「東京女子医大は理事長1強」 不適切支出巡り第三者委(2024年8月2日『日本経済新聞』)

東京女子医科大学(東京・新宿)の同窓会組織を巡り不透明な資金支出があった問題で、同大の第三者委員会(委員長=山上秀明元最高検次長検事)は2日、支出の適正さや大学のガバナンスを検証した報告書を公表した。同大は岩本絹子理事長に権限が集中する「1強体制」で「ガバナンス機能が封殺された」と指摘した。
東京女子医大は3月に警視庁による強制捜査を受けたうえ、教授有志が文部科学省に対して理事会への指導を求めるなど異例の事態となっている。第三者委がガバナンス不全を強調する報告書をまとめたことを受け、大学側の対応が焦点になる。
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三者委の山上氏は2日の記者会見で、岩本氏について「問題が明るみに出ても説明責任を果たさず、(学内の)不満分子の鎮圧に躍起となっていた。非常に問題だと認定した」と述べた。
三者委の調査対象は学校法人と同窓会組織「至誠会」での不透明な資金支出が中心になった。岩本氏と近い関係にあるとされ、至誠会から学校法人へ出向していた元職員へ過大な人件費が支払われていた疑いが浮上していた。
報告書は、出向者の人件費が至誠会と学校法人側双方から支出されており「過大あるいは二重払いの疑義が濃厚」と指摘した。
学校法人の不適切な資金支出も判明した。岩本氏が副理事長に就任した直後の2015年、学校法人は外部企業とコンサルティング契約を結んだ。会社は岩本氏の知人が代表で、法人が支払った600万円の一部が岩本氏側に還流した可能性が高いと分析した。
三者委は至誠会への寄付金を重視する推薦入試や人事のあり方も問題視した。推薦入試で受験者側に寄付を求めるのは文科省の通知に違反する可能性があると言及した。寄付額に左右される人事は「社会の理解が得られがたい」と批判した。
一連の問題の背景として、副理事長を経て19年に理事長に就いた岩本氏への権限集中を挙げた。異論を唱える職員は排除されたとしたうえで、岩本氏について「金銭に対する強い執着心と学校法人に対する忠実性の欠如を見て取れる」と述べた。
東京女子医大は2日、「ガバナンスの機能不全の問題を重く受け止め、組織の改善・改革に全身全霊で取り組んでいく」とするコメントを出した。
組織統治に詳しい青山学院大の八田進二名誉教授は「学校法人は公共性や公益性の観点から税制上の優遇措置が認められており、高い倫理観や経営の透明性が求められる」と語る。
そのうえで「多くの問題が噴出しているにも関わらず、理事長自らが対外的に説明しようとする姿勢が見えない。自浄能力は期待しにくく、運営陣の速やかな刷新が不可欠だ」と話している。
東京女子医大吉岡弥生氏が1900年に創設した「東京女医学校」が前身。ホームページでは「女性のみに医学教育を行う国内で唯一の教育機関」とうたっている。
警視庁、資金の流れ捜査 3月に家宅捜索
東京女子医大を巡っては、警視庁捜査2課が3月、至誠会から勤務実態のない元職員に給与が支払われた疑いがあるとして、一般社団法人法違反(特別背任)の疑いで大学本部や岩本絹子理事長の自宅など関係先を家宅捜索した。
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捜査関係者によると、特別背任の疑いが持たれているのは至誠会が運営する「至誠会第二病院」(東京・世田谷)の元職員と、元事務長。元職員は勤務実態がないにもかかわらず、至誠会側から約2千万円の給与を不正に受領した疑いが持たれている。
岩本氏は2013年から23年5月まで至誠会の代表理事会長を務めていた。捜査2課は元職員への資金の支払いが決まった経緯や資金の流れを詳しく調べている。
大学を巡っては以前から不透明な資金の流れが指摘されていた。一部の卒業生らが23年3月に岩本理事長を背任容疑で刑事告発し、警視庁が受理していた。