党本部の調査によると、記載漏れなどがあった議員らは85人に上り、国民の信頼を失った自民党は10月の衆院選で惨敗し、少数与党に転落した。
 自民党の政治資金を巡るずさんな処理は国会議員に限らず、地方議員や組織でも横行していたことが次々と明らかになっている。
 岐阜県連では2021、22年のパーティーで、県議や市議らの関係団体に計700万円超の還流があったとして岐阜市支部が収支報告書を訂正。会場収容人数の7倍超のパーティー券を販売した栃木県連、2倍超の富山県連などの不明朗な収入も指摘されている。
 愛知県の知多市支部では09年から今年まで収支報告書が未提出だった。伊藤忠彦復興相や元県議が代表や事務担当者を務め、元県議は「忙しかった」と釈明した。
 いずれも法律を順守しようという姿勢を欠き、言語道断だ。
 石破茂内閣は規正法再改正を巡り、政策活動費の全廃は渋々受け入れたものの、企業・団体献金の廃止はかたくなに拒んでいる。
 来年は参院選や都議選があり、国民や都民の審判を受ける。
 自民党は国会議員に加えて、地方の議員や組織の不正も直視し、たまった組織の「膿(うみ)」を出し切らねば、信頼回復など望めない。

政策活動費全廃 与野党均衡の効果表れた(2024年12月18日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 自民党公明党少数与党になって迎えた臨時国会で、「熟議」の国会が垣間見えるようになってきた。
 政治資金規正法の再改定案が衆院を通過した。立憲民主、日本維新の会、国民民主各党など野党7党の提出法案で、自民、公明の与党も賛成に回っている。
 再改定案の中心は、使途公開が不要な政策活動費の全面廃止だ。
 自民案は、政活費廃止を打ち出した一方で、使途を非公開にできる「公開方法工夫支出」の新設を盛り込んだ。政党との取引を知られたくない企業や、台湾外交に関する支出などへの配慮が必要という主張である。
 これに対し、立民などが「第二のブラックボックスになる」として拒否。自民は法案の付則に、検討事項として盛り込むよう調整したものの支持を得られず、最終的に野党案に賛成した。
 非公開の余地を残す支出の新設は国民の理解は得られない。全面廃止は当然だ。与野党が均衡する国会の効果と受け止めたい。
 課題も持ち越された。立民が政治改革の「本丸」とする企業・団体献金の取り扱いだ。
 自民は「政治活動の自由」として、禁止は「慎重さを欠く」と主張。立民や維新は政治をゆがめると指摘して、禁止を譲らなかった。最終的に来年3月末までに結論を得ると申し合わせている。
 意見の隔たりは大きい。野党間でも、立民案が禁止対象から政治団体を除外していることに、国民民主や維新が「抜け道になる」と指摘し、一致できていない。
 企業・団体献金は政治活動の資金をだれが支えるのかという問題だ。企業・団体献金と、税金を原資とする政党交付金を同時に受け取ることの是非も問われる。カネがかかる政治のあり方も議論する必要があるだろう。
 次期通常国会は、浮き彫りになった意見の差を受け止め、論議を深めて法案を練り上げるべきだ。有識者らの意見を聞くことも必要だろう。各党の思惑を優先するのではなく、国民が納得できる政治改革を実現しなければならない。
 きのう成立した2024年度の補正予算案も、28年ぶりに修正された。自公が立民の要求を受け入れ、能登半島地震の復興関連予算を1千億円増額した。このほか、国民民主との「年収の壁」協議で自公が譲歩することで、国民民主が予算案の賛成に回っている。
 与野党が均衡する国会には緊張感もみられる。議論の熟度をさらに深めたい。

政活費の全廃 自民の強弁崩す先例に(2024年12月18日『京都新聞』-「社説」)
 
 与野党が伯仲する国会の一つの成果と受け止めたい。
 衆院は、使い道を明らかにせず支出できる「政策活動費」の全面廃止を含む政治改革法案を可決した。立憲民主党など野党7党が全廃の法案で足並みをそろえたため、一部を非公開にできる「公開方法工夫支出」の導入を目指した自民党は断念に追い込まれた。
 政党から議員個人に渡される政活費は、政治資金規正法に定義がなく、何に使ったのか公表しなくてすむ「抜け穴」の一つとしてブラックボックスになっていた。
 自民の派閥裏金事件の中で、二階俊博元幹事長が在任中の5年間で、約50億円を受け取っていたことが判明。幹事長権力の源泉として選挙対策などに使っていたとされ、野党が廃止を求めてきた。
 しかし、岸田文雄前政権が数の力で押し切った6月の規正法改正では、領収書の10年後公開や年間上限額の設定を盛り込むことで政活費を制度化した。領収書は黒塗りで公開する可能性も残した。
 そもそも脱法的な政治資金の使い方を、焼け太りで認めさせた感があった政活費だった。全廃は当然である。
 形だけの規正法改正に対し、ノーを突きつけられた衆院選の反省もみせず、自民が珍妙な「公開方法工夫支出」なる文言を入れて、領収書非公開で上限なく使えるとするカネを温存しようとした姿勢自体、非難に値する。
 しかも自民案は政活費の廃止を掲げながら、対象を政党や国会議員関係団体に限り、政治資金団体が新たな抜け穴になる可能性を残していた。野党がまとめた可決法案は全ての政治団体について、渡しきりの支出を認めない規定を設けている。
 法案を審議した衆院特別委では、自民の説明は行き詰まりが目立ち、ばらばらだった野党案のうち、まず一致できる政活費の全廃で統一した法案を提出した。少数与党の自民は、採決すれば「野党に数で押し込まれる」とみて、丸のみせざるを得なかった。
 一方、政治団体の政治資金を監視する第三者機関は、国民民主と公明の両党が提出した国会に設置する法案に自民、立民などが乗った。強い独立性や調査権限を持たせるよう中身を詰めてほしい。
 最大の焦点である企業・団体献金の全面禁止は、来年3月末までに結論を得ると持ち越した。直近の世論調査でも国民の6割近くが求めている。自民の強弁を崩す野党の結束が欠かせない。

政治改革法案/熟議で一致点を見いだせ(2024年12月18日『神戸新聞』-「社説」)
 
 自民党派閥裏金事件を踏まえた政治資金規正法再改正を含む政治改革関連法案が衆院を通過した。今国会で成立する見通しとなった。
 衆院の政治改革特別委員会では、与野党が計9本の法案を提出し、乱立状態だった。政党から議員個人に支給され、使途公開不要な政策活動費を廃止する方向では自民も含む各党が一致していた。だが野党の多くが全面廃止を掲げたのに対し、自民提出の法案は外交上の秘密などを害する恐れがある場合に使途を非公開にできる例外規定を設けた。
 当初は「要配慮支出」と呼んだ名称を「公開方法工夫支出」と変えたが、中身は同じだ。石破茂首相は衆院予算委員会で領収書は公開せず、支出の上限額もないと述べた。野党が「第二のブラックボックス」と批判を強めるのも当然で、これでは国民の理解は得られない。
 自民は公開方法工夫支出の新設を断念し、立憲民主党など野党7党が提出した政策活動費を全面廃止する法案に賛成に転じた。国会議員が関係する政治団体の政治資金を幅広く監査する第三者機関を国会に設置する。不正をなくす実効性のある組織にするには、国民の監視下に置くことが肝要だ。
 一方、立民など多くの野党が禁止を求める企業・団体献金について、自民は存続の立場を堅持する。
 30年前の「平成の政治改革」では、税を原資とする政党交付金を導入する代わりに企業・団体献金の廃止を決めた。しかし政治家個人への寄付を禁じる一方、政治家が支部長を務める政党支部への献金は容認され、交付金との「二重取り」が続く。
 首相は衆院予算委で献金禁止は「憲法21条が定める表現の自由に抵触する」と述べ、その後修正した。企業の政治活動の自由を認めた1970年の最高裁判決を根拠にするが、同判決は金権腐敗の弊害への対処を「立法政策」に委ねるとの判断も示している。都合の良い部分だけを引用するような主張は説得力を欠く。
 立民などは企業や労働組合による献金とパーティー券購入を禁ずる法案を提出したが、政治団体献金は除外した。国民民主党日本維新の会はこの点が「抜け道になる」として共同提出に加わらなかった。少数与党下で野党が結束して法案にできるよう協議を続けてほしい。
 腐敗の温床となる政治資金の抜け道を残さず、透明性を高める仕組みをどう築くか。与野党は企業・団体献金に関して来年3月末までに結論を得ると合意した。直近の世論調査では企業・団体献金を「禁止するべきだ」が56%を占める。民意に沿った政治改革を目指し、熟議を尽くして一致点を見いだす必要がある。

政治改革法案可決 合意形成 新たな形示した(2024年12月18日『山陽新聞』-「社説」) 
 
 自民党派閥裏金事件を踏まえた政治資金規正法再改正案を含む政治改革関連3法案がきのう、衆院で可決した。当初、与野党提出の9法案が乱立する異例の審議となったが、政策活動費を全面廃止する野党案を自民が丸のみし、一応の決着にこぎつけた。
 自民が数の力で規正法改正案を押し切った先の通常国会とは対照的だ。10月の衆院選を経て少数与党となった中、野党に大幅譲歩せざるを得ず、新たな与野党合意の形を示した格好だ。
 審議で大きな論点になった一つが、政党が党幹部らに配り、使い道を公開する必要のない政策活動費の扱いである。自民案はこれを廃止とする一方、支出先を非公表にできる「公開方法工夫支出」を設けるとした。使途を公開することで外交上の秘密や企業の営業秘密などに支障が生じる場合があるとの理由だ。
 しかし、野党の多くが「新たなブラックボックスをつくる内容だ」などと非難した。連立与党の公明党も「国民の十分な理解が必ずしも得られていない」と否定的な見解を示すに至り、自民は公開方法工夫支出の導入を断念した。
 そもそも裏金事件で問われたのは、政治を巡るカネの不透明な流れである。疑念を招く可能性のある支出をなくす方向性は当然と言えよう。
 政治資金の適正さを確保する第三者機関の設置も焦点の一つだった。自民は第三者機関を国会に置き、公開方法工夫支出をチェックするとしていたが、同支出の制度創設がなくなり、国民民主、公明両党が提出した設置法案に賛成した。立憲民主党なども同調した。国民・公明案は第三者機関を国会に設置し、国会議員関係の政治団体の収支全般を監査対象としている。
 公明は当初、第三者機関を行政府に置き、独立性を高めようとしたが、単独提出に必要な議員の数が足りず、国民民主と法案を共同提出する道を選んだ。真にチェック機能が果たせるか、今後の制度設計で実効性が問われよう。
 積み残しとなった大きな論点が企業・団体献金の在り方だ。多くの野党が「腐敗や癒着構造の温床となり、政策決定をゆがめてきた」(立民)などと禁止を主張したが、自民は「禁止の考えは持っていない」との姿勢を変えず、議論は平行線をたどった。
 自民批判を強める立民も政治団体からの献金を禁止対象から除外しており、他の野党から「抜け道だ」と指摘を受けた。その結果、来年3月末までに結論を出すことで自民、立民両党が合意し、扱いの決定を先送りした。
 企業・団体献金は「政治とカネ」問題で、長年指摘されてきた課題だ。今国会では1994年の規正法改正で「5年後に在り方を見直す」とした付則の解釈を巡り、与野党が対立する場面もあった。
 与野党伯仲の「熟議の国会」で議論を重ね、望ましい姿を見いださねばなるまい。

