兵庫県の斎藤知事がパワハラの疑いなどで告発された問題で、県議会の各会派などが提出した知事の不信任決議案は全会一致で可決されました。
決議案の可決によって、斎藤知事は辞職するか、県議会を解散するか判断を迫られることになります。

兵庫県の斎藤知事がパワハラの疑いなどで告発された問題で、県議会では、自民党や維新の会など5つの会派すべてと無所属議員、あわせて86人の議員全員が知事に対し、ただちに辞職するよう求めていました。

しかし、斎藤知事が19日に始まった県議会に先だって辞職しなかったことから県議会のすべての会派と無所属議員は、「県政に深刻な停滞と混乱をもたらした政治的責任は免れない」として知事の不信任決議案を提出しました。

そして、決議案はさきほど、本会議で採決が行われ、全会一致で可決されました。

不信任決議案の可決を受けて、斎藤知事は、辞職するか、10日以内に県議会を解散するか、判断を迫られることになります。

 

可決された場合の対応について斎藤知事は、19日も、「法律の規定にそってさまざまな選択肢を考えていく。私にとっても県政にとっても大事な判断になるのでタイミングも含めてしっかり熟慮する」と述べ、県議会解散も排除せずに検討する考えを重ねて示しています。

不信任決議案の可決を受けて知事が議会を解散したケースはなく、斎藤知事の対応が最大の焦点となります。

斎藤知事「重い状況が示された。しっかりと考える」

兵庫県の斎藤知事は不信任決議案が可決されたあと記者団の取材に応じ、今後の対応について「しっかり考えていきたい」と述べ、明言しませんでした。

この中で、斎藤知事は、「改めて県民やすべての皆様にこういった状況になっていることについて心配や不信を抱かせてしまい心から申し訳ない」と述べました。

その上で可決を受けた対応について、「大変重い議会側の選択で、私にとってもやはり重い。自分自身の心の中を問いながら考えていきたい。タイミングと日時については、あらかじめお伝えしたい。覚悟と判断が必要なのでしっかり考えていきたい」と述べ、明言しませんでした。

一方、一連の問題については「不信任決議案が全会一致で可決されたという結果をもって、私に責任がある。結果責任は重いと考えている」と述べました。

採決を前に 続投への意欲を強調

 

これを前に本会議で、斎藤知事は「県政を刷新し、新しい時代を見据えた道を切り開いていくことが県民から負託を受けた私の責務だ。県民や職員などに理解と協力をもらえるよう信頼回復に向けて最大限の努力を重ねていく」と述べ、続投への意欲を強調しました。

本会議で各会派の議員は

本会議で自民党の戸井田祐輔議員は決議案を提出した理由について「県政は深刻な停滞と混乱を極めており、危機的状況に陥らせた政治的責任は免れない。県民から負託を受けているわれわれ議員86人は総意と覚悟をもって不信任決議案を提案する」と説明しました。

また維新の会の徳安淳子議員は「知事が『県民の未来を託されている』という時間は過ぎ去った。県政の改革をさせてほしいと謙虚に思うなら政治家として責任をとって辞職し、出直しの選挙をすべきだ。遅かれ早かれ失職は免れない現実を直視してほしい」と述べました。

解説 Q&A

 

想定される今後の流れ

Q.
不信任決議案が可決された。斎藤知事は今後、どうする。
A.
選択肢は2つあります。
先ほど決議案が可決されたため、知事は
▽10日以内に議会を解散するか
▽失職するか、
どちらかを選ぶことになります。

ただ、斎藤知事がどう判断するかは、まだわかりません。

斎藤知事は、19日も本会議で「県政を刷新し、新しい時代を見据えた道を切り開いていくことが私の責務だ」などと述べ、続投に意欲を示しました。

また、斎藤知事は決議案が可決された場合の対応について「法律の規定にそってさまざまな選択肢を考えていく」などとして、議会の解散も排除しない考えを示していました。

Q.
今後、想定されるスケジュールは?
A.
知事が失職となった場合は、50日以内に知事選挙が行われます。

一方、斎藤知事が県議会を解散した場合は、40日以内に県議会議員選挙が行われます。

 

選挙管理委員会では、前回の実績を踏まえて、
▽知事選挙が行われる場合は、18億円規模、
県議会議員選挙の場合は16億円規模の費用がかかると想定しています。

県議会議員選挙のあと、初めての議会で、再び不信任決議案が提出され、可決されると、知事は失職します。

2回目の不信任決議案は、可決の要件が今回とは異なり、3分の2以上の議員が出席し、過半数の賛成で可決となります。

この場合、知事は再び議会を解散することはできず、失職します。

過去の4例は

Q.
不信任案が可決された過去の事例には、どんなものが?
A.
総務省によりますと、都道府県議会で知事への不信任決議案が可決されたケースは過去に4例あります。

このうち、
▽1976年には汚職事件で追及された岐阜県知事が、
▽2006年には官製談合事件をめぐって責任を問われた宮崎県知事が、不信任決議案の可決後にみずから辞職しました。

昭和51年の岐阜県知事・平野三郎氏

 

ほかの2件は、可決から10日が経過して失職したケースで、
▽2002年にはダム計画の中止などで県議会と対立した長野県の田中知事が、
▽2003年には選挙公約で掲げた大型公共事業の見直しなどをめぐって批判を受けた徳島県の大田知事が失職し、出直し選挙に立候補しました。

田中氏は再選し、大田氏は落選しました。

平成14年の長野県知事田中康夫

 

