<デスクの眼>文化、人種、価値観…共生を「自分事」とするには? 学生やミュージシャンがシンポジウム(2024年6月20日『東京新聞』)

 一口に「共生」といっても、思い浮かべる姿は人さまざまだろう。南山大(名古屋市昭和区)で8日、研究者とミュージシャン、記者が、学生らとともに、異なる文化を互いに認め合い、支え合って生きる意味を考えるユニークなシンポジウム(同大国際教養学部主催)が開かれ、約130人が活発に議論を交わした。(岩田仲弘、写真も)
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多文化共存を巡るグループでの議論について説明する学生たち=いずれも名古屋市の南山大で
◆「制度・政策と市民社会で土壌作りを」
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渡戸一郎・明星大名誉教授
 シンポでは、1990年代から外国人との共生を目指す市民活動に関わってきた渡戸(わたど)一郎・明星大名誉教授が日本の移民政策の課題について講演した。
 生産年齢人口が激減する一方、複数の異なる文化やルーツを持つ子どもたちが増えていくなか、渡戸氏は「多様な出身の子どもたちが希望を持って生きていけるように制度・政策と市民社会の双方からの土壌づくりが重要だ」と強調。包括的な差別禁止法の制定や政府から独立した人権機関の創設、母語や母文化を尊重する重要性を訴えた。
◆歌手がインドネシアで見た「共生」とは?
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日本語とインドネシア語でライブ演奏する加藤ひろあきさん
 吉本興業アーティストの加藤ひろあきさんは、約300民族で構成され「多様性の中の統一」を国是とするインドネシアで留学生活と芸能活動を重ねてきた。
 大学留学中の2006年に6000人近い死者を出したジャワ島中部地震に遭い、大学で結成された学生ボランティアに参加。「一緒に炊き出しをすることで、インドネシアの学生が自分を受け入れてくれた。そこでは、みんなが肌の色の違いを超えて共生していた」と振り返った。
 「外国での芸能活動は、その国の人たちから少なからず愛してもらわなければ成り立たない」とも強調。「言語、歴史、文化、生活様式など相手のことを知り、相手がうれしいと感じるのはどういうことか、探求し続けている」
 記者は、取材経験として米国で排斥された日系人の歴史を語った。
◆2つのバックグランドを持つ学生が語った思い
 南山大の学生も積極的に自らの体験を披露した。フィリピン出身で14歳の時に日本国籍を取得した榎倉ミナミさん(国際教養学部4年)は、日本、フィリピン双方の文化的背景が豊富であるが故にアイデンティティークライシスや疎外感に苦しんだ。高校の時にカナダに留学。多様な経験を持つアジア系として仲間から受け入れられた喜びを率直に打ち明けた。
 最後には、参加者全員がグループに分かれて、多文化共存をどう発展させていくか話し合った。グループごとに「違うことも個性だというマインドを持つことが共存につながる」「他人の背景、価値観、宗教観などを尊重した上で、自分の主張を通すことが大事だ」などと議論した内容を発表。それぞれが共生を「自分事」として考えようという姿勢が印象的だった。