巨大地震発生の可能性は?割れる見解 “水の動き”や能登地震に注目する専門家も(2024年8月11日『テレビ朝日系(ANN)』)

8日に宮崎県沖で起きた地震により、気象庁は、南海トラフ巨大地震が発生する可能性が「平時より数倍高まった」としています。はたして、これをどう捉えればいいのか。専門家と検証しました。(8月11日OA「サタデーステーション)
■「平時より数倍可能性高い」なぜ?
8日に発生した宮崎県沖の日向灘震源とするM7.1の地震気象庁は10日、地震以降、高知県愛媛県にある3カ所の「ひずみ観測点」では、地震後に通常見られる変化以外に異常は見られないと明らかにしました。そのうえで「地震活動は依然活発で、収まっているとは言えない」とし、引き続き巨大地震への注意を呼び掛けました。
南海トラフ地震評価検討会 平田直会長(8日の会見)
「今後マグニチュード8を超える、あるいは9に近いような大きな地震が起きる可能性が高い。マグニチュード7クラスの地震が起きると普段よりも数倍起きる可能性は高くなる」
なぜ可能性が高まるのでしょうか。サタデーステーションは東京大学の笠原名誉教授に話をききました。
東京大学地震研究所 笠原順三名誉教授
南海トラフで起こる地震は主としてプレート境界で起こる地震です」
南海トラフの巨大地震とは、今回震源となった、九州の日向灘から静岡県駿河湾にかけての広大なプレートの境界で発生が想定される、マグニチュード8から9の地震です。そして、今回起きた地震も同じくプレートの境界で起きたもので、震源域の西端で「一部割れ」が起きたといわれています。
東京大学地震研究所 笠原順三名誉教授
「メカニズム的には今回の地震と非常によく似たプレート境界型地震南海トラフ側でも起こるだろうと」
■”水の移動”が巨大地震を引き起こす?
笠原氏によるとポイントは「水」だといます。
東京大学地震研究所 笠原順三名誉教授
「断層の滑りを決めているのは水なんです。それがプレートの境界や断層面に流体(水)があると、ずるずると滑ってしまって、いっぺんに滑るんですよ。水がプレートの境界をザーッと移動するんです。そして全体が動く」
このようにして、プレートの一部が割れたことで、全体への影響を与える可能性があると指摘します。南海トラフ巨大地震は、今後30年以内に70~80%の確率で発生すると予測され、巨大津波などで甚大な被害が想定されていますが…
東京大学地震研究所 笠原順三名誉教授
「危険度が数倍高くなったと言っているが、それは、非常に(地震の発生が)接近してきたということを意味しています。30年じゃなくて、10年じゃなくて、もっと短くなっている可能性がある」
能登地震との連動の可能性も
さらに、今年1月に起きた能登半島地震と連動する可能性も指摘します。
東京大学地震研究所 笠原順三名誉教授
「全体にユーラシアプレートフィリピン海プレート側へ動くと、フィリピン海プレートが沈み込むという形で、連動する関係がある」
笠原教授は、過去に日本海側と太平洋側が連動して起きたとみられる巨大地震の例を挙げ、警鐘を鳴らします。
東京大学地震研究所 笠原順三名誉教授
「1944年に東南海地震が起きたが、1年前に鳥取でM7.2の地震が起きた。これは日本海側の地震東南海地震に影響を与えたとも考えられています。最近では、能登半島で1月に地震が起きた。能登半島もユーラシアの上。鳥取もユーラシアの日本海側にある。ユーラシアプレート側が押されると、フィリピン海プレート側が沈み込むという連動する関係がある。能登半島地震から日向灘地震南海トラフ地震にうつるとすると、半年か、1年くらいは相当注意しないといけない。仮に連動したとすると非常に危険である」
■”影響は限定的”指摘も 割れる見解
一方、今回の地震南海トラフ地震に与える影響は限定的だという見方もあります。
京都大学防災研究所 西村卓也教授
「今回マグニチュード7の地震っていうのが起こりましたけど、(今回の震源付近では)過去にも同じような地震は何度も起こっております」
日向灘ではM7クラスの地震はほぼ30年周期で発生しているといい、前回起きたのは28年前でした。
京都大学防災研究所 西村卓也教授
「過去にも同じような地震があって、それは南海トラフ地震には繋がっていないという事実はあります。南海トラフの想定震源域というのも、2012年、東日本大震災の後に見直されてるんですね。それまでは、南海トラフ地震っていうのは実は西は四国の沖合までだったんですけれども、それを日向灘まで広げました。この変更で、想定震源域はおよそ2倍に拡大されました」