以上4つの例があるんですが、知事が県議会の解散を選んだケースは1つもありません。

今回の不信任決議案の可決を受けて、斎藤知事が議会を解散すれば、初めてのケースになります。

今後の斎藤知事の判断が最大の焦点となります。

文書問題の経緯

Q.
これまでの問題の経緯は。
A.
きっかけは、ことし3月、当時の県の西播磨県民局長が作成した告発文書が報道機関などに送られたことでした。

告発文書

 

文書には、職員に対するパワハラの疑いや、出張先などで贈答品を受け取った疑いなどが記されていて、元局長は4月には県の公益通報制度を利用して内部通報しました。

その後、元局長は公益通報の保護対象とされず、停職3か月の懲戒処分になりました。

6月には県議会が事実関係を調査する必要があるとして、法律に基づく強い調査権を持つ百条委員会を設置します。

6/14 百条委員会の初会合

 

しかし、元局長は7月に亡くなっているのが見つかり、自殺の可能性があるとみられています。

先月から今月にかけては、県議会の百条委員会で証人尋問が行われていて、告発文書を作成した元幹部を懲戒処分にしたことをめぐって、専門家からは
批判も出されました。

一方で斎藤知事は、「手続きに瑕疵はない」として、県の対応は問題ないという認識を重ねて示していました。

県議会は、証人尋問での知事の発言なども踏まえて、県政への信頼が大きく損なわれているなどとして86人すべての議員が知事の辞職を求め、不信任決議案の提出となりました。

<反応>

 

専門家「かなり異例の不信任決議

 

斎藤知事に対する全会一致での不信任決議案可決について、地方政治に詳しい法政大学大学院の白鳥浩教授は、「これまで不信任決議案が通った例は4例しかなく、全会一致というのはまれなかたちで、かなり異例の不信任決議だ。本来であれば対立する案件を抱える議会のすべての会派が、総意として、全会一致で不信任を突きつけてくるというのは、重く受け止める必要がある」と話しています。

決議案が可決されたことで、斎藤知事は10日以内の議会の解散か失職かを選択することになりますが、これまでに不信任決議案の可決を受けて知事が議会を解散した例はありません。

今回、仮に斎藤知事が県議会の解散を選んだ場合について、白鳥教授は「問題になっているのは知事の資質であるにもかかわらず、議会を選んだ県民の民意を踏みにじっていることが大きな問題になっていく。議会の解散に伴う選挙に16億円ほどかかるといわれているが、これほど巨額の費用が必要になってしまう」と指摘しました。

その上で、「知事がどのような行動をとるかは、知事の考え1つということになってくるが、果たして知事の判断が本当に県民のためになるのかどうかをこれからしっかりと見ていく必要がある」と話しています。

自民党県議団 北野幹事長「議会解散 大義がなく、あり得ない」

自民党県議団の北野実幹事長は記者団に対し「本来はみずから辞職してほしかった。議会解散大義がなく、あり得ない。仮に解散され県議会議員選挙になれば、86人全員が戻ってくると思っている。知事選挙に向けてできるだけ早く次の知事候補を擁立したい」と述べました。

兵庫県議会 浜田議長「ベストな選択をしてほしい」

兵庫県議会の浜田知昭議長は、記者団に対し「議会として重い決断をした。知事は結果を受け止め、県民の立場に立って考えてベストな選択をしてほしい。知事の選択を議会として受け止めたい」と述べました。

維新 藤田幹事長「辞職することが適切」

日本維新の会の藤田幹事長は、19日夜、記者会見し「斎藤知事に対し、党として辞職と『出直し選挙』を求める申し入れをしていたので、ここに至ったことを非常に残念に思う。われわれを含む県議会のすべての会派が不信任決議案を突きつけ、可決したので、斎藤知事は辞職することが適切だ」と述べました。

そのうえで、今後、知事選挙が行われた場合の党の対応について「独自の候補を擁立することも排除せず、選択肢として検討していきたい」と述べました。

維新の会兵庫県議団 岸口団長「可決されてほっとした気持ち」

維新の会兵庫県議団の岸口実団長は「3年前、知事とともに選挙をしたので複雑な思いもあるが、不信任決議案を提出した立場でもあるので可決されてほっとした気持ちだ」と述べました。

その上で、「引き続き知事が県政を担っていきたいのなら、再度、選挙をすることを望むが、知事の応援はできないと思う」と述べました。

傍聴希望者が次々に

本会議が行われる兵庫県の公館には、傍聴を希望する人が次々に訪れました。

本会議の傍聴券は、開会1時間前の午前10時から先着順で配布され、午前11時の時点で一般の傍聴席70席に対しておよそ半数の33席が埋まりました。

神戸市垂水区に住む53歳の男性は「報道を見ていると『ひどいな』と思うことはありますが、まだ百条委員会で事実が解明されたわけではありません。県政が停滞していることは確かなので、きょうは知事本人からどういったことばが聞けるのか、期待して見に来ました」と話していました。

可決後 傍聴していた人たちは

知事の不信任決議案が全会一致で可決されたことを受けて、本会議を傍聴していた人からはさまざまな声が聞かれました。

神戸市北区に住む84歳の男性は、「知事は不信任決議案が可決された際、表情を全く変えませんでしたが、きょうの結果を受けて、今後、どう判断するのか注目したいです。これまでに知事が実現した政策も多くあると思うので、今回の問題への評価も含めて、もう一度、県民に信を問うというのもひとつの選択肢だと思います。混乱が続いていますが県政がまた正常に戻ることを期待したいです」と話していました。

神戸市垂水区に住む50代の自営業の男性は「きょうの議会の意思を知事がどう受け止めたのか気になります。今後、県議会を解散するのか、辞職するのかは全く見通しがつきませんが、県政運営が滞っている印象なので、早く選挙を行って、新たに選ばれた知事のもとで兵庫県政を前に進めてほしいです」と話していました。

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