「佐渡金山」登録 実現を支えた日韓の関係改善(2024年8月4日『読売新聞』-「社説」)
日本の重要な史跡の価値が国際的に認められたことは、喜ばしい。背景には、近年進んだ日韓関係の改善がある。
登録の可否は、韓国の協力が得られるかどうかが焦点だった。
日本の文化審議会は2021年、金山を国内推薦候補に選んだ。これに対し、文在寅政権下の韓国は、金山について「戦時中、朝鮮半島出身者が強制労働させられた被害現場だ」と主張し、推薦に反発する談話を発表した。
そうしたことから、日本政府も一時、推薦の見送りに傾いたが、自民党内の声を受け、22年に推薦を最終決定した。
ユネスコの諮問機関は今年、金山について、「登録」に次ぐ評価にあたる「情報照会」を勧告した。その際、採掘が行われた時期の歴史すべてを説明、展示するよう求めた。韓国の反発に配慮した結果だと受け止められた。
日韓は、どのような展示の内容にすべきかなど、対話を重ねた。韓国側が最終的に、金山の登録を容認したのは、日本側の対応を評価したことに加え、日韓の友好関係を大事にしたいという思いがあったためだろう。
日本は強制労働を認めていないが、戦時中、朝鮮半島出身者が金山で働いていたのは事実だ。その点を含めて歴史を紹介するのは、不自然なことではなかろう。
尹錫悦大統領の就任以降、日韓関係は改善が進んでいる。今回の世界遺産登録は、両国が良好な関係を保つことの重要性を再認識する機会となったのではないか。
来年は日韓国交正常化から60年を迎える。歴史認識などを巡る意見の相違があっても、信頼関係に基づいて対話を重ねれば、乗り越えられる課題もあるはずだ。
たとえ意見の相違があったとしても、対話を通じて妥協点を探る大切さを改めて認識させた。
「佐渡島(さど)の金山」(新潟県)の世界文化遺産への登録が決まった。世界では機械化が進んでいた江戸時代に、手作業での採掘技術を発達させたと評価された。国内の候補リストに入ってから14年で地元の悲願がかなった。
ハードルとなっていたのは日韓関係だ。韓国は、戦時中に朝鮮人強制労働の現場だったことに触れないまま登録するのは認められないと主張してきた。
日韓は、過酷な作業に従事する朝鮮半島出身の労働者が日本人より多かった点などを、現地の施設で紹介することで合意した。日本が認めていない「強制労働」という言葉は使わないものの、実質的な強制性を読み取れるような展示内容となっている。
今回の両国の対応は、このケースへの反省を踏まえたものだ。長く目詰まりを起こしていた政府間対話が再開され、水面下で調整できるようになった。尹錫悦(ユンソンニョル)政権が徴用工問題の解決策を打ち出したことを契機に、関係が改善された結果だ。
来年は1965年の国交正常化から60年の節目だ。両国はこの間、経済と安全保障の両面で協力を積み重ねてきた。共に先進工業国であり、米中との距離感など国際社会での立場も似ている。協力は互いの国益に資する。
近年は、文化や観光を通じた交流も活発になった。60年前に年間約1万人だった往来は今、1日で約3万人となっている。
長い歴史を持つ隣国同士であるだけに摩擦の種は少なくない。重要なのは深刻な対立に発展させないことだ。さまざまなレベルでの対話を重ね、安定した関係を作る努力を続けなければならない。