空振りに終わった地震臨時情報
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つまり、今回の臨時情報は空振りだった。
今回の発表でも、多くの人が「巨大地震注意情報」に全く動揺しなかった。
地震学者が唱えた「2038年説」
それは、いったい、どういうことか?
つまり、尾池氏は川勝知事と昵懇の間柄だった。
その対談は、川勝知事肝煎りの静岡県広報誌「ふじのくに」49号に掲載されている。「南海トラフ巨大地震はいつ?」という小見出しの対談部分で、尾池氏は「2038年南海トラフ地震」説を自信たっぷりに唱えているのだ。
知事袋井あたりですごい被害が出ました。1944年の前は?
尾池氏いろんな理由がありますが、一番確度の高い予測がその頃です。西日本は東日本と違ってプレート境界と陸がかなり近い。だから、(高知県)室戸岬、御前崎、潮岬などは、皆すぐ近くに南海トラフの境界があって、フィリピン海プレートが沈み込みながら陸のプレートを引きずり込んでいる。室戸岬は海溝からの距離が近いので、地震の時に海底とともに隆起する。だから港を早く浚渫(しゅんせつ)しないと間に合わない。室津港の浚渫をどれだけしたかという記録から類推すると、2038年になります。
知事歴史的根拠があるというわけですね。静岡県は南海トラフの地震に備えて「地震・津波対策アクションプラン」を策定しています。プランの進展状況をPRしているうちに「南海トラフの巨大地震」という呼び名は広く知られるようになりました。
尾池氏とにかく「起こるかもしれない」ではなく「必ず起こります」。それと季節が偏っています。起こるのは9月から3月の間。統計が8回分もありますから、今後も繰り返すでしょう。そういう癖があることを知っていれば、行政には大きなメリットがあるでしょう。そうした知識を県民の皆さんに具体的に知ってもらう仕組みをつくるべきだと思います。
臨時情報を受けた鈴木知事の会見(筆者撮影)
それで、「県民に具体的に知ってもらう仕組みをつくれ」と川勝知事に進言している。
日本国内では、東海地震の予知が、衝撃的な‟事実”と認められ、社会全体を揺るがす大きな問題にまで発展した。
大地震予知を前提に、深刻な被害が予想される東海地域への影響を軽減するという、世界でも例のない法律だった。
いまとなっては「笑い話」だが、当時は新幹線車内で真剣な面持ちで目をつむって必死で祈る人を横目にしながら、誰もが「早く静岡県を通り過ぎてほしい」と願ったものだ。
何の根拠もないノストラダムスの大予言が信じられたのと違い、こちらは、東大助手による巨大地震説だから、当時、“超危険地帯”となった静岡県の地価は下がり、伊豆などの観光客は激減した。そのマイナス効果はあまりにも大きなものだった。
東京大学のロバート・ゲラー名誉教授は「前兆現象はオカルトみたいなもの。確立した現象として認められたものはない。予知が可能と言っている学者は全員『詐欺師』のようなものだ」などと批判した。
南海トラフ地震臨時情報が出された直後、7月9日の定例会見で、鈴木康友知事は「過剰な反応、対応は必要ない。1週間くらいの食料、水の備蓄はお願いしているが、最低限の準備だけして、落ち着いた行動をしてもらいたい」などと呼び掛けた。
小林 一哉