皇室の財布事情をひも解く 生活費は?納税は?(2024年7月13日『おとなの週末』)

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即位後初となる新年一般参賀でお出ましになられた皇室の方々。左より高円宮承子女王殿下、高円宮妃殿下、常陸宮妃殿下、常陸宮殿下、上皇后陛下、上皇陛下、天皇陛下皇后陛下秋篠宮皇嗣殿下、秋篠宮皇嗣妃殿下、眞子内親王殿下(現・小室眞子さん)、佳子内親王殿下、三笠宮妃殿下、寛仁親王妃殿下、三笠宮彬子女王殿下=2020年1月2日、皇居宮殿・長和殿ベランダ(東京都千代田区
皇室のお金に公私の区別はあるのか。仕事柄、そのような質問を読者の方から受けることがある。正解は「ある」なのだが、これを説明するのが意外と難しい。特に生活費については、"線引きが曖昧……"といったら語弊があるが、その解釈は実に複雑で、宮内庁もプライバシーに関わることなので一切発表していない。まずは、皇室予算の仕組みからひも解くことにしたい。
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宮内庁が持つ"二つの財布"
皇室の予算は、大きく二つに分類される。皇室費宮内庁費のことである。2024(令和6)年度の皇室費は101億4153万5000円、宮内庁費が119億5677万円で、その合計額は220億9830万5000円にもなる。皇室費は、さらに3つの費目に分類され、内廷費3億2400万円、皇族費2億6372万4000円、宮廷費95億5381万1000円に配分される。宮内庁費は、庁の運営に必要な事務費や人件費などである。これらの金額関係予算は、すべて宮内庁ホームページで公開されている。
この説明だけでは、どの金額を何に使用しているのか理解できないので、さらに詳しく説明を続ける。
皇室費は、さらに"3つの財布"に分けられる
そもそも皇室費とは「皇室経済法(第3条)」でその内訳を内廷費宮廷費皇族費とすることが決められている。それが、ここでいう"3つの財布"のことだ。天皇家の財布となる内廷費(3億2400万円)は、皇室経済法(第7条)で、天皇陛下上皇陛下と内廷にある皇族(皇后雅子さま上皇后美智子さま愛子さま)の日常の費用やその他の内廷諸費と決められており、つまりは「生活費を含む私的費用に充てるお金」とされ、「御手元金(おてもときん)」とも呼ばれる。
簡単にたとえてしまうと、"天皇ご一家への給与"と考えればわかりやすいかもしれない。国の予算ながら、天皇家の財布に入るとプライベートマネーになるため、その使途などは公開されない。多くの公務員が自身の財産や家計を公開する義務がないのと同様である。とはいえ、内廷費は銀行口座で管理されていると伝えられ、その管理者は天皇陛下ではなく「内廷会計主管」という肩書を持つ宮内庁の職員とされる。天皇家が、自由にお金を出し入れできるわけではないということか……。
厳密に管理されているとはいえ、失礼ながらも、雅子さま美智子さまは「ヘソクリ」をされているのだろうか。ピザの宅配やカップラーメン、ファストフードなどを食されているのだろうか。仮にそうだったとしても、その事実は知る由もないのである。
各宮家の財布事情
天皇家の財布が内廷費であるのに対し、各宮家はというと皇族費という費目から4宮家に対し配分が行われる。皇室経済法(第6条)では、皇族としての品位保持の資(もと)に充てるためとある。皇族費もまた、「御手元金」と同様にプライベートマネーという扱いになるため、その使途は公開されない。
配分される額は、秋篠宮家が1億2250万9000円、常陸宮家が4575万円、三笠宮家が5856万円、高円宮家が3690万5000円である。これらの額には一人あたりの算出基準があり、その定額(親王または当主の親王妃)は3050万円である。それに対し、親王妃は定額の1/2、内親王(成年)は同3/10、親王(未成年)は同1/10、女王(成年)は同3/10×7/10となっている。具体的には、紀子さまは1525万円、佳子さまは915万円、悠仁さまは成年を迎える年でもあるため、2024(令和6)年度に限り月割り計算によって660万9000円としている。そのうえで、秋篠宮さまは、皇嗣というお立場から定額の3倍(9150万円)が支出される。
お住まいの光熱費は?
天皇家の場合、お住まいの「御所」で使用する水道光熱費、電話代などは宮廷費(皇室の活動や皇室財産の維持管理等に必要な経費)から支払われる。一方、皇族方のお住まいである宮邸(みやてい)では、皇族費から支出される。他にも交通費の支払いひとつとっても、複雑な解釈によって行われているのが実情だ。御料牧場の肉類、乳製品、野菜などについても、天皇家は無償とされるが、宮家の方々は皇族費から支払い、購入されていると聞く。
天皇陛下も納税する
内廷費皇族費は、毎年国から支出されるが、仮に余ったとしても国に返納する必要がないとされる。また、非課税であるため所得税が徴収されることもない。とはいえ、皇室のすべてが非課税という訳ではない。個人資産とみなされるものは、所得税の課税対象となる。たとえば、本の出版で得た印税や、団体等に所属して得た給与、株式などで得た利益などは、所得税の課税対象となるという。昭和天皇が亡くなられたときの個人資産は約20億円近くあったとされる。その内訳は、内廷費の余剰を貯めた金融資産が約18億円と、美術品等が約7000万円……など、諸々あったといわれた。これらは相続税の対象とされ、当時の香淳皇后上皇陛下(当時は天皇陛下)のお二方が相続され、"上皇さまは約4億2800万円の相続税を麹町税務署(東京都千代田区)に納めた"と、当時話題になった。
文・写真/工藤直通
 
くどう・なおみち。日本地方新聞協会皇室担当写真記者。1970年、東京都生まれ。10歳から始めた鉄道写真をきっかけに、中学生の頃より特別列車(お召列車)の撮影を通じて皇室に関心をもつようになる。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物を通じた皇室取材を重ねる。著書に「天皇陛下と皇族方と乗り物と」(講談社ビーシー/講談社)、「天皇陛下と鉄道」(交通新聞社)など。