アメリカのバイデン大統領は、21日午後、声明を出し、秋の大統領選挙での再選を断念し、選挙戦から撤退する考えを表明しました。
そして、後任の民主党の大統領候補として、ハリス副大統領を支持し、ハリス氏も意欲を示しました。
再選を目指す現職大統領が選挙戦の途中で撤退するのは1968年のジョンソン大統領以来、56年ぶりの事態です。
日本時間22日午前3時ごろ SNSのXで声明を発表
バイデン氏は、6月27日に行われた、共和党のトランプ前大統領との初めてのテレビ討論会で、ことばに詰まるなど精彩を欠き、その後、民主党内で撤退を求める声が急速に広がっていました。
バイデン氏は、ことし1月に始まった、党の候補者選びで、各州の代議員の90%以上をすでに獲得し、8月中旬の民主党大会で指名を受諾する演説を行い、正式な党の候補者になる予定となっていました。
バイデン氏の撤退により、すでに各州から選出されているおよそ4000人の代議員は民主党内で今後、募ることになる候補者に、自分の判断で投票できるようになるものと見られています。
大統領選挙の投票日までおよそ3か月半という段階で、党の指名獲得が確実視されていた候補者が選挙戦から撤退するのは極めて異例です。
再選を目指す現職大統領が選挙戦の途中で撤退するのは1968年のジョンソン大統領以来、56年ぶりの事態です。
“選挙戦から退き残りの任期 職務全うに専念が党と国に最善”
バイデン大統領はSNSのXで「みなさんの大統領を務められたことは、私の人生の中で最大の名誉だった。再選を目指すつもりでいたが、私が選挙戦から退き、残りの任期は大統領としての職務を全うすることのみに専念することが、党にとっても国にとっても最善の利益になると考える」とする声明を発表し、選挙戦から撤退する考えを表明しました。
そのうえで「私の決断の詳細については、今週後半に国民のみなさんに話す予定だ」としています。
“民主党候補者としてハリス氏を全面的に支持し推薦したい”
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ハリス副大統領が声明「指名を勝ち取るつもり」
バイデン大統領が選挙戦からの撤退を表明したことを受けてアメリカのハリス副大統領は21日声明を出しました。
この中で「わたしは、アメリカ国民を代表し、バイデン氏の大統領としての並外れた指導力と、数十年にわたるわれわれの国に対する貢献に感謝する。バイデン氏が成し遂げた偉大な功績はアメリカの現代史において比類のないもので、2期を務めた、ほかの多くの大統領の功績をしのぐものだ」として、バイデン氏をたたえました。
その上で、バイデン氏が民主党の大統領候補としてハリス氏を支持したことについて「バイデン大統領の支持を得られたことを光栄に思う。この指名を勝ち取るつもりだ」として、党の候補者の指名獲得に意欲を示しました。
そして、「わたしは全力を尽くして民主党を、そしてわれわれの国を結束させ、トランプ氏を打ち負かす」としています。
ハリス副大統領とは
カマラ・ハリス氏は西部カリフォルニア州出身の59歳。
父親はジャマイカ出身、母親はインド出身で移民の2世として生まれ育ちました。
カリフォルニア州の司法長官を務めたあと、2017年に上院議員となり、2020年の大統領選挙で議員1期目ながら民主党の候補者指名争いに挑戦しました。
支持が広がらず、党の候補者選びから撤退したあと、バイデン氏への支持を打ち出し、候補者選びを勝ち抜いたバイデン氏によって副大統領候補に選ばれました。
その後、ハリス氏は、女性として、また、黒人としてもアメリカ史上、初めての副大統領となり、多様性を重視するバイデン政権の象徴となりました。
ハリス氏は、連邦最高裁判所が2022年、人工妊娠中絶は憲法で認められた権利だとしたおよそ50年前の司法判断を覆したことをめぐり、全米各地で中絶の権利の擁護を訴えるなどして、バイデン氏の再戦を支援してきました。
また、若年層や、民主党が支持基盤としてきた黒人層の取り込みを後押しする役割も期待されてきました。
一方、バイデン政権で、移民対策を任されたにも関わらず、就任から5か月あまり、メキシコ国境の現場に足を運ばず、共和党から批判されるなど、目立った実績はないとの厳しい評価もあります。
政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」のまとめによりますと、7月20日までの各種世論調査の平均では、ハリス氏を支持するとした人は38.1%、支持しないとした人は52.3%となっています。
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新たな候補者選び「代議員」投票に委ねられる可能性
