政府が
集団的自衛権の行使を容認した
閣議決定から、10年が経過した。この間、
自衛隊の役割が拡大し、日本の平和国家像は大きく変容した。
集団的自衛権は、密接な関係にある他国が攻撃された場合に、自国への攻撃とみなして反撃する権利を指す。
国連憲章でも加盟国に認められている。
政府は長年、
憲法9条の下で許される
武力行使は、個別的
自衛権に限られるとの立場を取っていた。第2次安倍政権下の2014年7月、
閣議決定で
憲法解釈を変更した。
集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法が15年9月に成立し、
自衛隊は米国を標的とする
弾道ミサイルの迎撃や、邦人を輸送する米艦の防護などができるようになった。
その後、防衛力の強化が、なし崩しに進められた。
相手国の基地をたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)の
保有で、
専守防衛との整合性が問われている。23年度からの5年間で、防衛費を総額43兆円まで引き上げ、関連予算を27年度に
国内総生産(
GDP)比2%にすることも決めた。
決定に至るプロセスも問題が多かった。
集団的自衛権行使を巡る
憲法解釈の変更は、国会の議論を経ずに決められた。岸田政権下での防衛力増強も国会軽視との批判を浴びた。
そうした中、創設70年を迎えた
自衛隊と、米軍の「一体化」が加速している。米軍の艦艇や航空機を
自衛隊が防護する活動は増え、両者の指揮統制の統合強化も進む。
ロシアの
ウクライナ侵攻で国際秩序が揺らぎ、東アジアの安全保障環境が厳しさを増しているのは確かだ。中国は軍事活動を強め、
北朝鮮は核・ミサイル開発で周辺国を脅かす。
林芳正官房長官は「日米同盟はかつてないほど強固となり、抑止力、対処力も向上した」と述べた。米国などとの連携により、中国包囲網が形成された一方、日本が米中対立の最前線に立つリスクも高まっている。
懸念されるのは、緊張を緩和するための外交努力が足りないことだ。安全保障政策の実効性を高めるためには、抑止力の向上とともに、信頼醸成を図ることが大切だ。