政治改革関連法案成立へ これで幕引きではない(2024年12月18日『中国新聞』-「社説」)
 
 臨時国会の焦点だった政治資金改革の大枠が固まった。使途公開不要な政策活動費を全面廃止とすることが柱だ。企業・団体献金の禁止は来年3月末までに結論を得る。自民、立憲民主両党が合意し、三つの関連法案がきのう衆院を通過した。参院審議を経て成立する見通しだ。
 
 各党の提出法案は共同提出を含め計9本に上った。いずれも提出会派だけでは過半数に達しない。自民党が野党案を丸のみする形で折り合った。不十分とはいえ、衆院選で与党を大敗させた一票一票が譲歩に追い込んだといえる。
 今国会で一定の結論を得たことは評価したい。だが、これで幕引きではない。企業・団体献金の扱いや、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の実態解明など残された課題に、民意に沿って取り組まなければなるまい。
 政策活動費は政党から政治家個人に支出される精算不要の政治資金だ。「表の裏金」と呼ばれ、自民党は党幹部らに年10億円前後を支出。本紙取材班は過去の国政選挙に投入された可能性を明らかにしている。
 自民党は当初、廃止と同時に、外交上や企業の営業上の秘密などを害する恐れのある支出を非公開にできる「公開方法工夫支出」の新設を独自法案に明記していた。
 国民の目が届かず恣意(しい)的に運用される懸念が拭えない新たな「抜け穴」ではないか。裏金事件で政治への信頼を失墜させた反省はないのかと思われても仕方あるまい。
 野党から批判が相次いで成立の見通しが立たず、撤回を余儀なくされたのは当然だ。最終的に立憲民主など野党7党が提出した全面廃止の法案を受け入れた。
 国民民主党公明党が共同提出した、政治資金全般を監視する第三者機関を国会に設置する法案は自民、立憲民主両党などの賛成で可決した。幅広い役割と権限を持つ組織とする必要がある。
 見逃せないのが、与野党が真っ向から対立した企業・団体献金の扱いだ。政策をゆがめる恐れがあると禁止を主張する野党に対し、自民党は温存にこだわった。
 会期末が迫る中、自民、立憲民主両党の協議で結論を先送りしたのはなぜなのか。自浄能力に限界があると改めて浮き彫りになった自民党に猶予を与える合意には、首をひねらざるを得ない。石破茂首相はきのうも「禁止の考えを持っていない」と強調。自民党は「禁止より公開」と訴えながら、透明化につながる改革案さえ示していない。
 立憲民主党の禁止法案には「政治団体を除く」との規定がある。労働組合系の政治団体からの献金に道を残していると他党から指摘された。腰の引けた姿勢では、野党の結束を図ることすらおぼつかないのではないか。
 共同通信の12月の世論調査で、企業・団体献金を「禁止すべきだ」との回答が過半数に達した。従来のまま維持されることは認められまい。与野党とも、もっと改革への本気度を示してもらいたい。

【政治改革法合意】不信払拭へようやく一歩(2024年12月18日『高知新聞』-「社説」)
 
 自民党裏金事件で揺れてきた国政に対し、国民がいま最も求めているのが不信払拭だろう。課題はなお残るものの、その民意に沿った方向で与野党が一応の合意に達したことは前進と言えるのではないか。
 政治資金規正法再改正を含む政治改革法案が衆院を通過し、今国会で成立する見通しとなった。使途公開不要で「ブラックボックス」との批判がある政策活動費を巡っては、一部温存を訴えていた自民が譲歩し、抜け穴が生まれる余地を排した野党案をほぼ受け入れた。
 政治改革を巡っては、各党が法案計9本を提出。政策活動費を全面廃止する法案は野党7党が共同提出していた。与野党が法案を出し合い、議論して一致点を探るプロセスは、自民1強時代の国会から様変わりした。長短ある少数与党の国会運営にあって肯定的に評価できるだろう。国民本位の議論へさらに熟度を高めていきたい。
 裏金事件による与党大敗を受け、臨時国会では各党とも政治改革に前向きな姿勢を示している。ただ、濃淡があり、政策活動費廃止の例外をつくる形で自民が求めた「公開方法工夫支出」の新設は、企業・団体献金の扱いと並ぶ大きな論点だった。
 自民は、外交上の秘密や企業秘密を害する恐れもあるとして非公開の支出が必要とし、第三者委員会がチェックするとも主張した。
 だが、例外をつくれば「抜け穴」になっていないかとの疑心も生まれる。必要性に関する説明も漠然としていて、他党が理解するだけの説得力を欠いた。
 そもそも、お金の流れを透明化するのが規正法の趣旨、原点であり、「政治とカネ」問題の抜本改革を迫られている局面でもある。不透明な支出にお墨付きを与える公開方法工夫支出には理解が得られにくいのが現実だろう。
 与野党とも国民の厳しい目を意識して、年内に成果を出すことにこだわっていた。このため、意見の隔たりが大きい企業・団体献金の扱いは来年3月末に期限を設定して議論を先送りし、一致点を見いだせた内容を成案化した。
 遅きに失した感は否定できないが、不信を生む素地になってきた政策活動費がようやく廃止される。また、国会議員に月額100万円支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)も、使途公開や残金の国庫返納を義務付ける法改正にめどが立った。引き続き、国民感覚を反映した取り組みが求められる。
 今後の焦点は企業・団体献金に移る。1990年代の政治改革で政党交付金が導入された際、5年後に見直すとされた経緯もある企業・団体献金について、野党は「政策がゆがめられる可能性がある」とし、「改革の本丸」に位置づける。
 石破茂首相は「企業の政治活動の自由」「献金で政策がゆがめられた記憶はない」などと強調。必要性を訴えているが、国民が納得できる具体的な使途や透明性を高める方策を示さねば理解は得られない。

例外の弱さ(2024年12月18日『高知新聞』-「小社会」)
 
 10年近く前、東京・銀座のバー「ルパン」を訪ねたことがある。文豪、太宰治のファンにとっては「聖地」。ネクタイを緩め、カウンターのいすにあぐらをかいて談笑する写真が知られる。
 その太宰にしては意外な「酒ぎらい」という随筆がある。といっても、毛嫌いするのは家に置く酒。本当は一滴も置きたくないと書く。机に向かって仕事をしていても「潔白の精進が、できないような不安な」視線を酒に向ける。
 とはいえ、知人の来訪時は例外らしい。「私は、弱い男であるから、酒も呑(の)まずに、まじめに対談していると、三十分くらいで、もう、へとへとになって…」。結局、随筆の中でも家の酒をかなり飲んでいる。思えば禁酒や禁煙の誓いも「例外」を作ってしまうと、言い訳の温床になるのはよくある話だ。
 政治改革法案が衆院を通過した。使い道を明らかにしなくてもいい政策活動費は全面廃止。一部の非公開を温存しようと自民党が求めた「公開方法工夫支出」は、「抜け穴」と反対された。つまり、「例外」は信用されなかった。
 先日の世論調査も、全面公開を求める声は66%に上った。自民党の裏金事件が表面化して1年。なぜ、政治はそんなにカネがかかるのか。透明性を求める世論に、自民党はより真摯(しんし)に向き合うべきだろう。
 企業・団体献金の扱いは来年に持ち越すという。ここもきっちりした線引きを。人間、「例外」を作ると弱いものだ。

政策活動費全廃へ 企業・団体献金に切り込め(2024年12月18日『琉球新報』-「社説」)
 
 国民の政治不信の払拭は、これからが正念場だ。使途公開不要な政策活動費を全面廃止する政治資金規正法再改正案が衆院本会議で可決された。法案は参院に送付され、今国会で成立する見通しだ。
 一方、最大の焦点とも言える企業・団体献金を巡っては、野党4党派が提出した禁止法案の採決が見送られた。結論を先送りした形だ。政策活動費全廃を足掛かりとした政治資金の透明化は緒に就いたばかりである。厳しい目が向けられていることを忘れず、通常国会献金に切り込んでもらいたい。
 衆院を通過した関連法案には、第三者機関が政治資金全般を監査することや政治資金収支報告書のデータベース化などが含まれる。いずれも使途などについてチェック機能を高めることが期待される。骨抜きとなることはないよう、制度設計に命を吹き込む必要がある。
 自民党は当初、政策活動費を廃止する代わりに、外交上の秘密などに関わる政治資金の支出の一部を非公開にできる「公開方法工夫支出」を新設することを求めていた。
 この支出に勘定されれば、支出の目的や月日、支払先の氏名などは公開されない。自民党総裁石破茂首相自らが予算委で国交がない国との議員外交を例に挙げて公開方法工夫支出の必要性を訴えていた。しかし、これでは新たな抜け道になりかねない。
 政策活動費のほか、調査研究広報滞在費(旧文通費)や官房機密費など、使途が明らかにならない政治関係の資金の在り方に疑念が向けられる中、国民の理解が得られるとは思えない。野党から「政策活動費の温存」との批判を浴び、自民が断念した格好だ。
 10月の衆院選で自公が過半数割れとなったことの影響が大きい。野党の賛成を得なければ衆院での法案可決が難しい状況にあるからだ。自民党派閥の裏金事件などを受けた国民の厳しい審判が政治資金の透明化を促す方向に作用したと言えよう。
 最大焦点の企業・団体献金の禁止については来年の通常国会に論戦が移る。禁止にあくまで反対する自民は、立民などが提出した禁止法案では労働組合がつくった政治団体からの献金が可能で不公平だと反攻の構えも見せる。
 立民は痛くもない腹を探られるというのであれば疑問にしっかりと答える必要がある。野党側は数の論理を頼みにするのではなく、政治資金の透明性を十分に担保できる仕組みづくりに向けた審議を心がけるべきだ。
 今国会での注目は政治倫理審査会での自民党派閥裏金事件を巡る審査である。衆院では全面公開で19日まで旧安倍派など計15人が出席する。
 事件を受けて3月までの衆院政倫審は旧安倍派の幹部が出席したが、実態解明にはほど遠かった。参院を含めて全員が公開の場で実情を明らかにしてもらいたい。

政治改革協議 自民党がまず譲らねば(2024年12月16日『東京新聞』-「社説」)
 
