英国の首都ロンドン…(2024年7月6日『毎日新聞』-「余録」)

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英下院総選挙で大勝を収めた労働党のスターマー党首=AP
 英国の首都ロンドンのダウニング街10番地にある首相官邸には、ラリーという著名なトラ猫がいる。2011年に連れてこられ、職名は「ネズミ捕獲長」。これまで5人の保守党政権の首相を見守ってきた
▲6人目で、初めて迎える労働党の首相である。英下院総選挙で労働党が圧勝し、党首のスターマー氏が政治のかじを取る。労働党政権はブラウン元首相以来、14年ぶり。経済成長重視の中道寄り路線を掲げ、産業国有化の公約取り下げなど党の左派色を修正しての勝利だ
▲結局、保守党政権の14年は欧州連合EU)からの離脱を巡る迷走と、その後遺症に終始したということだろう。ジョンソン元首相のスキャンダルや50日で終わったトラス政権など、混乱も続いた
▲スターマー氏は派手なパフォーマンスをせず、「退屈」とすら評される堅実さが持ち味だ。政権交代は民意の受け皿を持つ健全さの証明だろう。ただし熱狂なき圧勝は、現状への強烈な不満の反映でもある
▲欧州ではフランス国民議会選挙の第1回投票で極右勢力が伸び、決選投票が注目されている。さきの主要国首脳会議ではイタリアのメローニ首相を除き、「6人のレームダック(死に体)」とやゆされた。スナク英首相の退陣で、さっそく退場者が出た
▲米国のバイデン大統領は討論会の失敗で大統領選の候補交代論に直面し、内閣支持率が低迷する岸田文雄首相は秋の自民党総裁選への出馬をまだ表明していない。変化をどう読み取るか、目をこらさねばなるまい。