「集団的自衛権」10年 緊張高めぬ外交足りない(2024年7月6日『毎日新聞』-「社説」)

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集団的自衛権の行使を容認する閣議決定の後、記者会見で説明する安倍晋三首相(当時)=首相官邸で2014年7月1日、藤井太郎撮影
 政府が集団的自衛権の行使を容認した閣議決定から、10年が経過した。この間、自衛隊の役割が拡大し、日本の平和国家像は大きく変容した。
 集団的自衛権は、密接な関係にある他国が攻撃された場合に、自国への攻撃とみなして反撃する権利を指す。国連憲章でも加盟国に認められている。
 政府は長年、憲法9条の下で許される武力行使は、個別的自衛権に限られるとの立場を取っていた。第2次安倍政権下の2014年7月、閣議決定憲法解釈を変更した。
 集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法が15年9月に成立し、自衛隊は米国を標的とする弾道ミサイルの迎撃や、邦人を輸送する米艦の防護などができるようになった。
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集団的自衛権の行使容認を決定する臨時閣議に臨む安倍晋三首相(当時、中央)ら=首相官邸で2014年7月1日、藤井太郎撮影
 その後、防衛力の強化が、なし崩しに進められた。
 相手国の基地をたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有で、専守防衛との整合性が問われている。23年度からの5年間で、防衛費を総額43兆円まで引き上げ、関連予算を27年度に国内総生産GDP)比2%にすることも決めた。
 決定に至るプロセスも問題が多かった。集団的自衛権行使を巡る憲法解釈の変更は、国会の議論を経ずに決められた。岸田政権下での防衛力増強も国会軽視との批判を浴びた。
 そうした中、創設70年を迎えた自衛隊と、米軍の「一体化」が加速している。米軍の艦艇や航空機を自衛隊が防護する活動は増え、両者の指揮統制の統合強化も進む。
 ロシアのウクライナ侵攻で国際秩序が揺らぎ、東アジアの安全保障環境が厳しさを増しているのは確かだ。中国は軍事活動を強め、北朝鮮は核・ミサイル開発で周辺国を脅かす。
 林芳正官房長官は「日米同盟はかつてないほど強固となり、抑止力、対処力も向上した」と述べた。米国などとの連携により、中国包囲網が形成された一方、日本が米中対立の最前線に立つリスクも高まっている。
 懸念されるのは、緊張を緩和するための外交努力が足りないことだ。安全保障政策の実効性を高めるためには、抑止力の向上とともに、信頼醸成を図ることが大切だ。