 自民党派閥の裏金事件を受けた政治改革を巡り、9法案が衆院に提出された。企業・団体献金や政策活動費を巡る各党間の隔たりは大きく、過半数の賛同を得た法案はない状況。修正協議を進めるに当たり、政治不信を招いた自民党がまず譲歩すべきは当然だ。
 9法案は自民が単独提出した政治資金規正法再改正案など3法案と、自民以外の各党派の合意内容を法案化した6法案。多様な法案提出は与野党伯仲を象徴する。
 衆院政治改革特別委員会での審議は、少数与党の国会で与野党が議論を通じて歩み寄り、合意形成できるか否かの試金石となる。
 しかし、責任が一段と重いはずの自民党は企業・団体献金の存続から一歩も踏み出そうとしない。
 党総裁の石破茂首相は10日の衆院予算委で、野党が求める企業・団体献金の禁止が、憲法21条が定める表現の自由に「抵触する」と答弁し、野党に妥協する姿勢は全く見せなかった。
 1970年の最高裁判決は企業による政治献金の自由を認めたが、巨額献金による金権腐敗への対処は「立法政策にまつべき」と法規制を認めている。
 首相の憲法解釈は独善的というほかなく、13日の参院予算委では「言い方が足りなかった。違反とまでは言わない」と答弁修正せざるを得なかった。
 首相は政治資金を巡り「禁止より公開」として公開不要な政策活動費の廃止を掲げるが、自民の法案は「公開方法工夫支出」の例外を設けた。外交秘密などへの配慮を理由として支出上限はなく、領収書保存も3年間に限定した。
 政策活動費の全面廃止で一致する野党側が「ブラックボックス」と批判したことを受け、自民は今後の検討項目とする案を打診したが、結論の先送りにすぎない。
 政治腐敗の当事者である自民が譲歩しないなら、政治改革を断行する意思がないと受け止められても仕方があるまい。
 21日までの今国会中に結論が得られないのなら、与野党は会期を延長して議論を続けるべきだ。それが政治腐敗に「ノー」を突き付けた民意に応える道である。

企業献金の禁止 説得力欠く首相の反対論(2024年12月15日『西日本新聞』-「社説」)
 
 政治資金規正法の再改正が衆院特別委員会で議論されている。与野党から9本の法案が提出された。
 焦点は企業・団体献金の是非だ。禁止を訴える野党に対し、自民党はここにきて反対姿勢を強めている。
 国会が棚上げを続けた30年来の宿題である。過去に学ばない者は過ちを繰り返すという。これまでの経緯を踏まえて結論を出すべきだ。
 発端は政官財の癒着を露呈したリクルート事件だ。金権腐敗政治を改めるために与野党は1994年、政治家個人への企業・団体献金を禁じ、税金を原資とする政党交付金の導入を決めた。
 政党への献金は5年後に見直すことにしたが、手つかずのまま現在に至る。
 当時の議論に基づき禁止を主張する野党に対し、石破茂首相は「政党交付金を導入する代わりに、企業・団体献金が廃止の方向となった事実はない」と衆院予算委員会で述べた。本当にそうか。
 当時、自民党総裁として細川護熙首相と政治改革をまとめた河野洋平氏は「激変緩和のため、5年後に見直しという条件で企業献金を廃止することで合意できた」と衆院の聞き取りに証言している。
 さらに「公費助成が実現したら企業献金は廃止しなきゃ絶対におかしい」と語っている。これが政界の共通認識ではなかったか。
 石破首相が否定するのであれば、河野氏細川氏を国会に参考人として招致し、直接聞いてみるといい。
 首相は反対の根拠に憲法も持ち出した。「企業も表現の自由は有している」として、企業・団体献金の禁止は表現の自由を保障する憲法21条に「抵触する」と述べた。
 3日後に「違反とまでは申しません」とトーンダウンさせたものの、憲法との関連を議論しなくてはならないと強調している。
 首相発言のよりどころは、企業の政治活動の自由を認めた70年の最高裁判決だ。
 この判決に関し、93年の衆院特別委員会に参考人として出席した元最高裁長官の岡原昌男氏は「自民党の中でルーズに読んで企業献金は差し支えない、なんぼでもいいと解釈しているが、あれは違う」と批判している。
 判決は、巨額の献金が金権腐敗政治を招くとの指摘を踏まえ、弊害に対処する方法は「立法政策」に委ねるとの判断も示した。
 首相の論法は、判決の都合の良い部分だけを引用しているように聞こえる。
 野党が「多額の献金は政策をゆがめる恐れがある」と訴えても、首相はかたくなに否定するばかりだ。
 このやりとりに国民はうなずけるだろうか。11月の共同通信社世論調査では、7割近くが「企業・団体献金を禁止すべきだ」と答えている。
 これ以上の先送りは許されない。与野党は民意に沿って合意形成すべきだ。

政治改革論議 接点を探り法改正につなげよ(2024年12月14日『読売新聞』-「社説」)
 
 政治改革について、各党が全ての項目で合意するのは難しいとしても、対立点を強調するだけで改革が何ら進まない事態は避けねばならない。
 少なくとも一致できる部分は今国会で法改正を実現すべきだ。
 衆院で政治改革の議論が本格化している。与野党が提出した政治資金規正法改正案などの関連法案は、9本にも上る。政治資金の監を行う第三者機関の設置など、共通点も少なくない。
 だが、委員会審議では各党が自らの主張を述べ合うことに終始しており、このままでは収拾がつかなくなる恐れがある。来年の通常国会に、政治資金改革を進展のないまま持ち越したら、政策課題の議論が停滞しかねない。
 焦点となっているのは、企業・団体献金の禁止の是非だ。
 立憲民主党は禁止法案を提出し、自民党に受け入れを迫っているが、自民は「個人献金が善で企業・団体献金が悪、という立場はとらない」と反論している。
 立民は、税金を原資とする政党交付金の創設を決めた30年前、自民も企業・団体献金の禁止を約束したはずだ、と主張している。当時野党の河野洋平自民党総裁が近年、衆院の聞き取り調査でそう述べていることなどが根拠だ。
 しかし、当時の改革の根底には、健全な政治活動を支えるうえでは企業・団体献金と個人献金政党交付金の三つの資金源をバランス良く組み合わせることが望ましい、という考え方があった。
 実際、当時改正された規正法の付則には、施行後の状況を踏まえ「5年後に見直しを行う」とあり、企業・団体献金の上限額などの見直しを示唆しているだけだ。
 立民は、企業・団体献金が政治を 歪 ゆが めているという。だが、それを禁じた場合、政党が大口の個人献金者に依存する事態もありうる。政党が過度に政党交付金に依存するのも適切とはいえまい。
 政党が党幹部らに支給している政策活動費の廃止も、 概 おおむ ね一致している。自民は、廃止する代わりに、個人名を公表しなくても済む新たな支出の枠組みを設けるよう求めている。ただ、政策活動費との違いはわかりにくい。
 自民内では、立民など野党の案をベースとして、自民の主張を付則に加える案も浮上している。
 残り少ない会期内で決着を図ることができなければ、政策活動費の原則廃止や第三者機関の設置などに限って今国会で法制化し、その後、改めて与野党で協議を続ける方法もあるのではないか。

企業のカネは悪いカネ、労組のカネはいいカネなのか(2024年12月14日『産経新聞』-「産経抄」)
 
 衆院政治改革特別委員会の最大の争点である企業・団体献金への立憲民主党の姿勢をみると、前身である民主党時代と変わっていない。立民の提出法案は、企業献金を禁止する一方、政治団体による献金は認めている。要は、労働組合がつくる政治団体からの資金支援は抜け道として残したいのである。
▼少々古くて恐縮だが、小紙は約20年前に山梨県職員組合(山教組)による違法献金問題の追及をした。山梨では輿石東参院副議長の選挙のために校長3万円、教頭2万円、一般教員1万円の半強制的な資金カンパが繰り返されているが、そのカネが何に使われたかどこに消えたか分からないという現場教員の訴えがきっかけだった。
▼教員によると、当時の山教組の組織率は9割以上で、カンパ総額は数千万円から1億円に上るはずだという。ところが、山教組の政治団体政治資金収支報告書の寄付金収入欄には多い年で数百万円しか計上されず、ほとんどの年はゼロとなっていた。
▼それが、小紙が平成16年にこの疑惑を報じると15年分がゼロから1021万円に修正され、16年にはいきなり5142万円に跳ね上がったのである。立民は企業・団体献金を「腐敗や癒着構造の温床となり、政策決定を歪(ゆが)める」と批判するが、労組の政治団体の不透明さとどんぶり勘定は問わないのか。
▼立民は先の通常国会では政治資金パーティー禁止法案を出しておきながら、複数の幹部らがパーティー開催を計画して国民の批判を浴びた。挙げ句、今国会では「政治活動には一定の資金が必要」としてパーティー禁止を政治資金透明化法案に盛り込まなかった。
▼他者を攻撃しては自分に跳ね返る立民のブーメラン芸には、もう飽き飽きである。

企業・団体の献金 自民の不正温床、禁止決断を(2024年12月14日『京都新聞』-「社説」)
 
 自民党のおごりと腐敗ぶりをみせつけた派閥裏金事件の発覚から、1年が過ぎた。
 おざなりな対応で国民の怒りをかい、大敗した衆院選を受けてなお、反省も危機感も見えてこない自民と石破茂首相の言動はどうしたことか。
 政治資金規正法の再改正に向け、国会には各党派から9法案が出されている。自民がしがみつく企業・団体献金を全面禁止し、抜け穴をふさぐ改革へ、石破氏が決断すべき時だ。
 9法案の実質審議が始まった衆院政治改革特別委員会では、企業献金を認めた1970年の最高裁判例を根拠に、自民が「政治活動の自由は憲法上保障されている」とし、企業にも「表現の自由がある」と禁止に抵抗している。
 党本部だけで年23億円を集め、権力の源泉でもあるだけに、上限規制や公開の強化で年内に幕引きを図りたいようだ。
 ただ、野党も指摘するように判例は「公共の福祉に反しない」ことを前提にしている。
 企業から多額の献金を受け取り、事業などを業界の有利に進むように省庁に働きかけるといった不祥事は何度も発覚している。事件化される度に自民の金権体質が問題になり、献金抑制や透明性向上を掲げた法改正を繰り返してきた。
 しかるに「パーティー」で集めた献金を裏金化し、選挙をにらんだ支持者との飲み食いや、秘書増員に充てていたのが昨年来揺るがす事件の構図だ。
 企業・団体献金が政策をゆがめ、公益を損なう負の側面を露呈させ、不正の温床にしたのはほかならぬ自民である。
 憲法を持ち出す以前に、自分たちで作った法律を守らず、抜け穴探しや非課税の政治資金の隠し立てに奔走する党の病巣こそ省みなければならない。
 自民は、党から議員に出す「政治活動費」も廃止といいながら、上限のない「公開方法工夫支出」を設ける案を示す。またぞろ同じ手口ではないか。
 「抑制」や「透明化」では効果を上げなかった以上、企業・団体献金は禁じるほかない。
 1994年に議員個人への企業・団体献金を禁じ、政党向けは5年後に検討する代わりに、公費の政党交付金が導入された。これに石破氏は「廃止の方向になった事実はない」という。
 だが、法改正を実現した当時の河野洋平自民総裁は、衆院事務局の聞き取りに「5年後に見直しという条件で企業献金を廃止することで合意できた」と証言。「公費助成が実現したら、廃止しなければ絶対おかしい」と述べている。「二重取り」への強弁は聞き苦しい。
 立民など4党派の禁止法案には、日本維新の会などが政治団体献金が除外されていると同調していない。少数与党に対し、野党は結束して統一法案を作ってもらいたい。

政治改革審議入り 臨時国会で成立を確実に 企業団体献金の禁止は早計だ(2024年12月13日『産経新聞』-「主張」)
 
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衆院政治改革に関する特別委員会で答弁する自民党小泉進次郎理事(春名中撮影)
 
