東京女子医大に関する社説・コラム(2024年8月5・12・17・24日)

東京・旧飯田町…(2024年8月24日『毎日新聞』-「余録」)
 
キャプチャ
東京女子医科大。案内板には創立者吉岡弥生の顔写真も掲示されている=東京都新宿区で2024年6月30日午後0時14分、斎藤文太郎撮影
 東京・旧飯田町(現在の千代田区飯田橋)に東京女医学校が開かれたのは1900(明治33)年12月だった。設立者は当時29歳の女性医師、吉岡弥生。母校の医学校が女子学生の入学拒否を決めたことに危機感を覚え、自らの医院で女性を対象に医学者養成を始めた
▲これが現存する日本で唯一の女子医大東京女子医科大学(東京都新宿区)の前身である。吉岡は女医学校の設立を「当時いかにも低かった婦人の社会的地位を向上させようとした」と振り返っている
▲医学界に多くの人材を輩出してきた、その東京女子医大が揺れている。理事会は、岩本絹子理事長の解任を決めた。同窓会組織が関係した不透明なカネの支出や、入試と絡んだ寄付金収受を巡り、同大は疑惑の渦中にある。調査していた第三者委員会は「岩本氏の経営責任は極めて重い」と結論づけた
▲大学病院で患者が死亡する医療事故が起き、傷ついた信頼の回復途上にある東京女子医大である。岩本氏側は第三者委の報告に反発したというが、大学病院での医師・看護師の大量離職や疑惑の続出など、再建どころか混乱に拍車がかかっている
▲大学には、吉岡の功績を伝える資料室がある。そこには座右の銘とした「至誠」の直筆も展示されている
▲公共性の高い教育・医療機関のガバナンスに関わる問題である。至誠の精神が、伝統ある組織の中でいつの間にかかすれてしまったのではないか。外部の目を取り入れて病弊と向き合うことが、社会に果たすべき責任であろう。

東京女子医大 理事長解任で生まれ変わるか(2024年8月17日『読売新聞』-「社説」)
 
 歴史ある医大で、なぜ不祥事の連鎖が止まらないのか。組織の問題点を洗い出し、解体的出直しを図らねばならない。
 東京女子医科大の岩本絹子理事長が解任された。女子医大を巡っては、岩本氏の側近だった同窓会組織の元職員に不正な給与が支払われたとして、警視庁が今年3月、特別背任容疑で、理事長室などを一斉捜索していた。
 女子医大では2001年以降、深刻な医療事故が相次ぎ、経営が悪化した。創立者一族の岩本氏は再建を託され、14年に副理事長、19年には理事長に就いていた。
 不透明な支出に、岩本氏はどこまで関与したのか。実態を詳しく解明することが不可欠だ。
 岩本氏が経営に参画して以降、女子医大では、卒業生から同窓会への寄付額を点数化し、その子女を対象にした推薦入試で点数の高い人を有利に扱っていた。
 私大が入試の際に寄付金を受け取ることは文部科学省の通知で禁じられている。女子医大の行為は、これに抵触する恐れがある。
 岩本氏は、教職員の人件費削減も進め、医師や看護師の大量退職を招いた。大学は今、危機的な状況にある。医療の質を顧みず、コストカットを強行した手法に問題があったのではないか。
 一連の問題を調査した第三者委員会は、元職員には、大学側と同窓会から二重に給与が支払われていたと認定した。入試の寄付金問題や人件費削減についても、不適切だったと指摘した。
 岩本氏には、こうした疑惑とは別に、知人の会社と大学が結んだコンサルティング契約の資金が、岩本氏側に不正に還流した疑いもあるという。第三者委は、学内で問題が多発する背景には「岩本一強」の体制があったと断じた。
 他の大学幹部らは、岩本氏への権限の集中をなぜ食い止められなかったのか。ガバナンス(組織統治)の欠如は深刻な状況だ。
 明治期創立の東京女医学校を前身とする女子医大は、女性医師を積極的に育てるという先進性を持ち、かつては著名な外科医らを擁する名門として知られた。
 医大には、医師を育てるほか、大学病院で高度な医療を提供し、社会に貢献する使命がある。そのため、国からも手厚い財政支援を受けている。その医大で不祥事が相次ぎ、十分な医療が提供できない現状は、放置できない。
 女子医大は、組織の再生計画を早期に示すべきだ。支出のチェック機能を強化するほか、内部通報制度を拡充することも重要だ。

東京女子医大 理事長解任は当然である(2024年8月12日『産経新聞』-「主張」)
 
