「暮らしと原発は地続き」全国53基の風景とは 写真家・広川泰士さんが作品展 中野で28日まで(2024年6月20日『東京新聞』)

 写真家広川泰士さん(74)が計53基の原子力発電所を撮影した写真集「STILL CRAZY」の発刊30年を記念した写真展が28日まで、東京都中野区のギャラリー「ありかHole」で開かれている。写真集に収めた作品から17枚を展示。周辺の景色も含めた構図で、原発が山や海岸を崩して造られたことを際立たせた。のどかな暮らしと原発が地続きであることを考える契機に、と広川さんは願う。(長竹祐子)
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全国の原発を撮影した写真家の広川泰士さん=中野区のありかHoleで
◆「次世代に残していいのか」本質を届けるモノクロ
 広川さんはファッションや広告など国内外で幅広く活動する写真家。1991~93年、建設中も含めて全国の原発に足を運んだ。きっかけは、米スリーマイル島原発事故(79年)と旧ソ連ウクライナチェルノブイリ原発事故(86年)。「どう処理していいのかわからないものを、次世代に残していいのか」との思いがあった。
 作品は全てモノクロ。余計な色を無くし、本質を届けるためという。
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東京電力福島第1原子力発電所=1991年10月24日、広川泰士さん撮影
 展示作品の一つ、東京電力福島第1原発福島県大熊町双葉町)の写真は「海側から撮りたい」と海に延びる防波堤でシャッターを切った。空の雲と静かな海の間に、しま模様の建屋群が整然と並ぶ。
 関西電力美浜原発福井県美浜町)は、海水浴客でにぎわうビーチの奥に原子炉建屋がある。「典型的な日本の海辺に、原発が入り込んだシュールな風景」
◆「原子力まだやってんの?」
 当時は電力会社社員に撮影場所を案内されたこともあった。「電力会社の方は真面目な方ばかり。用地買収のために地元の祭りに参加したり、酒を飲んだりして、サラリーマン人生を原発にささげた人はいっぱいいると思う」と振り返る。
 写真集のタイトルは、米歌手ポール・サイモンのラブソング「Still Crazy After All These Years」から。「いまだに原子力にこだわって『おまえに夢中』という意味と、まだやってんの、という両方の意味を込めた」
◆失われた景色…故郷・逗子での原体験

北陸電力志賀原子力発電所=1991年9月24日、広川泰士さん撮影
 心の奥底にあるのは故郷・神奈川県逗子市の風景。「海岸に松林があって江の島、富士山が見えて。お風呂屋さんの絵みたいな所だった」。砂浜や岩場を遊び場に育ったが、64年東京五輪のヨットレース開催で海辺に道路を造るための護岸工事で景色が失われた。「おれに断りもなく!」。理不尽さに怒った中学生当時の思いが、原発を見たときによみがえったという。
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作品について話す広川泰士さん(奥右側)
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作品について話す広川泰士さん
 企画した国際環境NGO「FoE Japan」理事の吉田明子さん(42)は「能登半島地震があった今年こそ、改めて広川さんの写真を見てほしい」。写真集は絶版されたが、残部を会場で販売する。
 午前11時~午後7時。入場無料。23日午後2時から広川さんのギャラリートーク(参加費千円)。申し込みや詳細はポレポレタイムス社=電03(3227)1405。
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中部電力浜岡原子力発電所=1991年10月23日、広川泰士さん撮影
 
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