 政治資金規正法の再改正などに向け、衆院政治改革特別委員会で実質審議が始まった。
 自民党立憲民主党など与野党各党が国会に提出した法案は9本に上り、いずれも提出会派だけでは過半数に届かない。
 パーティー収入不記載事件の再発防止や政治資金の透明性向上のため、与野党は修正協議で合意を形成してほしい。 
 重要なのは実効性のある改革を早期に実施することである。政策の円滑な遂行には、政治への信頼回復が不可欠だ。現在開会中の臨時国会で、必ず成立させなければならない。
立民案は説得力を欠く
 野党の多くが企業・団体献金の禁止を求めている。現状の規制では政治家個人への献金は禁じているが、政治家が代表を務める政党支部に対しては認めている。
 自民は「企業献金が悪で個人献金が善だという立場は取らない」として、容認する方針に変わりはない。これに対し、立民案は企業献金を禁止する一方で、政治団体による献金は認めている。
 このため、日本維新の会や国民民主党は「抜け穴がある」として法案の共同提出に加わらなかった。
 立民は、支持団体の労働組合がつくる政治団体からの献金は受け続けたいのだろう。企業・団体献金に関し「腐敗や癒着構造の温床となり、政策決定を歪(ゆが)める」と主張する一方で、政治団体献金を認めるのは説得力を欠く。
 そもそも企業も業界団体なども社会の構成員で、政治活動の自由は認められるべきだ。
 個人献金が定着していない日本で企業・団体献金を禁じれば、世襲ではない人や、業界団体、宗教団体など大きな組織を背景に持たない人にとって、選挙活動が不利になる弊害が出てくる。企業・団体の幹部が個人として献金する抜け道を閉ざすことも難しい。税金が原資の政党助成金の積み増しは、国民の理解を得られまい。
 企業・団体献金を早計に禁止すれば、普通の国民が国政を目指すことが困難になり、議会制民主主義が後退しかねない。法改正にあたっては、そうした深刻な事態も考えておきたい。この点を、自民ははっきり訴えるべきである。
 規正法は「政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにする」と定めている。企業・団体献金を禁じるよりも、透明性を高め、政治資金の流れを国民の監視下に置くことが本来あるべき姿だ。
 ほかにも論点はある。政党から国会議員に支出される、使途の公開が不要な政策活動費についてである。
 自民案は廃止とし、同時に支出先などを例外的に非公開にできる「公開方法工夫支出」を設けるとした。外交上の秘密や企業の営業秘密に関するものを想定している。第三者機関を設置し、監査することで正当性を担保するという。
対象幅広く監査実施を
 立民は自民案を「新たなブラックボックスを生む」と批判し、維新や国民民主、共産党などと政策活動費を完全に廃止する法案を共同提出した。
 公開することで国益が害されることが懸念される議員外交まで否定するのか。例えば台湾の要人が来日し、日本政府の関係者が面会できない場合、政党が果たす役割は大きい。
 第三者機関をめぐっては、自民案が監査対象を公開方法工夫支出に限定しているのに対し、国民民主と公明党が共同提出した案は、国会議員の政治団体に広げている。この案のように幅広く政治団体を監査対象とし、調査権限を十分に与えた組織にすることが肝要ではないか。
 外国人と外国法人のパーティー券購入禁止は自民も立民も盛り込んでいる。国政が外国勢力からの影響を防ぐために禁止は欠かせない。これは日本の主権を守ることにほかならない。
 パーティー券の代金はパーティーへの参加の対価という位置づけだが、実際は政治活動への事実上の経済支援となっている。外国人、外国法人の政治献金が禁じられている一方で、パーティー券購入は認められているのはおかしい。パーティー券購入に、外国人への参政権付与などの政治的動機があっても不思議ではない。
 ただ、両党の案には違いがある。立民案には罰則を設けているのに対し、自民案にはそれがない。罰則を設けて実効性を持たせるべきだ。

政治改革論議 透明性高める熟議重ねよ(2024年12月12日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 「政治とカネ」の問題を繰り返さないための改革でなくてはならない。腐敗の温床となる「抜け穴」を残さず、透明性を高める仕組みの構築へ熟議を求めたい。
 国会で自民党派閥裏金事件を受けた政治資金規正法の再改正を巡る法案の論議が本格化し、政治改革特別委員会で与野党が法案について意見を表明している。
 石破茂首相は臨時国会中の法案成立を目指すとしているが、主要論点で各党の立場に隔たりがあり、合意を得るのは容易ではない。与野党の中で「延長不可避だ」との声も上がり、成立するかどうか、見通せない。
 政党から幹部に渡し切りで、使途公開不要な政策活動費は、廃止の方向で与野党が一致する。
 自民の法案には廃止と併せて使途を非公開にできる「公開方法工夫支出」新設が盛られている。
 外交上の秘密や企業の営業秘密、有識者のプライバシーを害する恐れがある場合など限定的な支出を念頭に置いているという。
 首相は11日の衆院予算委員会で、工夫支出の領収書は公開せず、支出の上限額もないと述べた。
 しかし、例外を設ければ、使途不明なカネが残る可能性があり、廃止との整合性が問われる。
 党内からも「透明化の観点で理解は得られない」との意見があった。野党が「政策活動費を差し替えて温存するだけだ」などと批判するのは当然だ。
 支出をチェックするための第三者機関も論点になる。
 自民の法案は、「政治資金委員会」を設けて、非公開支出を監査し、結果を公表する仕組みだ。
 公明党は国民民主党と、「政治資金監視委員会」を置く法案を共同提出した。対象を非公開支出ではなく、国会議員の政治団体の収支全般としている点が自民案と違う。調査や是正を求める権限も与える方向だ。
 与党の公明が、自民抜きで野党と法案を共同提出するのは異例だ。自民案では踏み込み不足ということだろう。
 焦点となる企業・団体献金を巡っても、各党の主張には大きな開きがある。
 自民は存続の立場を堅持している。首相は「献金で政策がゆがめられたとの記憶はない」と述べ、強気な姿勢だ。
 立憲民主党は会社や労働組合による寄付と政治資金パーティー券購入の禁止を求める一方、企業が自由意思で結成した政治団体の寄付までは禁じていない。
 国民民主や日本維新の会は、立民案が禁止対象から政治団体を除いている点を「抜け穴がある」とし、共同提出に加わらなかった。共産党は全面禁止を訴える。
 政治への信頼を取り戻すにはどうあるべきか。有権者の目線に立ち、国会は抜本的な政治改革に取り組まねばな

規正法再改正 抜け穴残さぬ根本改革を(2024年12月11日『北海道新聞』-「社説」)
 
 衆院の政治改革特別委員会が開かれ、政治資金規正法の再改正に向けた議論が始まった。
 与野党がさまざまな法案を提出している。今の制度のどこが問題で、それを改めるにはどうしたら良いのか、しっかり話し合い、合意形成を図るべきだ。
 自民党案は改革の本丸である企業・団体献金の扱いを盛り込んでいないばかりか、使途公開義務がない政策活動費の廃止にも例外規定を設けた。またしても抜け穴が残る内容だ。
 野党は政策活動費の全廃や、企業・団体献金の禁止の法案を提出した。抜本改革をこれ以上先送りしないためにも野党案を軸にまとめるのが筋である。
 年内は審議日程があまり残されていない。裏金の実態解明も停滞したままだ。中途半端な形で拙速に収めようとせず、熟議を徹底しなければならない。
 きのうの特別委で自民党議員は政策活動費の廃止を含む自民党案について「国民の疑念、不信感に真正面から応えた」と訴えた。だが非公開支出を一部認めたのは極めて分かりにくい。
 しかも「要配慮支出」としていたその名称を「公開方法工夫支出」に改めたのも解せない。見せかけだけの取り繕いは国民を軽んじる対応だ。
 ブラックボックスを残せば、その枠組みは際限なく広がる恐れがある。第三者機関に非公開の妥当性を判断してもらうと言っても、それが厳正な審査だったか国民は検証しようがない。
 何より問題なのは、自民党の言う「外交上の秘密」や「企業の営業の秘密」が具体的にどのようなものを指すのか、はっきりしないことだ。
 政治活動を「国民の不断の監視と批判の下」に置くのが政治資金規正法の主眼である。不透明な例外は残すべきではない。
 企業・団体献金の禁止について石破茂首相はきのうの衆院予算委員会憲法21条が定める表現の自由に抵触すると述べた。
 企業の政治活動の自由を認めた1970年の最高裁判決も、金権腐敗の弊害を「立法政策」で制限することは可能との見解を示している。「抵触」は言いすぎではないか。
 先日の予算委では94年の政治改革で「企業・団体献金がなくなるとの意識を持った者は自民党にはいない」とも語った。しかし当時自民党総裁だった河野洋平氏は「廃止することで合意できた」と証言している。歴史のすり替えは許されない。
 企業・団体献金の禁止は30年来の宿題である。これを外した法改正は改革の名に到底値しないことを肝に銘じるべきだ。

政策活動費の廃止 自民案では抜け穴塞げぬ(2024年12月11日『毎日新聞』-「社説」)
 
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政治資金規正法改正案などを衆院に提出する自民党政治改革本部の渡海紀三朗本部長(左端)ら=国会内で2024年12月9日午後4時6分、平田明浩撮影
 不透明な政策活動費をなくすと言いながら、新たなブラックボックスを作る。それでは根深い政治不信を払拭(ふっしょく)できない。
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政策活動費禁止法案を衆院の築山信彦事務総長(左から5人目)に提出する立憲民主党大串博志政治改革推進本部長(同4人目)ら野党各党の代表者=国会内で2024年12月4日午後4時32分、平田明浩撮影
 政治資金規正法の再改正など、与野党の改革関連法案が出そろった。政党などから政治家個人に渡され、使途公開の義務がなかった政策活動費を廃止する方向では一致している。
 だが、自民案には問題が多い。
 国の安全や外交上の秘密、企業などの秘密、プライバシーなどを害する恐れがある場合は特別扱いとし、支出先などの詳細を非公開にできる。
 当初は「要配慮支出」と呼んでいたが、提出直前になって名称を「公開方法工夫支出」に変えた。隠す意図はないとアピールする狙いだろうが、内容は同じだ。
 対象となる支出の要件が曖昧で、「企業秘密」などが拡大解釈されれば、非公開となる支出に歯止めがかからなくなる恐れがある。不透明なカネを作り出す「抜け穴」になりかねない。
 自民は、新設する第三者機関のチェックを受け、監査報告書を公表することで透明性が担保されるとしている。しかし、非公開となることによって、政活費の使途を10年後に公開すると定めた改正規正法から、かえって後退する。
 規正法の目的は、カネの流れを国民の監視下に置き、政治の透明性や公正さを確保することだ。非公開の支出はなくさなければならない。
 企業・団体献金の扱いに触れていないことも見過ごせない。石破茂首相は衆院予算委員会で、禁止は「表現の自由を定めた憲法21条に抵触する」との見解を示したが、強弁と言うほかない。
 政策のゆがみにつながるとの懸念が、長年指摘されており、全面的に禁止すべきだ。
 自民、公明両党が衆院選で惨敗したのは、通常国会での法改正が不十分な内容にとどまったことへの批判が高まったためだ。
 少数与党となっている状況を踏まえ、首相には野党の意見に耳を傾け、法案修正などで柔軟な対応を取ることが求められる。
 「政治とカネ」の問題は政活費だけでなく多岐にわたる。抜本改革を急ぎ、国民の期待に応えなければならない。

