「共生」と言うけれど、症状選べぬコロナ (2024年7月17日『産経新聞』-「産経抄」) 

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新型コロナの感染者増を受けて、手指の消毒も入念に
 ひどい頭痛がして、体の芯が明らかに熱い。体温計を腋(わき)の下に入れると38度6分と表示された。6月末のことである。ここ数年、冬場はもちろん、滅入(めい)るような暑さの盛りにも、満員電車や雑踏の中では必ずマスクを着けていた。
▼手指の消毒にもぬかりはなかったので、発熱には心当たりがない。自宅近くの診療所に電話をかけると「いつでもどうぞ」。お年寄りとは別の動線で案内されたものの、発熱した患者の診察に、以前ほど神経をすり減らすことはなくなったらしい。
▼「新型コロナですね。はっきり『陽性』と出ています」。流行から5年目にして初めて罹患(りかん)した。担当医によれば、昨今は全国的に感染者数が増え続けており、誰がどこで感染しても不思議はないという。38度台の発熱は軽症だそうで、せき止め薬などの処方を受けて帰宅した。
▼まもなく夏休みを迎え、梅雨明けも近い。厳しい暑さが予想される中、コロナに加えて、初期症状の似た熱中症への備えが怠れない。冷房の効いた部屋でも、こまめな換気でウイルスの増殖を防ぐのがよいという。読者諸賢はくれぐれもご自愛を。
▼社会がコロナとの共生に舵(かじ)を切ってから1年余り。症状が「軽症化」したとの声を聞く一方、高齢者や重い持病のある人には依然として怖い敵だろう。当方は療養中に味覚を失い、いまも戻る気配がない。うまいも、まずいもなく、食べ物を口に運ぶだけの味気ない日々が続く。
▼同じ時期に感染した知人は、肋間(ろっかん)神経痛と味覚過敏に苦しんでいると聞く。何を食べても強い塩味を覚えるといい、それはそれで気の毒である。後遺症を含む症状は、ウイルスに強制されたもので選べない。さて、わが体内での「共生」は、どうなることか。