二重国籍をめぐって蓮舫氏を批判する人たちに抱く“違和感”「日本で活動してきたのは周知の事実」(2024年6月9日『女子SPA!』)

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2024年5月27日の出馬表明会見 ※蓮舫氏公式サイトより
 2024年6月20日に告示され、7月7日に投開票が行われる東京都知事選挙
 2016年より8年間、東京都知事を務めている現職の小池百合子氏の近日中の立候補が予想される中、5月27日には立憲民主党蓮舫参院議員が出馬を表明し、さらに注目を集めている。
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2024年5月22日「令和6年度第1回東京くらし方会議」に出席する小池都知事※東京都ウェブサイト「知事の部屋」より
 これまでの小池都政を振り返った前編に続き、後編では、変化してきた小池都知事自民党の関係性、東京都の区市村長が小池氏におこなった出馬要請、蓮舫氏の二重国籍問題などについて、ヒップホップから政治コメンテイター、言論人としてマルチな活躍をしているラッパーのダースレイダー(@DARTHREIDER)が解説する(以下、ダースレイダー氏の寄稿)。
「小池vs自民党」の構図は消え、今は自公協力体制
 最近の小池都知事が応援した、東京15区の衆議院補欠選挙乙武洋匡候補(無所属)、目黒都議補選の井沢京子候補(自民党)は落選しています。本人の選挙ではないにしろ、かつてのような、選挙の強さが維持できているのかは未知数です。
 小池都知事は8年前に初めて都知事選に立候補した際、自民党と喧嘩をすると言い、崖から飛び降りる気持ち、という表現で無所属で都知事選に打って出てきました。「小池vs自民党」という対決を打ち出し、1期目の選挙に当選したわけです。ただし8年経った今、小池都知事は選挙でも自民党公明党との協力体制を強くすると公言するなど、自民党との距離が非常に近くなっています。
 実は小池都知事の元側近である小島敏郎さんの「私は学歴詐称疑惑の隠蔽工作に加担してしまった」という旨の告発(『文藝春秋』2024年5月号や外国人記者クラブでの会見)の中では、自民党学歴詐称の追求に手を緩めることとバーターにして、自民党との協力体制はでき上がっていったのではないか、という疑義が呈されています。
 その場合、現在の小池都知事自民党との協力体制というものも、実はこの学歴詐称ありきで、さらに言えば学歴詐称を隠蔽し続ける限り自民党との距離感は密接なままであるという可能性が指摘されているわけです。
 自民党は、この都知事選では独自候補の擁立を見送っていて、直近の衆議院補欠選挙でもすべて敗北しています。裏金疑惑への説明、およびそれを受けての政治資金規正法の改正の内容でも支持を回復できるような動きはできていません。
 自民党に対する逆風は今までになく強いものになっています。その自民党と一蓮托生のスタンスになってしまっているのがどう響くかが、小池都知事の個人としての選挙戦のポイントになってくると思います。また、自民党としても小池さんと相乗りすることで選挙に勝利し、これまでの連敗ムードに終止符を打ちたいという思惑もあるようです。
国政とは切り離せない都政
 一方の蓮舫さんは、立憲民主党を離党する意向を示しています。知事など地方自治体の長は党派性を超えて、さまざまな人の代表として知事職につくわけですから、党を離党して無所属で出馬することはよくあります。
 大阪府知事の吉村洋文さんのように、維新の会に所属したまま知事をしている人もいるので、必ず無所属でなければいけないということはありません。公約などはこれから叩き上げていくということですが、出馬表明の会見で明確に言っていたのは、「反自民」「非小池都政」というキーワードでした。
 自民党の裏金問題は地方議員も含めた党全体の問題です。その自民党と連携している小池知事に今後の都政を任せられるか? という意味で“小池都政をリセット”すると表明しています。