政治資金規正法再改正 企業献金禁止議論尽くせ(2024年12月11日『琉球新報』-「社説」)
 
 自民党派閥裏金事件を受けた各党の政治改革法案が出そろい、「政治とカネ」問題の国会論戦が本格化する。特に企業・団体献金を巡る与野党の溝は大きく、臨時国会の21日までの会期で決着するのは困難だろう。そもそも、裏金事件の全容が解明されていない。通常国会へ継続審議とし、国民が納得するまで熟議を徹底すべきだ。
 一番の論点は、政治資金パーティー券購入を含む企業・団体献金の禁止である。自民はあくまでも阻止する構えだ。
 リクルート事件などを受けた1994年の政治資金規正法改正で、政治家個人への献金を禁じ、代わりに税金を原資とする政党交付金制度が導入された。企業・団体の政党への献金は5年後に見直すことになっていた。献金は見返りを求めるものであり、政策がゆがめられるからだ。しかし、99年の改正では、自民の意向をくむ形で、政治家が代表を務める党支部や党本部への献金が温存され、政党交付金献金の「二重取り」状態が続いている。
 国会議員が関係する政党支部政治資金収支報告書の2023年分集計で企業・団体献金は総額18億9513万円で、そのうち自民が17億8437万円と突出していた。これとは別に自民党本部は、党の献金の受け皿となっている「国民政治協会」から23億2500万円の寄付を受けており、これは党本部収入の約10%を占めている。献金への依存度が飛び抜けて高い。
 自民党は1970年の「憲法上、公共の福祉に反しない限り、会社といえども政治資金の寄付の自由を有する」という最高裁判決を持ち出し、献金を正当化するが、曲解と言うべきだ。この判決では、弊害を防ぐ対策を「立法政策を待つべきだ」と政治に責任を負わせた。この判決の後にリクルート事件などが続発し、94年、99年の法改正がなされた経緯がある。50年前に最高裁が突き付けているのは、今回の裏金事件を受けての「立法政策」なのである。
 今国会では派閥裏金事件に関係する政治倫理審査会(政倫審)が開かれる見通しだ。多くが非公開を希望している。非公開では議事録も非公開となり、国民への説明にはならない。
 ただ、衆院選前の政倫審でも、裏金が始まった経緯など、核心部分は全く明らかにならなかった。首相は再調査も否定している。公開で政倫審を行うのは当然で、さらに党として事実解明をしなければ国民は納得しない。
 この国会中も、自民党から政治資金収支報告書の記載漏れなどが次々と発覚している。「政治とカネ」を争点にした衆院選で惨敗したのに、反省がうかがえない。一方の野党も足並みがそろっていない。30年来の「政治とカネ」問題を解決する機会である。与野党ともに責任を果たし、来夏の参院選で国民の審判を受けてほしい。

企業団体献金の禁止 あきれた首相の消極姿勢(2024年12月6日『毎日新聞』-「社説」)
 
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衆院予算委員会で答弁する石破茂首相=国会内で5日午後3時55分、平田明浩撮影
 自民党派閥の裏金問題で失われた国民の信頼を取り戻す覚悟はあるのか。石破茂首相の姿勢に疑念が拭えない。
 自民が衆院選で大敗した後、国会で初めて予算委員会が開かれた。焦点は政治資金規正法の扱いである。
 立憲民主党野田佳彦代表は、「平成の政治改革」に立ち返って、企業・団体献金の禁止を求めた。改革では国民の税金を原資とする政党交付金を導入し、企業・団体献金を禁止することになった。
 1994年に政治家個人向けが禁じられた。政党向けは5年後に検討されることになっていたが棚上げされたままで、政党交付金との「二重取り」が続いている。
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衆院予算委員会立憲民主党野田佳彦代表(左)の質問に答弁する石破茂首相(右)=国会内で5日午前10時29分、平田明浩撮影
 にもかかわらず、首相は「政党交付金を導入する代わりに、企業・団体献金が廃止の方向となった事実はない」と強弁した。
 さらに、「政党が過度に公的な資金に依存するのは正しいのだろうか」とも述べ、民間団体からの献金を正当化しようとした。
 政治資金収支報告書で公開すれば透明性を確保できるとも説明するが、資金力のある企業や団体の意向によって、政策がゆがめられる懸念は消えていない。
 改革に後ろ向きな対応は、これにとどまらない。
 政党から政治家個人に支出され、使途公開の義務がない「政策活動費」についても踏み込み不足だ。自民案は廃止をうたいつつ、外交上の秘密など配慮が必要とされる費用を「要配慮支出」として認めている。事実上、不透明な資金の枠組みが温存されかねない。
 政治とカネの問題を巡り、衆院過半数を占める勢力がない「宙づり国会」で、野党が結集する動きもある。立憲、日本維新の会、国民民主など野党7党は政活費を全面廃止する法案を提出した。
 注目されるのは、国民民主の動向だ。少数与党である自公政権と政策ごとに協力する「部分連合」の協議を進めている。キャスチングボートを握る立場を生かし、企業・団体献金の禁止でも影響力を発揮すべきだ。
 政治資金規正法の抜本改革は衆院選で示された民意だ。先送りは許されない。与野党は今国会で、国民の納得が得られる結論を出さなければならない。

伯仲国会の野党 連携して政治改革迫れ(2024年12月4日『京都新聞』-「社説」)
 
 国民の審判による与野党の伯仲状況で、民意を映す熟議の国会を取り戻せるか。野党の責任はいっそう重いといえよう。
 臨時国会衆院選後、初の与野党論戦が本格化した。
 衆参の代表質問では、大幅議席増となった立憲民主党野田佳彦代表らが、自民党裏金事件を受けた抜本的な政治改革を迫った。
 野田氏は「企業・団体献金の禁止が改革の本丸だ。なぜ議論の俎上(そじょう)に載せようとしないのか」と訴え、所信表明演説で触れなかった石破茂首相を批判した。
 「不適切と考えていない」とかわす石破氏だが、金権腐敗の温床だと日本維新の会共産党なども禁止を訴えた。先月の共同通信世論調査でも約7割が禁止を支持している。これを追い風に、立民は政治資金規正法を再改正する法案の野党共同提出を目指す。
 ただ、立民が呼びかけた法案協議に国民民主党は出席せず、野党の足並みはそろっていない。
 国民民主は野党第3党に躍進して多数派形成の鍵を握る形となり、「年収103万円の壁」の見直しなど与党との政策協議を優先する姿勢にみえる。石破氏は政治改革でも国民民主を取り込もうと秋波を送っている。
 だが少数与党となった自民を後押しし「補完勢力」に陥るなら、たちまち有権者に見放されよう。
 野党第1党の立民は、党利党略を排した「抜け穴のない抜本改革」で野党結集の軸となり、対峙(たいじ)していく役割が求められる。
 立民は、歳出13兆円超の政府補正予算案にも緊急でない支出が多いとし、7兆円規模に減額を求めた。借金頼みで膨張した財政を見直す姿勢は認めたい。委員長を担う予算委員会でも中身をしっかりと吟味してほしい。
 野党第2党の維新は、存在意義が問われていよう。衆院選議席減で馬場伸幸代表が引責辞任し、代表選で吉村洋文大阪府知事が圧勝した。知名度の高い「エース」に立て直しを託したといえる。
 吉村氏は、政権への対決姿勢を強めて存在感の発揮を掲げた。
 馬場氏は「第2自民党でいい」と公言し、通常国会で欠陥だらけの与党の規正法改正に手を貸した姿勢が支持離れを招いたのは否めない。
 共同代表に京都選出の前原誠司衆院議員を選んだ。閣僚や党首の経験への期待だろうが、10月に合流したばかりで国会議員を主導できるのか。立民や国民民主との連携を含め立ち位置が問われよう。

ふてほど(2024年12月4日『高知新聞』-「社説」)
 
 ことしの新語・流行語大賞の年間大賞は「ふてほど」になった。略されるとなじみがないが、宮藤官九郎さん脚本のドラマ「不適切にもほどがある!」のこと。昭和と令和の価値観のギャップを描き、評判を呼んだ。
 そういえば、「不適切」という言葉は政界でも不祥事の釈明によく使われる。これに作家、評論家の塩田丸男さんが著書「マユツバ語大辞典」で異を唱えている。辞書では「適切」はぴったりあてはまること。逆にいうと、「不適切」はぴったりあてはまらないことぐらいの意味になる。
 執筆当時には、架空の事務所に経費を計上した閣僚の疑惑、辞任劇があった。ふさわしい形容は「不正」だと塩田さん。「『不適切』などという生ぬるい表現は犯罪の悪質さをぼやかそうとするもの」
 自民党の裏金事件が表面化して1年が過ぎた。党がことし1月にまとめた中間報告にも「不適切な会計処理」の文字が見える。ところが事態は首相交代、衆院選の大敗へ。「不正」と憤る世間と意識のずれは大きかったか。
 いまの国会は企業・団体献金のあり方が焦点になっている。そもそもリクルート事件に端を発した政治改革で禁止を目指したはず。代わりに導入した政党交付金と二重取りの批判もある。だが、石破首相は「不適切だと考えていない」。
 この1年、いや昭和から持ち越してきた宿題だろう。「政治とカネ」の浄化。時間がかかるにもほどがある。

旧文通費改革 使える費目を明確にせよ(2024年12月3日『山陽新聞』-「社説」)
 
 問題点をいつまでもたなざらしにせず、国民の納得が得られる結論を導き出さなければならない。
 国会議員に1人月額100万円支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)である。先月、衆参両院にそれぞれ与野党各会派による協議会が発足し、改革の議論が動き出した。
 旧文通費は、給与に当たる歳費とは別に支給される手当で、2021年秋に衆院選で当選した新人議員らに在職1日で1カ月分が満額支給されたことが問題になった。与野党は見直しに着手し、翌22年に法改正で日割り支給に改めたが、使い道を公開する必要がなく、未使用分を国庫に返納しなくてもいい状況は今も変わらない。
 国会議員の「第2の財布」と呼ばれ、不透明さが指摘されながら、問題解消の先送りが続いている。先の通常国会では、自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法改正と絡め、使途公開と未使用分の国庫返納を義務付ける法整備で自民と日本維新の会がいったん合意した。しかし、自民が「日程的に厳しい」として会期中の実現に難色を示し、維新が反発した。
 10月の衆院選公約で、自民を含む与野党の多くが使途公開や残金の国庫返納を掲げるなど方向性は一致している。速やかに中身の議論を行い、実行に移すべきだ。さもなくば、裏金事件で高まった「政治とカネ」の問題に対する国民の政治不信は募るばかりである。
 衆院の協議会は初会合で、年内の法改正に向けて意見集約を目指すことを確認した。参院側も、先行する衆院と同様に、使途公開や残額返納の在り方を議論する方針を申し合わせた。自民、公明両党の幹事長は開会中の臨時国会で法改正を目指す考えで合意している。改革に向けた本気度が問われよう。
 使途公開を巡ってはインターネット上での公開の是非に加え、領収書を全面的に公開するか、支出目的にとどめるかで意見が割れることも想定される。だが01年に衆院議長の私的諮問機関「衆院改革に関する調査会」が、領収書などを付した使途報告書の提出を義務付けるよう答申している。全ての支出の領収書を公開し、説明責任を果たすのが本来の姿と言えよう。
 そもそも旧文通費は日割り支給への変更に合わせて名称を変えた際、支給目的も従来の「公の書類発送や通信」から「国政に関する調査研究など」に変更している。使途を幅広くした格好だが、秘書給与や事務所費に充てるといった「本来の趣旨から逸脱した使い方だ」と指摘する元衆院議員もいる。名称変更で使い勝手を良くしただけだと批判されても仕方あるまい。
 使途の公開、未使用分の国庫返納と合わせ、使える費目の明確化が欠かせない。原資は税金であり、中途半端な改革は許されない。