アメリカメディアはバイデン大統領の撤退を受けて、民主党の新たな候補者選びは来月行われる全国党大会で「代議員」による投票に委ねられる可能性があると伝えています。
代議員は各州などから選出され、党大会の会場で投票によって党の大統領候補を正式に指名する役割を担う人たちです。
通常は党大会までに行われる各州などでの予備選挙や党員集会の結果にもとづき、あらかじめ決まった候補者に投票します。
アメリカメディアによりますと今回の民主党の候補者選びではバイデン大統領が予備選挙などを通じて代議員のほとんどを固めていたということです。
ただ予備選挙などはすでに実施されたあとのため、バイデン大統領の撤退によって代議員たちは自分たちの判断で誰に投票するかを決めることになるということです。
アメリカメディアは「代議員が自由に投票して決める手続きとなるのを避けるため、民主党は党大会までに候補者の一本化を目指すだろう」と伝えています。
民主党の全国党大会は8月19日からイリノイ州シカゴで開かれる予定ですが、民主党全国委員会はこれまで、バイデン大統領を指名する手続きを、党大会より前にオンラインで実施する計画を発表していました。
バイデン大統領の撤退表明を受けて現時点で、どのような手続きがとられるのかは分かっていません。
今後、バイデン大統領にかわる党の新たな大統領候補の選出に向けた動きが活発化するとみられます。
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オバマ元大統領「この決断はバイデン氏が国を愛する証し」
オバマ元大統領は日本時間の22日午前4時40分ごろ声明を発表しました。
声明では「バイデン氏はアメリカで最も重要な大統領の1人であり、私にとって親愛なる友人である。そしてきょう、彼が最高の愛国者であることを改めて認識させられた」としてこれまでの功績に謝意と敬意を表しました。
そして「バイデン氏は決して戦いから引き下がらないことを私は知っている。彼が政治情勢を見て新しい候補者にバトンを渡すべきだと決断したことは、人生において最も困難なことの1つに違いない。この決断は、バイデン氏が国を愛する気持ちの証しであり自分の利益よりもアメリカの利益を優先させた歴史的な例だ。後世の指導者たちも見習うだろう」とコメントしました。
一方、バイデン大統領が後任の民主党の大統領候補として、支持する考えを示しているハリス副大統領については、言及しませんでした。
ペロシ元下院議長「アメリカ史上最も影響力のある大統領の1人」
民主党 議会上院トップ “バイデン氏の選挙戦撤退決断を支持”
民主党 議会下院トップ バイデン大統領の功績たたえる
クリントン夫妻もハリス氏を支持
クリントン元大統領と、妻のヒラリー・クリントン元国務長官はSNSに声明を発表し「アメリカ国民とともにバイデン大統領の功績に感謝する」と述べるとともに「ハリス副大統領を推薦し、彼女のためにできるかぎりの支援をする」として大統領候補としてハリス氏を支持する考えを示しました。
英首相「米国民にとって最善と信じることに基づき決断下した」
バイデン大統領が秋の大統領選挙での再選を断念し、選挙戦から撤退すると表明したことについて、イギリスのスターマー首相はSNSに「バイデン大統領の決断を尊重するとともに、大統領としての残りの任期中、ともに仕事ができることを楽しみにしている。彼はそのすばらしいキャリアを通じてそうしてきたように、アメリカ国民にとってこれが最善だと信じることに基づき決断を下したのだ」と書き込みました。
また、スナク前首相は「バイデン大統領とともに仕事をして、彼のアメリカに対する愛情と奉仕への献身を私は目の当たりにした。われわれのパートナーシップはオーストラリアを含む安全保障の枠組みAUKUS、イスラエルへの断固たる支援、中東イエメンの反政府勢力フーシ派の脅威から国民を守るための共同での取り組みなど、重要な成果をもたらした」と書き込みました。
世界各地のメディアも速報
バイデン大統領が選挙戦から撤退することを表明したことについて、世界各地のメディアは速報で伝えています。
このうち、アメリカのCNNテレビは、「現職の大統領が再選を辞退するのは、数十年ぶりだ」などと伝えています。
また、有力紙ニューヨーク・タイムズは「2024年の大統領選を大混乱に陥れた」と伝えています。
イギリスの公共放送BBCは、トランプ前大統領が銃撃された事件などもあげ、「すでに歴史的な事態が起きている大統領選挙は未知の世界に突入する」などと伝えています。
さらに、中東の衛星テレビのアルジャジーラもワシントンからの中継を交えて伝えています。
《解説動画》