 これに対し、地方自治体に国政の状況を持ち込むべきではないとの批判もあります。だからこそ、立憲民主党を離党し、無所属で出馬するということではあると思いますが、地方自治体とはいえ東京都レベルの知事になったときに、国政と全く無関係ではいられないと思います。
 一方、今国会では地方自治法の改正もあり、むしろ国のほうが地方自治を弱める方向で動いているのでは? という批判もあります。今、地方自治と国政の関係について議論するのは大事なタイミングだと思います。
 小池都知事も、元国会議員です。前述したように自民党と喧嘩すると言って都知事選に出馬、当選。その後、自民党の二階元幹事長や萩生田自民党都連会長とは良好な関係を保ちながら東京五輪などの国家レベルのイベントでも存在感を発揮してきました。国政を持ち込むなという批判は、小池さん側からは持ち出せないとは思います。
区市村長が小池氏に出馬要請をする不気味さ
 都内に62人いる区市村長のうち、52人の有志が参加して、連名で小池都知事に出馬要請をしたことも話題です。
 これらの区市村長たちは、それぞれの自治体の長として選挙で選ばれています。各自治体の有権者都知事選の有権者でもあるわけですから、代理人が勝手に出馬要請を行うことには違和感があります。民主社会における選挙は、主権者の代理人を選んでいるだけです。都知事に誰がふさわしいかは、有権者が判断すれば良いことです。
 誰がこの出馬要請に加わったのかは記事に出ていますので、ぜひ見てもらって、誰が有権者を軽視しているか、誰が民主社会の構造を理解しているかを確認するのも良いと思います。
 この出馬要請に関しては、新宿区の吉住健一区長が呼びかけて取りまとめていったということです。一方で世田谷区の保坂展人区長は「誰が政策を争うかも見えてない時に、名を連ねるわけにはいかない」と、有志に加わらない意思を表明しています。
 有志に名を連ねた日野市の大坪冬彦市長は「当初は応援の依頼だった」と発言していることからも、知事からの要請があったのではないかという声も出ています。公明党都民ファーストの会からの出馬要請も同日に行われ、メディアも入れた儀式的な場が作られていたので、知事側が用意周到に準備してたのでは、と考えてしまいます。
 これと似たような風習としては、自民党元幹事長の二階俊博さんの三男・二階伸康さんの次期衆院選新和歌山2区からの立候補をめぐり、和歌山県内の全21町村でつくる県町村会が出馬要請をするというニュースが先日もありました。なんだか自民党と似たようなことをやっているんだなとは感じました。これも選挙戦の際の参考になるといいかなと思います。
蓮舫氏の二重国籍問題と、批判への違和感
 蓮舫さんは、今はなくなってしまった民進党の代表を務めていた時代があります。この時に、二重国籍の問題が指摘されました。もともと、台湾(中華民国)国籍を持っていましたが、日本国籍を取得した後も、台湾国籍を取得したままになっていたという指摘です。2016年に台湾籍を離脱したので今は二重国籍ではないですし、ずっと東京で育っていた人でもあります。
 蓮舫さんは僕が中学生ぐらいのときに、タレントとしてビートたけしさんの『スーパーJOCKEY』(日本テレビ系)に出てた頃からテレビでは知られていた存在でもあり、日本で活動してきたのは周知の事実です。ですが、この国籍問題に関して不思議だなと思うことが一点あります。
 二重国籍の問題を指摘するときに「中国」という言葉を使って批判する人が多いですが、台湾という国に対しての知識がちょっとでもあると、これを中国という言葉でひとまとめにはできないと思います。もちろん中華人民共和国側はそういう意図でしょうが、必ずしも中華人民共和国的な視点に立つ必要はないと思います。
 台湾では民主的な選挙が行われて、先日、頼清徳新総統が誕生しました。日本にも「台湾加油(=台湾がんばれ)」と台湾を熱く応援する人がたくさんいます。ネットにも、SNSアカウントに台湾を応援していることをわざわざ書いていたり、「台湾の民主主義を守れ」と発信をしている人もいます。