政治改革協議 言論の府、復権の試金石(2024年11月27日『東京新聞』-「社説」)
 
 28日の臨時国会召集を控え、与野党政治資金規正法改正に向けた協議の初会合を国会内で開いた=写真。最大論点は自民党派閥の裏金事件で批判が高まった「政治とカネ」の問題を巡り、実効性ある改革を実現できるか否かだ。
 形骸化が指摘されてきた国会が「言論の府」として復権できるかどうかを占う試金石ともなる。
 初会合では、使途公開が不要とされる政策活動費を巡り、自民党が廃止に応じる方針を表明し、与野党の足並みがそろった。
 自民党はプライバシーや外交上の秘密に関わる支出は非公開とする案も示したが、資金の透明化を求める民意に反する。不透明な資金の隠れみのになりかねない例外は認めるべきではない。
 与野党間で隔たりが大きいのは金権腐敗の温床と指摘される企業・団体献金の存廃。立憲民主党をはじめ多くの野党が禁止を求めているのに対し、明確に存続を主張しているのは自民党だけだ。
 30年前の「平成の政治改革」では税金による政党交付金の導入に伴い、企業・団体献金の廃止を決めたはずだ。自民党はその経緯を忘れたのか。裏金事件の背景に、企業・団体による政治資金パーティー券の購入があったことも直視すべきである。
 国会議員に毎月100万円支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開も与野党協議が別途進んでいる。3年前から議論が続く課題であり、もはや先送りは許されない。
 10月の衆院選での自民、公明両党の惨敗を受け、予算案をはじめあらゆる政治課題を審議する衆院予算委員会の委員長には立憲民主党安住淳氏が就いた。与野党伯仲を象徴する光景でもある。
 石破茂首相は、与党だけでは法案も予算案も成立させられない少数与党であることを自覚し、野党の意見も大胆に取り入れ、幅広い合意の下に政権・国会運営を進める度量を見せるべきだ。
 野党側にも建設的な提案や議論を通じ、国民にとってよりよい政策の実現に努める責任がある。それが衆院選与野党伯仲を望んだ民意に応える道にほかならない。

【政治資金】疑念持たれる余地なくせ(2024年11月27日『高知新聞』-「社説」)
 
 先の衆院選有権者が示した最大のメッセージは、政治改革や「政治とカネ」問題をなおざりにするなということだった。その民意に速やかに応え、政治の信頼回復への第一歩にしなければならない。
 自民党の派閥裏金事件を受けた政治資金規正法の再改正に向けて、初の与野党協議が行われた。各党の主張が出そろう中、踏み込み度合いでは自民の甘さが浮かび上がった。世論が求めるのは、政治資金に関して疑念を抱かれる余地をなくす抜本改革だ。自民の姿勢が問われる。
 6月に成立した改正政治資金規正法は、抜け穴や検討を先送りした項目が多く、不十分な内容だった。衆院選で敗れた石破茂首相が「政治改革に率先して取り組む」とした中でまとまった自民案は、党から幹部に渡る使途公開不要な政策活動費の廃止や、監査機能を強化する第三者機関の設置を柱とした。
 政活費廃止は衆院選前は明言しておらず、ようやく腰を上げた格好になる。ただ、6月の規正法改正時は温存にこだわり、9月の自民総裁選になると一部候補が廃止を訴えるという首をかしげる対応をたどった。結局、実態や必要性は分からないままだ。説明が求められる。
 また、外交や企業の営業秘密に配慮し、使途非公表の支出も残すとした。もしそうするのなら恣意(しい)的な運用を防ぐ対策が不可欠で、第三者機関の在り方にも直結する。
 最大の焦点は、企業・団体献金の扱いになる。立憲民主党日本維新の会共産党などは禁止を掲げるが、自民は容認する方針を示す。
 企業・団体献金は、1990年代の政治改革で税金が原資の政党交付金が導入されたのを機に、5年後に見直すとされた。理由は、不正の温床になったり、政策がゆがめられたりする恐れがあるからにほかならず、そのリスクは今も残る。
 しかし、見直しは棚上げされたままで、実質的な企業・団体献金ともされる政治資金パーティーも含めて、政党交付金と「二重取り」との批判が続いている。
 自民は「企業の政治活動の自由」を掲げ、「民主主義のコストを誰が負担するのが正しいのかということに帰着する」とするが、必要性を訴えるのなら、野党や国民が納得できる具体的な使途や透明性を高める方策を示さねばならない。それができないのなら禁止するべきだ。
 自公の少数与党状態で政治改革議論を仕切り直す形になった今回は、合意形成過程も焦点になる。
 「公開・熟議」を求める立憲民主などに対し、与党は今回、公開での協議の場を設けた。臨時国会では政治改革特別委員会の場で、年内決着を目指して議論を積み上げる。透明性が確保された点は評価できる。政治改革は全政党に関わるテーマだけに、幅広い合意が望ましい。
 国会議員に月額100万円支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開なども長く放置されてきた課題だ。速やかに対応しなければならない。

だめです(2024年11月27日『高知新聞』-「小社会」)
 
 数々の名作を残した映画界の巨匠、溝口健二監督は完全主義者だったことで知られる。脚本からセット、俳優の演技。イメージ通りでなければ「だめです」の一言だったという。
 昨年1月の「文芸春秋」に、映画評論家でタレントの浜村淳さんが回想を寄せている。溝口と組んだ脚本家の話。「何度脚本を書き直しても『だめです』と言われるんです。最高で200回くらい書き直したことがあります」
 名優が熱演しても「カット! だめです。もう一度」。理由も分からず、やり直しが続く。名優は「監督、どこがだめなんですか。言ってくださいよ」。いまの時代には合わないだろうが、罵倒し、奮起させ、余すところなく力を出させるやり方だったとも評される。
 自民党派閥の裏金事件を受け、与野党政治資金規正法の再改正を含む協議に入った。抜け穴だらけになった6月の法改正。衆院選の与党大敗をみても、岸田前首相の政治改革は有権者に「だめです」と言われたようなものだろう。
 「もう一度」の協議だが、このところ地方選挙で気になる流れがある。兵庫の知事選、名古屋市長選は与野党が応援、あるいは相乗りした候補が敗れた。交流サイト(SNS)の影響とともに、既成政党がまとめて不信感を抱かれている面もありはしないか。
 首相が代わり、与野党が均衡しての改革論議になる。そろそろ国民が「カット! OK」と思える改革にしないと。

不信払拭へ本丸切り込め/政治資金規正法の再改正(2024年11月26日『東奥日報』-「時論」/『茨城新聞佐賀新聞』-「論説」)
 
 自民党政治資金規正法の再改正に向けた基本方針をまとめた。党本部から議員個人に支給される政策活動費の廃止、政治資金の監査機能を強化する第三者機関の設置などを打ち出した。しかし国民民主党以外の野党が「本丸」と位置付ける企業・団体献金の禁止には踏み込まなかった。
 政治とカネの問題の抜本改革なくして、信頼回復は困難だ。その場しのぎの対応は通用せず、与党の覚悟が問われる。
 「平成の政治改革」では、税金から政党への交付金制度を創設する代わりに、企業・団体献金の在り方を見直すと決めたはずだ。だが、政治家個人の資金管理団体に対して禁止しただけで、「二重取り」の状況が続く。
 野党は「腐敗の温床」と主張、与党は「悪ではない」と反論するが、衆院選惨敗を招いた不信を払拭するには、政治改革の原点に立ち本丸に切り込む時ではないのか。企業・団体献金の全面禁止が望ましく、国民民主を含む野党が共闘すれば実現する可能性はある。ただ、すぐに禁止できないならば、最低限の対応として、政治家個人の事実上の財布となっている政党支部宛ての企業献金をきっぱりやめるべきだ。
 資金集めパーティーも、企業・団体献金の隠れみのという実態を踏まえれば、企業などのパーティー券購入を禁じる措置が必要だ。いずれも個人への企業献金を封じた精神にも合致する。石破茂首相は「わが党が議論をリードすることが肝要だ」と語るが、自民が決断すれば前に進む。
 使途が不明朗だった億単位の政策活動費の廃止は当然だ。むしろ、煮え切らない態度に終始してきた首相らの認識の甘さが批判されても仕方ない。ただ、外交や企業の営業秘密など公表内容に配慮が必要なケースでは、非公表を容認している点は、新たなブラックボックス化につながらないか、論議の焦点となる。
 第三者機関の設置は与野党とも異存はないはずだ。独立性や中立性を確保し、国民の期待に応える組織にするために、権限や役割について十二分に協議してもらいたい。政治資金収支報告書のデータベース化も、入りと出をチェック、政治家の「名寄せ」をしやすくするために早急に進めたい。個人が保有する関係政治団体の数の制限も、カネの流れを透明化する上で検討の余地があるのではないか。世襲した政治家が先代の政治資金を非課税で継承する制度の是非も重要な論点だろう。
 規正法の再改正で事足りるわけではない。忘れてはならないのは、巨額裏金事件の真相解明、資金還流を受けた議員の説明責任である。選挙でみそぎが済んだと幕引きするのはもってのほかだ。
 そもそも、改正後わずか半年で異例の再改正に追い込まれたのは、先送りと抜け道だらけの“欠陥法”だったからだ。中途半端な法律を数の力で成立させた振る舞いを与党は真摯(しんし)に反省するべきだ。
 少数与党となった以上、野党の協力がなければ法案は成立しない。政治改革を巡る法整備は、政治活動のベースを決めると言ってもいい。「103万円の壁」のような政党間の事前協議ではなく、それぞれが再改正案を提出し、国会の公開の場で堂々と論議しながら幅広い合意を取り付けることが不可欠だ。与野党伯仲時代の新しい姿を示す試金石となる。

規正法再改正 企業献金の禁止、今度こそ(2024年11月26日『河北新報』-「社説」) 

