裁判官まで出動、証拠品を押収
岬まき衆院議員(同氏ウェブサイトより)
捜索差押許可状などで「ガサ」を入れ強制的に証拠品を押収するのは基本的に警察や検察庁である。裁判所によるガサ入れなど異例のことだ。
「民事事件で証拠隠滅などの恐れがあると判断したとき、裁判所が証拠保全として証拠品の差し押さえをすることができます。たとえば医療訴訟では、カルテの保存期間が5年なので、そうした場合に行われるものです。ただその場合でも、裁判所に訴状が出てから行われることが多い。民事提訴がされる前で、しかも国政政党相手に裁判所がガサを入れるなんて、あまり聞いたことがない」
現代ビジネスの取材に「異例だ」と繰り返しながらこう応えるのは、民事が専門だった元裁判官のひとりだ。
このガサ入れから2ヶ月あまり経った7月10日、名古屋地裁で民事裁判が起こされた。原告は、今年2月まで愛知維新の会に所属していた北名古屋市の小村貴司市議。被告は、愛知維新の会代表の浦野靖人衆議院議員である。
今年2月に、小村市議は愛知維新の会から除名処分を下されており、それが無効であることを求める内容だった。
小村市議は、維新所属の岬まき衆議院議員の秘書を経て、2022年4月の北名古屋市議選で初当選を果たした。岬議員は、過去に選挙公報に虚偽の経歴を記載し、党本部から処分を受けるなど、これまで複数のトラブルが確認されている。
愛知維新の会でも同様だったようで、2023年11月、小村市議のもとに、岬議員の複数の秘書から「パワハラ」「公私混同」などの苦情が寄せられた。小村市議が説明する。
「岬議員の秘書、運転手など10人近くから助けてくれというクレームが寄せられました。私も岬議員から土下座を強要され『お前の根性どこまでひん曲がっている』などと罵声を浴びせられたことがあるので、よくわかります。
日本維新の会の規約では国会議員や地方議員である特別党員以外、ハラスメントの被害の訴えができないシステム。そこで、私が被害にあった元秘書やスタッフをとりまとめて、党のハラスメント相談窓口に訴えを起こしたのです」
気に入らないと土下座で謝罪させた
現代ビジネスでも、岬議員の元秘書らがパワハラを訴えったLINEを入手している。
《毎日労働時間が14時間ほどとなることが常態化》
《(岬議員の私物のために)最大で70万円も秘書が立て替え》
《日常的に人格否定、罵声、罵詈雑言の数々。机をたたき相手を追い込む》
《夏の炎天下の中で休みもなくポスターノルマ、1日10枚を課す》
《岬議員が気に入らないと土下座で謝罪させた》
《新型コロナに罹患して休むと、給料が20万円から10万円に下げられた》
数々のパワハラや不透明な金銭のやりとりが書かれている。これらを小村市議が代表して訴え出た。しかし、1か月、2か月たっても党から回答が得られなかった。維新の弁護士から「待ってほしい」というメールが1度、届いただけだった。
一方で、小村市議は愛知維新の会の副代表・守島正衆議院議員と連絡を取り合っていた。守島氏からは、
《ハラスメント窓口へのアプローチお願いします。僕は報告すべきところにしておきます》
とLINEでメッセージが届いていたので安心していたという。
だが2月20日に愛知維新の会は臨時の役員会を開催し、告発した小村市議を除名処分とした。
維新は地方議員に対して、「身を切る改革」として議員報酬の一定額を災害の被災地やボランティア団体に寄付することを求めている。小村市議は「身を切る改革」を実行していないことが除名処分の理由とされた。
愛知維新の会は《「身を切る改革」の実行は本会公認の必須条件であり、選挙公約》《北名古屋市民の皆様との公約を反故にすることは、断じて許されるものではない》と理由を説明している。
「すでにそのころ、身を切る改革の一部は支払いをすませてやっていました。残りの寄付も、今年3月と6月に近く実行することで話をしており、了承してもらっていました。維新では全国的にも、身を切る改革を実行していない地方議員はかなりいます。いきなり除名処分としたのは岬議員のパワハラを訴える私が煙たくて、意趣返しで除名処分に追い込んだのではないかとみています」
小村市議はそう話す。
党規委員会も開催せずに除名処分
冒頭の「ガサ」では重要な証拠が確保できたという。
押さえた証拠からわかったのが、除名処分を決めた役員会は2月18日に開催されていたことです。その翌日には、維新の本部に報告するFAXが送信されていた。規約にもある党紀委員会も開催せずに、除名処分を決めたというのは、手続き違反で処分は無効。かなりあわてていたのだと思います」
維新は国政でも馬場伸幸代表と共同代表でもある大阪府の吉村洋文知事の間で対立が勃発している。国会でも政策活動費を巡って一度は自民党と合意するも、すぐに反故にされた。馬場代表は「第二自民党」を主張するが、「自民党と一緒になれば維新はつぶれてしまう」「自民党とぶつかっていく、それがケンカのやり方だ」と吉村知事は猛反発。
石丸氏の選対本部長だった藤川晋之助氏がこう明かす。
「選挙前、維新の幹部がごぞって石丸氏と面会しにきたが、政党の推薦などは不要だと断った。ところが、石丸氏が156万票をとる躍進を果たすと維新は後出しじゃんけんのように『石丸氏から推薦してくれと持ち掛けられた』といいはじめた。真相はまったく違う」
維新の国会議員はこう溜息をつく。
「党の県連本部に裁判所からガサってウワサは聞いたけど、本当だったんですね。都知事選でも候補者を擁立できず、国会でもダメダメぶりを露呈しています。『この党は長くない』とそんな話ばかり出ますね。実際、そう感じます」
国会でも地方でも、お粗末ぶりをさらけだす維新だが、裁判所からの異例の「ガサ」が決定打になるかもしれない。
現代ビジネス編集部