今回の地震は、まさに12年前に拡大された西の端で起きたものでした。そして、今回の震源域について、巨大地震の発生域とみられる、特にひずみが溜まってるところからは離れているため、それほど影響しないのではないかといいます。
京都大学防災研究所 西村卓也教授
「相対的には危険性は高まってることは間違いないんですけれども、非常に南海トラフ地震が切迫してるとか、そういう風に捉えてはないです」
  ◇
高島彩キャスター
「いつ起きても不思議ではないと言われてきた南海トラフ地震ですが、今回気象庁から気になる発言がありました」
板倉朋希アナウンサー
「8日の会見では『地震発生から1週間程度、特に2、3日は大きな地震が発生することが多いということで注意が必要』だということです。実際に2011年の東日本大震災の時も、3月9日にマグニチュード7.3の地震が発生し、その2日後にマグニチュード9.0という巨大地震が起きました」
高島彩キャスター
「今回、日向灘沖を震源とする地震から2日が経っていますが、巨大地震につながる兆候などはあるのでしょうか」
南海トラフ地震の評価検討会委員・横田崇氏(愛知工業大学教授)
「今のところ、そのような兆候は観測されていません」
高島彩キャスター
「なぜ3日程度は警戒しないといけないんでしょう」
横田崇氏
「この事例もそうですけど、普通の地震が発生した場合2、3日ぐらい活発な状況が続きます。さらに1週間ぐらいはその場所で同程度の地震が起こる可能性がある。そういうことで、しばらくは注意してもらうことが大事なことになると思います」
高島彩キャスター
「そして、もう1つ心配なのがスロースリップとの関係です」
板倉朋希アナウンサー
「改めてスロースリップというのは、プレートの境界の断層がゆっくりズレ動くということで、東日本大震災の前や千葉県沖の地震でも、スロースリップ現象が多発していたという報告が上がっています」
高島彩キャスター
「横田さん、今回、震源地の近くなどでスロースリップが起きたという報告は上がっていますか」
横田崇氏
スロースリップは非常に大事な概念なんですが、現在のところ普段起きてるものと異なるスロースリップが起きているという報告はありません」
高島彩キャスター
「柳澤さん、どうご覧になってますか」
ジャーナリスト 柳澤秀夫
「監視体制が気になるんですが、広大な想定震源域をカバーするためには、果たして今の監視体制で十分なんでしょうか」
横田崇氏
「陸上からの監視が主になっていて、海中や地下はぜい弱だと思います。今後さらに海域での監視体制が充実されていくことが望まれるところです。地震の発生間隔が100年から150年だとすると、次の地震の前後の変化をしっかり観測することが大事になりますから、指摘のような体制になるのが望まれます」
高島彩キャスター
「まだ改善の余地があるということで、そこに予算を出さなければということになりますよね。柳澤さんは『巨大地震注意』という今の段階どう受け止めていますか」
ジャーナリスト 柳澤秀夫
「今回こういう情報が出たのは初めてですから、十分に国民に周知されていたのかどうか、今後に生かすべき点はどういうことなのか、しっかり検証して問題点を洗い出しておく必要があるんじゃないかなと思います」
高島彩キャスター
「そういう意味ではいかがでしょうか」
横田崇氏
「これまで周知が十分でないとか。認知度が低いということは言われていました。今回のこの情報が出たことで改めて皆さんがどう対応したのか、そういうことをきちっと検証していくと。そして次の改善に向けていくということが大切な事になるんだろうと思います」
高島彩キャスター
「そして改めて、気象庁が注意を呼びかけるこの1週間。1週間が過ぎたから大丈夫ということではないですよね。どのような気持ちで過ごせばいいでしょうか」
横田崇氏
南海トラフ地震は必ず発生します。それが発生するまでは我々は気が抜けないので、しっかり警戒していく。そのためには家具を固定したり、耐震化などを準備していくことが重要になるんだろうと思います。1週間が終わっても耐震化が不十分であれば、ちゃんとしていく。日ごろから日常的な生活の中でこういうことをしっかり対処していただくということが大切になると思います」