 政党に寄付をしたり、パーティー券を買ったりできない人の声も公平に反映される政治になっているのか。「政治とカネ」を巡る不信の根源にあるのは、こうした疑問に他ならない。
 自民党は「企業献金が悪で個人献金が善という立場は取らない」(小泉進次郎・党政治改革本部事務局長)と強調するが、それは「もらう側の論理」というものだろう。本質的には「カネに色は付いていない」といった程度の理屈と変わらないのではないか。
 国民の多くが批判的にみている企業・団体献金に踏み込めぬようでは、信頼回復など望むべくもあるまい。
 28日召集の臨時国会を前に自民が先週、政治資金規正法再改正に向けた基本方針をまとめた。
 使途の公開義務がない政策活動費を廃止し、政治資金を監査する第三者機関を設置するというが、いずれも先の改正で議論された課題への対応で、全く新味はない。
 政策活動費については外交や企業の秘密など「配慮が必要」と判断されれば、使途を非公表にする余地を残す。
 第三者機関の設置も「国会内を基本」としつつ、行政に置くことも視野に検討するとしており、強い権限と独立性を求める公明党案に比べても腰の引けた内容となった。
 最大の焦点となる企業・団体献金の禁止については言及さえしていない。これでは、またも小手先の改革案でお茶を濁そうとしているとしか受け取れない。
 石破茂首相は、企業の政治活動の自由を認めた1970年の最高裁判決を根拠に「企業にも寄付の自由がある」と主張するが、この判決はそれほど単純な内容ではないことを忘れてもらっては困る。
 判決は一方で「企業による巨額寄付は金権政治を生む」との懸念を踏まえ、そうした弊害への対処については「立法政策を待つ」として、国会にボールを投げている。
 今回の再改正で企業・団体献金を禁止したとしても、憲法判例に反することには決してならない。
 リクルート事件などへの反省を踏まえた「平成の政治改革」では、企業・団体献金を禁止する方向を決めた代わりに政党交付金を導入した経緯がある。禁止を棚上げし、交付金と合わせて受け取っている現状は「二重取り」との批判を免れない。
 共同通信の今月中旬の世論調査でも「禁止すべきだ」との回答は67・3%に上り、「禁止の必要はない」(26・2%)を大きく上回った。
 少数与党となった自民は支持基盤の民間労組による献金を期待できる国民民主の事情にも着目し、同党の協力を得て再改正を乗り切る構えだ。
 国民が求める金のかからぬ政治の実現を目指すなら、国民民主も他の野党と足並みをそろえ、この問題に決着を付けるべきだろう。

政治資金規正法 再改正で透明性が高まるのか(2024年11月26日『読売新聞』-「社説」)
 
 政治資金の透明性を高めることは大切だが、この問題ばかりに時間を割くわけにはいかない。
 与野党の協議で早期に一致点を見いだして決着を図り、28日から始まる臨時国会では、国政の課題について論戦を深めるべきだ。
 政治資金規正法の改正に向けて、自民党が改革案をまとめた。柱は、政党が国会議員に支出している政策活動費の廃止だ。
 政策活動費は使途を公開する必要がなく、自民は、選挙のてこ入れや海外の要人との会食などに年間10億円前後を使ってきた。
 廃止といっても、資金の支出先を議員個人ではなく、主に政党支部に変更するだけで、支出自体をなくすわけではない。支部長は議員であり、支部への支出は事実上、議員への支出とも言える。
 自民はこの支出を、新設する第三者機関の監査の対象とすることで、透明性を確保する方針だ。
 ただ、それなら政策活動費をそのまま維持し、第三者機関の監査を受ければ済むのではないか。改革案は、野党の批判をかわすための 弥縫 びほう 策のように映る。
 立憲民主党日本維新の会などもこれまで政策活動費を使ってきた。自民は改革に消極的だ、と主張する資格が野党にあるのか。
 改革案はまた、外国人や外国法人による政治資金パーティー券の購入禁止を明記した。政治献金と同様にパーティー券を扱うことは妥当と言えるが、実効性をどう保つかは課題となる。
 近く始まる与野党協議で最大の焦点になるのが、企業・団体献金を禁止するかどうかだ。
 立民や維新などは「腐敗の温床だ」として企業や業界団体などからの献金の禁止を掲げている。自民は「個人献金は善、企業・団体献金は悪という立場はとらない」として維持を主張している。
 ただ、立民も、団体献金のうち、政治団体が行う献金については容認する方針だ。労働組合が設立した政治団体から献金を受け続けることを想定しているようだが、ご都合主義が過ぎる。
 仮に企業・団体献金を禁止した場合、その役員らが個人として献金することまで規制するかどうか、といった論点は残る。
 浄財を集める手段を狭めれば、世襲議員や資産家のような人物しか政治を志せなくなるのではないか。それが妥当とは言えまい。
 政治資金規正法は6月に改正されたばかりだ。立法府がいつまでも自らの資金のあり方を議論しているようでは困る。

規正法の再改正 自民は改革案を練り直せ(2024年11月25日『西日本新聞』-「社説」)
 
 衆院選の大敗は薬になっていないのか。国民の批判を浴びた政治資金問題で抜本的な改革ができないようでは、信頼回復は望めない。
 28日に召集される臨時国会を前に、自民党政治資金規正法の再改正について基本方針をまとめた。
 積み残された検討課題をまとめたに過ぎず、全く新味がない。この期に及んでも、小手先の対応で済ませる姿勢に見える。
 使途の公開義務がない政策活動費は、ようやく廃止を明確にした。政治資金の支出を監査する第三者機関の設置は既定路線だ。
 規正法の再改正で焦点となる企業・団体献金の禁止には触れなかった。党内であまり議論にならなかったようだ。不可解でならない。
 企業・団体献金の禁止は、30年にわたって先送りされている課題だ。
 政財界の癒着がリクルート事件などを引き起こした反省から、1994年の政治改革で企業や団体が政治家個人に献金することが禁止された。新たに導入されたのが、税金を原資とする政党交付金制度である。
 政党への企業・団体献金は5年後に見直すことにしていたが棚上げされ、政党は企業・団体献金と国民が負担する政党交付金の「二重取り」を続けている。
 今こそこの問題に決着をつける時なのに、自民は相変わらず後ろ向きだ。
 石破茂首相は、企業の政治活動の自由を認めた70年の最高裁判決を引き合いに「企業・団体も寄付は禁じられていない」と主張する。
 判決が、巨額の献金による政治の金権腐敗の弊害を立法政策で対応すべきだと指摘したことにも着目したい。
 たとえ合法であっても、企業・団体が献金の見返りを求めれば、政策がゆがめられる恐れがある。
 野党の立憲民主党日本維新の会共産党などは禁止を訴えている。与党の公明党を含め、与野党協議で足並みそろえて自民に禁止を迫ってもらいたい。
 そもそも、自民の派閥裏金事件に端を発した政治資金改革だ。自民が反省しているなら、事件の実態を解明し、厳しい改革案を示すのが筋だ。
 与党主導で6月の通常国会で成立した改正政治資金規正法は「抜け穴」が多く、資金の透明性を十分に高められなかった。この対応が少数与党に転落した要因であることを忘れていないか。
 自民の基本方針は、外交上の秘密や企業の営業秘密などを例に、党の支出を一部非公表とする余地を残した。
 第三者機関の監査で正当性を担保すると説明しても、不透明なカネを温存することになりかねない。
 裏金の発覚からはや1年になる。政治資金の改革をこれ以上長引かせてはならない。自民は基本方針を練り直して臨時国会に臨むべきだ。

規正法の再改定 国会の場で議論を深めよ(2024年11月24日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 国会の場で与野党が「政治とカネ」について真正面から論じ合わなければ、政治の信頼は取り戻せない。
 派閥裏金事件を受けた衆院選で惨敗した自民党が、政治資金規正法の再改定に向けた基本方針を政治改革本部の全体会合で決めた。
 党から幹部に支給され使途が不明確な政策活動費の廃止や、監査機能を強化する第三者機関の設置を柱にしている。
 立憲民主党など主要野党が主張する企業・団体献金の禁止は盛り込まず、裏金事件の真相解明についても言及していない。会合では出席者から企業・団体献金の存続の必要性を訴える声が上がり、調整の過程で議論が封印された。
 石破茂首相は会合後、「民主主義のコストを誰が負担するのが正しいのか、ということに帰着する」と述べ、企業・団体献金を容認している。
 これに対し、立民の野田佳彦代表は「不正の温床になったり、政策をねじ曲げたりする可能性がある」として、企業・団体献金の禁止から規正法の見直しをスタートするべきだと主張してきた。
 献金の禁止は日本維新の会共産党も足並みをそろえる。経済対策で政権に歩み寄った国民民主党は主張を明確にしていない。
 主張に隔たりがある中、自民は28日召集の臨時国会を前に与野党協議を行って意見を集約し、年内の再改定を目指すという。
 注視するべきなのは、「政治とカネ」の問題は政治不信をもたらした根源であるということだ。
 不透明な資金が不透明なルートで政治家に入り、使途も不透明なら、政治のかじ取りがカネに左右されかねない。民主主義の基盤を揺るがしかねない問題である。規正法改定の方向性をどう定めるのか。密室ではなく、国会の場で議論を公開して行うべきだ。
 企業・団体献金を禁止することで何が問題になるのか、そもそも政治になぜ多額のカネが必要なのか。現在の選挙制度や選挙運動の在り方に原因があるのなら、改革を怠ってはならない。議論をするべき点はあまりにも多い。
 政策活動費についても、自民案は「外交や企業の営業秘密に配慮が必要な支出を非公表とする」との余地を残す。恣意(しい)的に運用されないか疑念が残る。
 各党が公開の場で議論を積み上げて法案を修正し、国民が納得できる改正を実現しなければならない。年内の再改定に執着せず、時間をかけて丁寧で分かりやすい論議を進めていくべきだ。

規正法の再改正 焦点は企業団体献金、禁止だ(2024年11月23日『京都新聞』-「社説」)
 
 根深い政治不信を生んでいる「政治とカネ」の病理に向き合わず、またも論点をずらした小手先の「改革案」で乗り切ろうとするなら、信頼回復など到底おぼつかない。
 衆院選の大敗を受け、自民党政治資金規正法の再改正に向けた基本方針をまとめた。
 党から幹部らに巨費が支給され、使途公開の義務がない政策活動費は廃止するという。だが、「金権腐敗の温床」とかねて批判が強い企業・団体献金の禁止は盛り込まれなかった。
 これでは「抜け穴だらけ」と反対した野党を押し切り、6月に成立させた改正規正法の轍(てつ)を踏むことになる。
 与党過半数割れの厳しい審判を突き付けられた事実を受け止め、今度こそ抜本的な改革で、政治資金の透明化を果たさねばならない。
 企業・団体献金について自民は多様な政治資金を確保する必要性を挙げ、石破茂首相も1970年の最高裁判決を基に「企業は政治活動の一環として寄付の自由がある」と主張する。
 だが判決は、巨額寄付に伴う金権政治の弊害に言及し「立法政策」で対処すべきだとも指摘している。その後も資金提供により政策がゆがめられた事件、不祥事は枚挙にいとまがない。
 こうした点を踏まえ、「平成の政治改革」では企業・団体献金禁止と引き換えに、税金を原資とする政党交付金制度を導入した。94年の法改正で全面禁止に向け「5年後に見直し」と付記したはずが、ほごにされたままだ。
 立憲民主党日本維新の会共産党は企業・団体献金禁止を「改革の本丸」に位置付けており、今月中旬に行った共同通信世論調査でも7割近くが支持している。「二重取り」をこれ以上放置するのは許されない。
 一方、自民案は政策活動費の廃止を明記したが、どこまで透明性が担保されるか楽観できない。外交や企業の秘密など「配慮が必要」と判断されれば、使途を非公表にする余地を残す。
 専門家は「実態が明らかにされないと、必要性が検証できない。名称を変えて支出が続く可能性はある」と指摘する。
 非課税となる政治資金の流れを監視する仕組みも重要だ。
 改正法で記した第三者機関の設置場所を自民案は「国会内が基本」とするが、実効性の面で適切と思えない。少なくとも独立性の確保や行政処分などの権限付与が不可欠だろう。
 そもそも自民内の議論では、派閥裏金事件の対応が不十分とする国民の声に応える姿勢が見られない。衆院選後に石破氏は「ご叱責(しっせき)を賜った」と語ったが、徹底した再調査と真相解明に踏み込まないのはどうしたことか。
 与野党伯仲の国会は、既得権を断ち、カネをかけない政治を目指す好機である。石破氏は指導力を発揮すべき時だ。 