 こうした人たちは、台湾ルーツの蓮舫さんが日本人として立候補するのは素晴らしいことじゃないか、という反応をするかと思いきや、そうでもありません。SNSで台湾を応援していると言っているアカウントの中で、なぜか蓮舫さんの国籍になると「中国系の議員」と表現している人を見かけます。いやいや、そこはあなた、台湾を応援しているんだから一緒くたにはしないでしょう……と思うんですが、どうも蓮舫さんに限っては中華人民共和国的な視点に立ってものを言ってしまうようです。とても不思議です。
 都知事選には日本国籍でないと出馬できないので、今回の選挙戦において蓮舫さんの国籍は問題ではありません。蓮舫さんはかつて民進党の代表を務めていました。その際、短期間で代表の座を降りたことは、組織のトップとしての手腕が問われるとも思います。
小池都政を採点する機会
 この記事を書いている時点では、小池都知事朝鮮人虐殺への追悼文不送付に関しての蓮舫さんのスタンスなど、公約の中身について、まだ明確な発信はしていません。よって、今後の発言に基づいて判断していくことが大事になってきます。そして都知事選には、30名を超す候補者が出馬すると予想されています。
 小池都知事は現職なので、2期8年務めてきた中で、どういった都政をしていたんだろうという採点をする機会になると思います。小池都知事は8年間と結構長いこと知事を務めているなとも思いますし、もうあと4年やるべきかどうか。蓮舫さんの出馬のニュースが衝撃的だったこともあり、まだ小池さんは出馬表明していません。そもそも出馬するのか? それとも、これを機会に国政に転じる可能性もあるかもしれません。
 東京15区補欠選挙の際も、小池都知事が街頭に出ると多くの人が見に来ており、声援を送っていました。やはり人気があります。発信力、メディア戦略も含めた強いリーダー像に魅力を感じる人が多いのだとも思います。
 かたや、その対抗馬となる候補者たちが掲げる政策や、人物像は次々と明らかになってきます。出馬表明などを経て、2024年6月20日に告示、7月7日が投開票日です。東京都は非常に広いですから、さまざまな場所で選挙戦、選挙活動、街宣演説活動などが行われていきます。
選挙のお祭りを一緒に楽しもう
 東京都の有権者であるならば、あくまでこの「選挙のお祭り」の主催者は僕たちです。僕たちの代理人として誰がふさわしいのかを判断するために、なるべく実際に候補者の街頭演説などを見に行き、生の声で自分の考えや政策をどのように発信しているのか、どんな情熱を持っているのか、そして候補としてどのように振る舞っているのかを見に行くといいと思います。今回は現職である小池さんと蓮舫さんの話ばかりしてしまいましたが、実際に人を見ることで自分の代理を頼めるのは誰かがわかってくると思います。
 東京都民は投票権というプラチナチケットを持っているので、ぜひそれを行使して、選挙のお祭りを一緒に楽しみましょう。僕の好きなヒップホップ・グループ、ソウル・スクリームの曲に「TOu-KYOu」があります。「東京」と「問う、今日」をかけたタイトルです。今現在、自分たちが東京都についてどう考えてるのかを問う機会として、この選挙を活用できればいいと思います。
<文/ダースレイダー 構成/女子SPA!編集部>
1977年、フランス・パリ生まれ。ロンドン育ち、東京大学中退。ミュージシャン、ラッパー。バンド、ベーソンズのボーカル。吉田正樹事務所所属。2010年に脳梗塞で倒れ、合併症で左目を失明。自身のYouTubeチャンネルから宮台真司神保哲生プチ鹿島町山智浩らを迎えたトーク番組を配信している。2023年には映画『劇場版センキョナンデス』『シン・ちむどんどん』(プチ鹿島と共同監督)公開。近著に『イル・コミュニケーション―余命5年のラッパーが病気を哲学する―』(叢書クロニック)など