キャプチャ
東京女子医科大=東京都新宿区(岩崎叶汰撮影)
 
 不明朗資金疑惑で警視庁の強制捜査を受けた東京女子医大で、理事会が創立者一族である岩本絹子理事長の解任を決めた。第三者委員会が岩本理事長の責任を厳しく指摘し大学再生へ解体的な出直しを求めた。理事長解任は当然である。
 発端は3月の警視庁による強制捜査だ。同窓会組織「至誠会」元職員が、勤務実体がないのに多額の給与を同会から得た―との一般社団法人法の特別背任容疑で、理事長室や岩本氏宅などが家宅捜索を受けた。
 第三者委は、元職員らが大学から業務委託された会社の雇用となった後、同社と至誠会から給与が二重払いされていたと容疑事実を認定した。大学の利益に反し、岩本氏に近い者のみの利益が図られた過大な報酬だったと、その背任性も認めた。
 同大は岩本氏が理事長就任後、激しいリストラを進め、良質な医療が提供できなくなったと懸念される。第三者委はその問題にも踏み込み、小児集中室の運用停止や小児集中治療医の大量退職を「岩本氏の重大な経営判断の誤り」と批判した。
 「目先の儲(もう)けが最優先事項」で、医療安全確立による評価向上や中長期的な業績向上は後回しにし、「理事長としての適格性に疑問がある。法人への忠実性が欠如」とまで酷評した。第三者委としても異例の厳しさだ。それほど異様だった。
 異論を唱える者は敵視され、排除され、恐怖政治で誰も反対意見を言えぬ「岩本1強」体制が理事会のガバナンス機能を封殺したと第三者委は断じた。
 推薦入学の至誠会枠の受験生の選考や、教職員の昇進・昇格が至誠会への寄付によって判断されていた。「金銭に対する強い執着心を見て取ることができる」とも岩本氏を評した。
 同大は平成26年の医療事件以降、業績が悪化し、経営手腕を頼って岩本氏が登板した。第三者委から報告を受けた大学は、岩本氏の暴走をなぜ許したのか内省し、検証しなければいけない。理事長は多くが創立者一族から選出されているが、外部人材登用の検討も必要だろう。
 警視庁の徹底捜査で同大は膿(うみ)を出し切った方がいい。岩本氏を止められなかった理事ら現執行部の総退陣も当然だが、その前に岩本氏は説明責任を果たさなければいけない。このままでは存続も危うい。

東京女子医大は病根一掃せよ(2024年8月5・12日『日本経済新聞』-「社説」
 
キャプチャ
東京女子医大の不透明な資金の動きなどについて、調査報告書を公表する第三者委員会のメンバーら(2日)=共同
 
 内容が事実なら、とても教育機関の体をなしているとはいえない。東京女子医科大学の第三者委員会がこのほど公表した報告書に目を疑う。
 不正な資金支出などがあった可能性を指摘した上で、岩本絹子理事長に権限が集中し、ガバナンスが機能していなかったと結論づけた。組織を根本から変えない限り、再生はあり得ない。
 報告書が指摘した問題は多岐にわたる。学校法人とコンサルティング契約を結んだ会社から岩本氏側に資金が還流した可能性が高いとしたほか、推薦入試で受験者側に寄付を求めるのは文部科学省の通知に違反する可能性があるとした。背景として岩本氏の「1強体制」があったと指摘し、トップとしての資質にも疑問を呈した。
 学校法人では本来、理事会や監事が理事長の業務執行をチェックする役割を担う。しかし同大では両者がほとんど機能していなかったとみられる。岩本氏はもちろん、トップの「暴走」を許した周囲にも責任がある。
 同大に対しては、警視庁が特別背任容疑で大学本部や岩本氏の自宅を家宅捜索するなど、捜査を進めている。文科省も再発防止策などについて報告を求める方針だ。
 一連の疑惑について、記者会見を開くなどしない岩本氏らの対応にも首をかしげる。同大には公金が投入されている。教職員や学生、付属病院の患者だけでなく、国民に対して説明責任を果たさねばならない。
2021年に発覚した日本大学の不祥事は記憶に新しい。少子化で経営環境が厳しくなるなか、ガバナンスの強化は喫緊の課題になっている。
 来年4月には改正私立学校法が施行される。理事会、評議員会、監事の各機関の権限を見直し、相互にチェックしやすいようにするのが狙いだ。各大学は東京女子医大を反面教師として自浄作用が確実に働く体制を構築してほしい。現場の教職員が意見を言いやすい組織風土づくりも欠かせない。