規正法の再改正 焦点は企業団体献金、禁止だ(2024年11月23日『京都新聞』-「社説」)
 
 根深い政治不信を生んでいる「政治とカネ」の病理に向き合わず、またも論点をずらした小手先の「改革案」で乗り切ろうとするなら、信頼回復など到底おぼつかない。
 衆院選の大敗を受け、自民党政治資金規正法の再改正に向けた基本方針をまとめた。
 党から幹部らに巨費が支給され、使途公開の義務がない政策活動費は廃止するという。だが、「金権腐敗の温床」とかねて批判が強い企業・団体献金の禁止は盛り込まれなかった。
 これでは「抜け穴だらけ」と反対した野党を押し切り、6月に成立させた改正規正法の轍(てつ)を踏むことになる。
 与党過半数割れの厳しい審判を突き付けられた事実を受け止め、今度こそ抜本的な改革で、政治資金の透明化を果たさねばならない。
 企業・団体献金について自民は多様な政治資金を確保する必要性を挙げ、石破茂首相も1970年の最高裁判決を基に「企業は政治活動の一環として寄付の自由がある」と主張する。
 だが判決は、巨額寄付に伴う金権政治の弊害に言及し「立法政策」で対処すべきだとも指摘している。その後も資金提供により政策がゆがめられた事件、不祥事は枚挙にいとまがない。
 こうした点を踏まえ、「平成の政治改革」では企業・団体献金禁止と引き換えに、税金を原資とする政党交付金制度を導入した。94年の法改正で全面禁止に向け「5年後に見直し」と付記したはずが、ほごにされたままだ。
 立憲民主党日本維新の会共産党は企業・団体献金禁止を「改革の本丸」に位置付けており、今月中旬に行った共同通信世論調査でも7割近くが支持している。「二重取り」をこれ以上放置するのは許されない。
 一方、自民案は政策活動費の廃止を明記したが、どこまで透明性が担保されるか楽観できない。外交や企業の秘密など「配慮が必要」と判断されれば、使途を非公表にする余地を残す。
 専門家は「実態が明らかにされないと、必要性が検証できない。名称を変えて支出が続く可能性はある」と指摘する。
 非課税となる政治資金の流れを監視する仕組みも重要だ。
 改正法で記した第三者機関の設置場所を自民案は「国会内が基本」とするが、実効性の面で適切と思えない。少なくとも独立性の確保や行政処分などの権限付与が不可欠だろう。
 そもそも自民内の議論では、派閥裏金事件の対応が不十分とする国民の声に応える姿勢が見られない。衆院選後に石破氏は「ご叱責(しっせき)を賜った」と語ったが、徹底した再調査と真相解明に踏み込まないのはどうしたことか。
 与野党伯仲の国会は、既得権を断ち、カネをかけない政治を目指す好機である。石破氏は指導力を発揮すべき時だ。

自民の政治改革案 国民が納得する中身なのか(2024年11月23日『中国新聞』-「社説」)
 
 自民党の政治改革本部が、臨時国会で想定される政治資金規正法の再改正に向けた基本方針を示した。派閥パーティー券裏金事件をはじめ「政治とカネ」の問題に後ろ向きな姿勢が批判を浴び、衆院選で大敗したのを受けた。
 一見、反省して踏み込んだようにも見える。何より「裏金の温床」と見る野党や、連立相手の公明党が問題視する政策活動費について廃止をようやく打ち出したことだ。政党から政治家個人に支出され、使途が示されないままブラックボックスとなる政治資金だけに廃止は当然だ。
 
 ただ全体で見れば、小手先のカードを渋々切った感は拭えない。例えば公民権停止となる事件で起訴された議員分の政党交付金を停止することは法律うんぬん以前に即刻、返上すべき話だろう。肝心の政策活動費にしても、外交や企業の秘密に関わる資金は非公表の支出があり得るとしている。最初から抜け穴を考えているように読み取れる。
 要はチェックの目はできるだけ緩くしたいのだろう。政治資金を監視する第三者機関については「国会に置くことを基本」とした。国家行政組織法に基づく独立性の高い機関を公明が求めることに一定の配慮はしたようだが、石破茂首相が早期の設置を公言した今に至っても、具体的な組織の姿が曖昧なのは困る。
 自民はこの基本方針をベースに与野党協議に入り、規正法改正の内容を事前に固めたいようだ。ほかには、国会議員に月100万円を支給する調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開や残金返納を義務付ける歳費法などの改正で与野党が一致している。臨時国会では審議を極力省いてこれらを成立させ、年内に一連の問題に区切りをつけたい―。そんな政権の思惑が透けて見える。
 それで国民の納得が得られるかどうか。事前の折衝は必要としても国会での開かれた議論はやはり欠かせない。
 自民が基本方針では踏み込まなかった企業・団体献金の問題は避けて通れまい。立憲民主党日本維新の会などが禁止を唱えるのに対し、自民は容認の姿勢を変えようとしない。何らかの規制強化を与党が示す可能性はあるが、長年の問題点に手を付けるべきだろう。お金のある企業や団体ほど献金を通じて政治への影響力を強め、彼らに有利な方向に国の政策がゆがめられかねないことだ。
 その点は裏金問題の本丸である政治資金パーティー券にも通じる。企業などからの献金の抜け道と指摘されて久しい。ことしの通常国会における規正法改正では、購入者の公表基準を20万円超から5万円超に下げるにとどまった。自民は新たな方針として外国人と外国法人による購入の禁止を掲げたが、本質的な見直しに今こそ踏み出したい。
 仮に年内に規正法を再改正すれば1年に2回という異常事態となる。自公両党が一部の野党を抱き込んで成立はするが中身は乏しい。そんな結果を繰り返すなら政治不信の解消どころか、与党へのさらなる逆風を招くだろう。

自民政治改革案 資金透明化には程遠い(2024年11月21日『北海道新聞』-「社説」)
 
 自民党は、派閥裏金事件を受けた政治資金規正法の再改正に向けた方針案をまとめた。
 政党から幹部らに支出され、使途の公開義務がない政策活動費は廃止する。ただ外国要人との交渉などを念頭に、非公開支出を一部温存するという。
 「合法的裏金」とも言われた政策活動費は、実際の使い道を確認しようがない。例外を残せば、際限なく拡大する恐れがある。極めて中途半端な対応だ。
 30年前からの積み残し課題である企業・団体献金の禁止にも触れていない。ここに至ってもなお先送りするというのか。
 衆院選大敗の反省が感じられず、踏み込みが全く足りない。政治資金の透明化には程遠く、国民を再び失望させ、信頼回復を遠のかせてしまうだろう。
 そもそも肝心の裏金の実態解明がいまだに進んでいない。野党は衆参の政治倫理審査会への裏金議員の出席を求めている。
 自民党総裁である石破茂首相は少数与党の現実を受け止め、野党の主張をよく聞き、対応を根本から改めねばならない。
 自民党は政策活動費を巡り、外交の秘密や企業の営業秘密など配慮が必要な支出があると説明する。公表方法を工夫し、第三者による監査で支出の適正性を担保するという。
 だが党による「外交の秘密」とは、具体的にどんな内容を指しているのか理解できない。一度秘密を容認すれば、その基準はあいまいになりかねず、どこまで厳格に監査できるかも分からない。政治資金に不透明な部分を残すべきではない。
 方針案には、政治資金を監視する第三者機関の早期設置も盛り込んだが、通常国会で検討課題となっていたものであり、むしろ対応が遅すぎるくらいだ。
 企業・団体献金は30年前の改革で、政党交付金の導入と引き換えに廃止するはずだった。それがほごにされ続け、政党交付金との二重取りが続いている。
 首相は、企業の政治活動の自由を認めた1970年の最高裁判決を盾に、企業・団体献金の正当性を主張する。しかしその判決は巨額献金による金権腐敗の弊害を「立法政策」で制限することは可能との見解も示す。やはり禁止が筋である。
 立憲民主党など野党各党は禁止を訴えている。ただ国民民主党は「各党一致するならやる」と立場を明確にしていない。
 自民党は今後、他の政策協議も合わせ、国民民主党を自陣に取り込み、臨時国会を乗り切りたい意向のようだ。うやむやに終わらせることなく、野党が一致して禁止を要求すべきだ。

規正法の再改正 企業団体献金禁じる時だ(2024年11月20日『毎日新聞』-「社説」
 
キャプチャ
自民党の政治改革本部の初会合であいさつする石破茂首相(中央)=東京都千代田区の党本部で2024年11月12日午前10時7分、長谷川直亮撮影
 衆院選での与党過半数割れを受け、自民党政治資金規正法の再改正にようやく重い腰を上げた。
 検討しているのは、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開と残金の国庫返納、政党から議員に支出される政策活動費の廃止、政治資金を監視する第三者機関の設置――などだ。
 先の通常国会で成立した改正政治資金規正法は、「抜け穴」だらけだった。自民党派閥の裏金問題に対する国民の批判は収まらず、衆院選大敗の一因になった。
 政策活動費は、使途公開の義務がなく、ブラックボックス化している。党内の反対意見への配慮もあり、石破茂首相は「廃止を含めて議論」と煮え切らない。廃止は待ったなしだ。
 第三者機関は、強力な権限を持った組織として出発できるよう、制度設計を急ぐ必要がある。
 再改正の本丸は、企業・団体献金の禁止である。立憲民主党など野党は禁止を求めているが、自民党は反対姿勢を崩していない。
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政治改革法案で合意し、共同記者会見に臨む細川護熙首相(右)と河野洋平自民党総裁=国会内で1994年1月29日未明
 「平成の政治改革」では、国民の税金を原資とする政党交付金を導入する代わりに、企業・団体献金を禁止することになった。
 1994年にまず政治家個人への企業・団体献金が禁じられた。政党向けは5年後に検討されることになっていたが、結局、見送られた。全面禁止できないまま、政党交付金との「二重取り」が続いている。
 自民党政治資金団体国民政治協会」への2022年の企業・団体献金は約24億5000万円に上った。
 首相は、企業の政治活動の自由を認めた70年の最高裁判決を踏まえて「企業・団体も寄付は禁じられていない」と話す。だが判決は同時に、巨額寄付に伴う金権政治の弊害には「立法政策」で対処すべきだとの判断を示している。
 企業・団体献金によって、資金力の強い業界の意向が反映され、政策決定にゆがみが生じる懸念も指摘されている。首相は、献金に上限を設けることなどを検討する考えだが、全面禁止すべきだ。
 民主主義を機能させるには、政治資金の適正化が欠かせない。与野党が協力して、抜本改革を断行し、国民の信頼を取り戻さなければならない。